小学・中学受験がテーマの小説が登場:第38回
inter-edu’s eye
わが子をいい学校に入れようと奮闘するママとその周辺の人々を描く感動的な小説が発売されました。登場する家族、私立校、受験塾、どれもが今の時代をそのまま反映していて現実味たっぷり。小学・中学受験を目指すエデュママは、ぜひご一読を!
◆子どもの受験を小説にするとこうなる?
小学校受験・中学受験をテーマにした小説は『ママたちの下剋上』。このタイトルは、登場人物のひとりが自分たち夫婦以上の学歴をわが子に与えたいと悪戦苦闘するようすから名付けられたのだと思います。
この作品には、そんなお受験ママたちとともに、大手企業のOL、私立小学校の校長先生や職員たち、小学校受験の塾の先生など、さまざまな立場の女性が登場し、今の女性たちの置かれた立場や思いなどがリアルに描かれています。女性の生き方そのものを考えさせる内容にもなっているのです。
主人公の香織は、夫の希望もあって妊活に励むために大手下着メーカーを退社。ところが母校の校長先生から学校の広報を手伝ってほしいと頼まれ、伝統ある私立小学校の臨時職員になりました。小学校の職員として初めて、お受験をめぐるさまざまな出来事に遭遇することになります。
しかも香織の姉は、ふたりの子どもの受験に奮闘するお受験ママ。香織と姉の関係からは、受験当事者(姉)とそうでない女性(香織)の感じ方の違いがありありと見えてきます。また香織の目を通して、伝統ある私立学校が置かれている厳しい現状、生徒集めや生徒の受験指導のようすが、まるで本当に存在する学校のように感じられます。
◆作家自身の体験と取材で現実味たっぷり
担当編集の挽地真紀子さんによると、著者の深沢潮さん自身、10年前にお子さまの小学校受験を経験されたそうです。そしてこの作品の執筆にあたっては、現在の学校や塾の状況、受験する親子などをあらためて取材して、リアリティを追求なさったとのこと。
「受験にのめり込みすぎて周囲がまったく見えなくなっていく母親や、母親の期待に応えようとするあまり心を病んでいく子どもなど、深沢さん自身が取材を通じて感じた親子の心の危うさが存分に投影されている小説です。とはいえ受験を否定も肯定もしない中立な立場はしっかり貫かれており、そこに作家自身の体験が生きているように感じます。
深沢さんは、こうおっしゃっていました。『私立校受験には、公立とは違ったカリキュラムや校風を選びとれる利点があります。けれど幅広い生徒が集まってくる公立もまた、得がたい経験ができるところ。受験するしないを決める前に子どもの適性を見極めること、そして向いていないと感じたら違う環境を用意してあげられるようにすることが、親としては大切なのではないでしょうか』と」(挽地さん)
◆小説を楽しみながら今の自分を再確認
息子の小学校受験に血眼になる香織の姉の言動には、共感を感じる人もいれば、反発を感じる人もいるでしょう。また母親同士の駆け引きや足の引っ張り合いについても、“あるある”と思う人もいれば、“信じられない!”という人もいるでしょう。そして私立校内の状況については、“受ける側にもいろいろあるけど、学校側にもいろいろ苦労があるのね”という気持ちになるでしょう。
この作品の面白いところは、次はどうなるんだろうという小説本来の楽しみを味わいながらも、時折自分の現実と照らし合わせて真剣に考え込んでしまうところです。しかも読者自身が今置かれている立場によって、同じ状況が違った風景に見えてくるのではないかと想像します。そのおかげでしょうか、読み終わったとき、読む前よりちょっぴり理性的になった自分に気がつきます。前出の挽地さんはこう語ります。
「親がお受験を選択するのは、何より子どもに幸せな人生を歩ませたいから、という思いからでしょう。にもかかわらず、実際にその準備をスタートさせると、母親同士の競争になったり、他の子との偏差値競争になったり、意識の中で勝ち負けが優先してしまいがちです。
どうも女の世界というのは、いつのまにか他者との関係性に呑まれ、気がつけば本来自分がいたいと思った場所と違う場所にたどり着いてしまうことがあるような気がします。この小説は、お受験を舞台に、そんな女同士のがんじがらめの世界を見事に表現しています。
今の私は、本当にやりたいことに向かって進むことができているのか? 子どものためになっているのか? この作品に登場してくるママたちを通じて、自分自身を再確認していただければうれしいですね」
小学校受験も中学受験も、親子にとって精神的に過酷なチャレンジです。だからこそ自分を客観的に見る習慣をつけておかないと、いつのまにか間違ってしまった…ということになりかねません。この小説は、ストーリーを楽しみながらも自分を見つめ直す、そんな得難い体験を与えてくれる作品です。
ママたちの下剋上
深沢潮著、小学館刊、1500円+税
ママの地位は子どもの成績で決まる?! 「お受験」という名の母親たちの代理戦争。この前まで自分が誰かの子どもだった母親たちが、突如として一人の人間を育てることを課される。とまどいを周囲に悟られないように、孤独な子育てと戦う母達の下剋上の物語。
下着メーカーの広報担当としてそれなりに自信を持って働いていた香織だが、退職後手伝うことになった母校「聖アンジェラ学園初等部」の広報の仕事は、下着メーカーのそれとは全く違っていた…。
子どものお受験を経験していなくても、この物語には母親だったら思い当たることがたくさん出てきます。母親の優しさと、残酷さ。一番大切なことを見失わないように、子育て中のお母さんに是非読んで欲しい一冊です。…購入はこちらから
著者の深沢潮(ふかざわ うしお)さん
東京都生まれ。2012年新潮社主催の第11回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。著書に受賞作を含む短編連作『縁を結うひと』(新潮文庫)、ママたちが抱える悩みを描いた『ランチに行きましょう』(徳間書店)、『伴侶の偏差値』(新潮社)、『ひとかどの父へ』(朝日新聞出版)、『緑と赤』(実業之日本社)がある。
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