中学受験「大学付属校」のメリットと落とし穴:第41回

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エスカレーター式で大学に入れる付属校を、中学受験の選択肢のひとつと考えている皆さん。教育ジャーナリストのおおたとしまささんが、有名私立11大学の付属校の現状を新刊『大学付属校という選択 早慶MARCH関関同立』で明らかにしています。内部進学の実態から付属で学ぶ意味まで、深く掘り下げられた本書は必読です!

◆有名私大付属校の人気が上昇中

大学付属校という選択 早慶MARCH関関同立

中学受験に最も詳しい教育ジャーナリスト、おおたとしまささんの新刊をご紹介しましょう。『大学付属校という選択 早慶MARCH関関同立』です。タイトルにもあるように、早稲田、慶應に加えて、MARCHの5大学と関西の4大学、つまり有名私立大学11校の付属校で学ぶことの意味・意義について論じた新書です。

中学受験では、今、こうした私大付属校の人気が高まっています。いわゆる内部進学で優先的に大学に入れるメリットに加え、2020年度に始まる大学入試改革への不安が加わったからだと言われています。皆さんの中にも、“何度も辛い受験をさせるのはかわいそう。大学まで行ける付属はどうかな?”と思ったことがある方が多いことでしょう。

こういった考え方は間違っていないのでしょうか? エスカレーター式で大学に入れるという認識は正しいのでしょうか? そこに盲点はないのでしょうか? 大学付属で学ぶとはどういうことか、通説に惑わされずに正しく理解するためにぜひ読んでいただきたい必読の書です。

◆大学との関係はさまざま

まず、最初に申し上げておきたいのは、「付属」というおおざっぱな認識は危険ということです。大学とその傘下にある中学校・高校との関係は、各大学ごと、個々の学校ごとに大きく異なっています。本書で取り上げられている11大学はどれも戦前からの伝統校ですが、傘下の学校は大学と同じくらい古いところから、2000年以降に傘下に入った学校までさまざま。校風も各学校ごとに違います。さらに男女別学だったのが共学校になったり、付属でありながら他大学への進学指導に力を入れていたりと、以前とは学校自体が変貌している付属もあります。

もちろん優先的に大学に入れる内部進学制度も、学校ごとに違います。本書の第2章、第3章、第4章には、個々の大学ごとに傘下の学校それぞれとの関係、内部進学の状況などが、図も活用してていねいにレポートされています。志望校を選ぶ際には、必ず確認しておいてほしい内容です。

◆付属校は大学入試改革を先取りしている

さて、本書のもっとも大事なところは、「第1章 受験競争の猛威を免れた『自然保護区』」と「第5章 一貫教育という『両刃の剣』と大学入試改革」でしょう。

おおたさんは、第1章で、今の時代の大学付属校という立ち位置を、関係者への取材とデータから解き明かしています。中学受験で付属に合格する難易度と大学受験の難易度の比較や、内部進学をせずに他の難関国公立や医学部を受ける生徒の状況、さらには各大学の就職状況までレポートしてあります。その中で印象的だったのは、以下の部分です。

大学付属校ではもともと大学受験対策に規定されない教育を実践していた。大学入試改革の議論を横目で見ながら、「うちには影響がない。探究型学習にせよアクティブ・ラーニングにせよ国際交流にせよ、うちではずっと前からやっている」と大学付属校の教員たちは口を揃える。実際、大学付属校には、先進的な理数教育を行うスーパーサイエンスハイスクールや、国際教育に力を入れるスーパーグローバルハイスクールに指定されている学校が多い。(P17)

国が予定している大学入試改革の方向を、先取りしているのが付属校だということです。その内実には各校による違いがあるとはいえ、大学という資金的・人的後ろ盾を持っている付属校は、すでにさまざまな先進的な取り組みを行っています。これは、付属校に入る大きなメリットといっていいでしょう。

◆大学付属校の『両刃の剣』とは?

