中受にも高受にも役立つ「本質的な学力」とは?:第35回

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中学受験は子どもの将来のためと、中学受験生のママは信じています。でもそれは100%確実ではありません。そこで真に将来のためになる中学受験にするため、あるいは中学受験しなくても将来のためになる学力をつけるため、ぜひ読んでもらいたい本をご紹介します。

◆中学受験のマイナス面に注目

小学生の親が高校受験のために今からすべきこと

多くの親御さんが中学受験を選択した理由は何かといえば、わが子の将来を考えてのこと。受験でよりよい学習環境を手に入れ、大学受験を有利に進め、就職などその後の人生をより幸せに豊かに…と願う親心が、その原点にあります。

でも中学受験が佳境に入ると、そんな原点などどこへやら、テストの点や偏差値に心を奪われ、視野狭窄に陥って子どもに接してしまったという親御さんは多いでしょう。世間で言われる中学受験否定論の理由のひとつは、こんなところにあります。

実は、中学受験指導をしている塾講師や家庭教師が中学受験のマイナス面としてあげることはほぼ一致しています。このふたつです。

・暗記に頼った学習になってしまう
・課題をこなすだけの受け身の学習習慣が身についてしまう

このふたつのデメリットは、考える力が育たないこと、自分で意欲的に学習して課題を発見する力がつかないことを意味します。ですから、このような学習習慣が身についてしまうと、受験勉強中にピタッと成績の伸びが止まったり、志望校に合格しても入学後についていけなくなったりします。もっと伸びるはずだった学力がそこで止まってしまうのです。

受験指導をしている塾の講師は、そんなケースを多く見ています。そしてその原因は点数を上げることに終始する塾の指導法にもあるけれど、もうひとつ、親御さんの姿勢や考え方にもあると内心考えているのです。

でもどうすれば、暗記・受け身でない学習習慣を身につけることができるのでしょう? 中学受験後も、さらに能力を高めていける学習にするにはどうしたらいいのでしょう?

◆付け焼き刃の学力VS本質的な学力

そこで、ご存じおおたとしまささんが、1年前に上梓した『小学生の親が高校受験のために今からすべきこと』をご紹介したいと思います。タイトルに「高校受験」とありますが、高校受験のすすめでもマニュアルでもありません。この本の「はじめに」と「おわりに」を読んでいただくと、著者がこの本に込めた思いがはっきりわかります。受験に受かるだけの「付け焼き刃の学力」ではなく、「本質的な学力」を身につけるためにどうしたらいいのか、おおたさんは具体的かつ詳細に、同じ子を持つ親としてアドバイスをしてくれています。

おおたさんは、本書を、高校進学実績で不動の地位にある京都の老舗学習塾「京進」への取材をもとに書いています。「京進」でも、塾開設当初は少しでも偏差値の高い学校に入れること、テストの点数をあげることに全力を注いでいたとか。しかしある時、それでは受験が終わってから子どもが伸びなくなることに気づき、以来、知識を詰め込むのではなく、思考力や表現力、物事を見る姿勢など、「本質的な学力」「見えない学力」を養う方向に転換していったそうです。その後も「京進」は、京都全域で高い進学実績を誇っているので、「本質的な学力」は受験にも効果があることが証明されています。

さて、本書の構成は以下のとおりです。

第1章 これからの入試で問われる力とは?
第2章 「遊ぶように学ぶ」経験が学力の土台になる
第3章 やる気を伸ばし、自ら学ぶ子を育てる
第4章 小学生のうちに身につけておきたい学力
第5章 親がすべきこと、すべきでないこと
第6章 子どもたちはどんな未来を生きるのか


第1章から第3章は、わが子に「本質的な学力」を身につけてほしいと願う親御さんが知っておくべき教育界の現状と方向性、それに親の関わり方の章です。

そして、第4章「小学生のうちに身につけておきたい学力」の冒頭には、なんと「学校のテストは満点が基本」というフレーズがありました。親御さんの時代は80点とれていればOKだったかもしれないけれど、今は事情が違うというのです。さらに、「高校受験で難関校合格を目指したいのであれば、小学校の教科書レベルでは足りません」とも書いてありました。塾や通信教育を活用するか、そうでなければ親御さん自身が、この章に書いてあるポイントや入学前・低・中・高学年に分けてリストされている項目ををサポートしてほしいと、おおたさんは語ります。

◆中学受験をしてもしなくても大事なことは同じ

続く第5章には、「9歳までの子の親がやってしまいがちなNG」が8つ、「10歳以上の子に親がすべきアドバイス」が3つ、それに「叱り方のルール」が6つほど紹介されています。日々身近に接する親子に理想論は通用しない、そこでこんなふうにしては…と、おおたさんの親御さんへの心遣いに満ちたアドバイスが続きます。

この章に、とても大事なメッセージがふたつありました。それを紹介しておきます。

中学受験が家族にとって「いい経験」になるには二つの条件があります。一つは親が、合格・不合格ではなく、子どもの成長そのものに主眼を置いていること。もう一つは、中学受験勉強を通して子ども自身が自立することです。(P139)

中学受験せずに高校受験で勝負すると決めた家庭であれば、小学生の時点から、『見える学力』の向上にとらわれず、自ら学ぶ力を育てることに時間をかけることができます。親も焦らず忍耐強く子どもを見守ることができます。それが中学受験をしないという選択のメリットでしょう。逆に言えば、中学受験をしないならその代わりに、小学生のうちから、自ら学ぶ子に育てる工夫を親はすべきです。(P140、京進の講師談)

そして最後の第6章。子どもたちが大人になって活躍する未来を想像して、子育てを考えるのは難しいことです。でもここに書いてあるのは、何か新しいことを知っておきなさいというのではありません。大事なことはなんだろう? 子どもにとってだけでなく親にとっては何が大事? そんな原点を振り返ることは、心身ともに多忙な中学受験生を持つ親御さんだからこそ、なおさら大切なことのように思われました。中学受験生の親御さんへ、中学受験をやめる決心をした親御さんへ、本書をぜひ読んでいただきたく、ここに推薦いたします。

小学生の親が高校受験のために今からすべきこと小学生の親が高校受験のために今からすべきこと,おおたとしまさ

小学生の親が高校受験のために今からすべきこと
おおたとしまさ著、旺文社刊、1200円+税

中学受験をしないのであれば、小学生の間は毎日遊んでいていいのでしょうか。少し前までは、それでよかったのかもしれません。しかし、これからはそうはいきません。「脱ペーパーテスト」を掲げる大学入試改革や、「グローバル人材」の育成など、日本の従来の教育観を揺るがす議論が今盛んです。「本質的な学力に焦点を当てよう」ということです。付け焼き刃ではダメ。つまり「時間がかかる教育をやっていこう」という話です。中学3年生になってから高校受験勉強を一生懸命やればなんとかなるという話ではなくなるのです。小学生のうちの勉強は、将来の高校受験そして大学受験、さらには社会人になったときのための土台づくりです。育児・教育ジャーナリストの著者が、京都の難関高校入試において高い合格実績を誇る学習塾「京進」の「リーチングメソッド」を徹底的に取材し、小学生のうちから本質的な学力の土台を築くための方法を探りました。教育の最新事情についても、著者ならではの斬新な視点を織り交ぜて考察されています。小学生の親、必読の1冊です。…購入はこちらから

おおたとしまさ,エデュママブック

著者のおおたとしまささん
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートで雑誌編集に携わり、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動を行う。各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演も多数。心理カウンセラーの資格、中高の教育免許、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新聞出版)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)、『進学塾という選択』(日本経済新聞出版社)、『男子御三家 なぜ一流が育つのか』(中公新書ラクレ)、『ルポ塾歴社会 ―日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体―』(幻冬舎新書)など多数。


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