最後の第5章は、付属校出身者への取材報告から始まります。そこに登場する慶應出身の3人の社会人の言葉は、とても重いものでした。当たり前のことではありますが、学校が同じというだけで人生が同じに染まるわけではありません。「慶應義塾中等部そして慶應義塾高等学校という同じ窓から見た景色も三者三様。慶應義塾に対しても付属校という環境に対しても、評価には階調がある。(P244)」。このことは、中学受験を前にする親御さんが、あらかじめ心に刻んでおかなければならないことだと思います。

さらに、おおたさんは大学付属校で学ぶ利点を大きく3つにまとめ、それぞれの裏側にひそむ問題点を抽出しています。それは、「大学の資金力・人的資源を利用できる」「社会に出るまで一つの集団の中で育つ」「内部進学制度で大学に行ける」の3つ。長年中学受験を取材してきたおおたさんならではの深い考察が展開されていて、かいつまんでご説明するのが難しい部分です。ぜひご自身でお読みになって、お子さまの場合に即して考えていただきたいと思います。

たとえば、「内部進学で大学に行ける、すなわち大学受験がないという『両刃の剣』の切れ味は格段に鋭い。取り扱いには細心の注意が必要だ。(P252)」とおおたさん。そして「付属校に長くいればいるほど『学力』に差ができるというのは、卒業生、教員にほぼ共通した見解だ。(P252)」と書いてあります。大学受験がないために怠けてしまう生徒が出てくるというのは事実のようです。

さらに、「一般の進学校よりも留年の可能性は高い。慶應義塾の二つの中学校については、義務教育課程であるにもかかわらず、留年する生徒がときどき出ることで有名だ。(P253)」。おおたさんは、取材した卒業生や教員から、「大学受験がないということを生かすも殺すも生徒本人次第」という言葉を何度も聞いたそうです。“何度も受験させるのはかわいそうだから”という思いだけで付属を選ぶと、結果的に子どもの可能性を摘んでしまうこともありそうに思えてきました。

大学受験がないことを、“楽ができる”ととらえるか、受験勉強ではない、より本質的な学習ができると期待するかは、大きな違いです。付属校受験では、受験する親子の姿勢こそ問われているのかもしれません。大学という後ろ盾がある恵まれた環境を存分に生かすように、お子さまと話し合ってみてはいかがでしょうか。

多くの卒業生、教員、関係者の生の声が取り上げられ、かつジャーナリストの偏りのない目で分析された「大学付属校」の現在。本書でレポートされた現状と考え方をきっかけに、お子さまにとってよりよい選択ができるよう祈っています。

日経プレミアシリーズ『大学付属校という選択 早慶MARCH関関同立』,oおおたとしまさ

日経プレミアシリーズ『大学付属校という選択 早慶MARCH関関同立』
おおたとしまさ著、日本経済新聞社刊、890円+税
大学入試改革開始を2020年度に控え、中学受験で大学付属校の人気が高まっている。入試改革の不透明さを回避するためだけでなく、大学受験にとらわれることのない教育そのものが「脱ペーパーテスト」路線の高大接続改革を先取りしているからだ。早慶MARCH関関同立の11大学に焦点を当て、大学付属校で学ぶ意義を探る。
第1章 受験競争の猛威を免れた「自然保護区」、第2章 早慶付属校という選択、第3章 MARCH付属校という選択、第4章 関関同立付属校という選択、第5章 一貫教育という「両刃の剣」と大学入試改革。…購入はこちらから

おおたとしまさ

著者のおおたとしまささん
1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートで雑誌編集に携わり、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動を行う。各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演も多数。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許、私立小学校での教員経験もある。著書は、『男子校という選択』『女子校という選択』『中学受験という選択』(以上、日経プレミアシリーズ)、『名門校とは何か? 』 (朝日新書)、『男子御三家 なぜ一流が育つのか』(中公新書ラクレ)、『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』 (幻冬舎新書)など多数。


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