中学受験をはじめる前にやっておくべき3つのこと
inter-edu’s eye
中学受験に舵を切った親御さんは、今何を感じていますか? 楽しいイメージとはほど遠く、苦行と感じていたり不安だったり…。それとは逆に、塾に入れば合格も同然と楽観視しているかもしれません。そんな方に今必要なこととは何でしょう。おおたとしまささんの新書「中学受験『必笑法』」にどうやらそのヒントがありそうです。
今回取り上げた著書:中学受験「必笑法」(中公新書ラクレ)
中学受験に「必勝法」はないが「必笑法」ならある――。第一志望合格かどうかにかかわらず、終わったあとに家族が「やってよかった」と笑顔になれるならその受験は大成功。他人と比べない、がんばりすぎない、子どもを潰さない、親も成長できる中学受験のすすめ。気鋭の育児・教育ジャーナリストであり、心理カウンセラーでもある著者が、不安や焦りがスーッと消える「コロンブスの卵」的発想法を説く。「中学受験の新バイブル」誕生!
3年間の全体像を把握すること
インターエデュ: 中学受験のスタートは「塾選び」からと思っていましたが、著書を読んでその前に何か心構えのような準備が必要なのではと感じました。
おおたとしまささん(以下、おおたさん): 中学受験に対する覚悟ができていなかったり無知であったり、準備不足のままなんとなく中学受験を始めてしまった親は、想定外のことにぶつかるとあたふたしてストレスや焦りを感じることが多くなるようです。その感情は子どもを直撃します。子どもには逃げ場がなく、親からの攻撃を100%もろに受けてしまうため、子どもを痛めつけるだけの中学受験となってしまいます。
中学受験をスタートさせる前にやっておくことは3つあります。まず「中学受験の全体像の把握」と「覚悟」。そして、その2つを踏まえて「なぜ中学受験をするのかという問いを深く考える」ことをしてほしいと思います。それができているのとできていないのとで、3年間の穏やかさ険しさが随分と変わってきます。
インターエデュ: では最初に「中学受験の全体像の把握」についてですが、通塾がスタートする新4年生の2月から受験までの3年間、どのような流れになるのでしょうか?
【4年生】塾との信頼関係を築く
おおたさん: 4年生の時点では通塾が週2回程度なので、習い事と塾とを両立できるぐらいに、時間的なゆとりがあります。そこでやっておきたいのが塾との信頼関係を築くことです。家や学校でこんなことがあったと親は塾の先生と情報共有をしながら、コミュニケーションの取り方や、勉強のやり方を探っていってほしいと思います。
こうして4年生のうちに子ども・親・塾との三角関係を安定させておくと、5・6年生で成績ややる気のアップダウンがあっても、塾に安心して任せられると思えて不安から解放されます。5・6年生の難しい時期に向けて状況を整えていく時期だと捉えてもらいたいですね。
成績に関しては、一喜一憂する時期ではありません。点数が低いからと無理にやらせて短期的に点を上げても意味はありませんし、慌てる必要もありません。もし塾についていけないと感じたら、負荷をかけるよりもマイペースにできる、レベルに合った学力帯の塾へ転塾する。そういった判断をするのも4年生のうちです。
【5年生】子どもの学力の現実を認める
5年生になるとぐっと学習の難易度が上がります。5年生で成績が安定している子はまだ余裕があるんですよね。反対に、これまで勉強時間を増やしながら頑張って点数を取っていた子は、だんだんと点が取れなくなり、5年生の後半になると成績が落ちてしまうことも。その状況をさらに勉強時間でカバーするとなると、とても辛い中学受験になってしまいます。
成績に伸び悩む子の“必笑法”としては、学力の現実を認めてもう少し余裕のある中学受験にすることです。頑張って偏差値を5上げなくても、その時の実力で十分にいい学校を選べますから。ここで親がアクセルを踏み込みすぎるのは危険だとアドバイスしたいです。
【6年生】夏までは無理をさせないこと
塾にもよりますが、6年生になった時点で中学受験に必要なカリキュラムをほぼ終えている状態なので、入試に向けてどんどん精度を上げていく時期になります。夏休みは「受験の天王山」と言われているように一番の頑張りどころです。この夏にどれだけ頑張れるか、どれだけ“前向き”に勉強できているかが秋以降の成績に関わってきます。
この夏を乗り越えるためにも、それまでに無理をさせないことです。ギリギリの状態で夏を迎えると夏休み途中で息切れしてしまって、秋以降失速してしまう可能性があります。秋の模試では、志望校合格までの射程距離が見えてきます。秋以降はひたすら過去問を解いて、志望校との相性を高めていく時期となります。
このように、4・5・6年生ごとの中学受験との向き合い方を知識として知っておくことも「必笑法」の一つです。目の前の成績を取ることだけで精いっぱいになるのではなく、3年間の流れを踏まえた戦略的な取り組み方をすることが大事です。
子どものせいにせず、自分の未熟さを受けとめる「覚悟」を持つ
インターエデュ: 次に「覚悟」についてですが、中学受験に対してどんな覚悟が必要なのでしょうか。
おおたさん: 中学受験というのはある意味「種目」のようなものであって、中学受験に向いている子、向いていない子がいます。勉強はやっただけできるようになる側面があるけれど、レベルが高くなればなるほど越えられない壁があり、限界はあるのです。「いや、もっと頑張れるはず、まだ勉強できる時間がいくらでもある」と親は思いがちですが、もっと頑張れる力というのも人によって限界があります。子どもの学力の現実を受けとめ、ありのままの子どもの姿を認める覚悟が大事です。
裏を返せば、ありのままの姿を認められないのは、こうなってほしいという親自身の願望を子どもに叶えてもらおうとしているからです。子どもが実現してくれないからと、イライラしたり情けなくなったりするのを子どものせいにするのは、親自身の中にある未熟さが原因。中学受験は残酷なまでに親の未熟さをあぶりだします。中学受験を考える前に、子どものせいにせず自分の未熟さを受けとめる覚悟をしてほしいと思います。
インターエデュ: 親自身が中学受験を経験していて、さらに中学受験が当たり前の地域に住んでいると、「覚悟」という意識が持ちにくくないでしょうか。
おおたさん: なんとなく中学受験を始めたのに、どうせやるなら難関中学を目指して当然だと思い込んでいる親は、もっとも中学受験をさせてはいけない親です。大変な中学受験になってしまう恐れがあります。しかし幸か不幸か親の思い通りの結果が得られてしまうと、中学受験は当然だ、努力すれば難関校にだって入れるという価値観を子どもに植えつけてしまい、そういう価値観の人生しか知らない、他者の人生の尊さが分からない子になってしまう可能性があります。
中学受験をすることは当たり前ではないし、偏差値60以上は統計的に15%しかいないわけだから誰にでもできることではありません。ただ、そういう価値観を持っていたとしても、中学受験の過程でいろいろな現実とぶち当たるうちに、私が今言ったことがかすかにでも頭に残っていれば救いになることもあるのかなと。
「なぜ中学受験をするのか」深く掘り下げて考えること
インターエデュ: 「なぜ中学受験をするのか」については、どうお考えでしょうか。
おおたさん: 中学受験をする根本的な意味は、高校受験がないこと。高校受験がないことで子どもは思春期をフルに満喫でき、親子で余裕を持って過ごせる。どんなに偏差値が低くても中高一貫校に行く意味はあるんです。
それと、私立にはそれぞれのカラーがあるので、子どもの個性にあった学校に出会うことができます。とくに個性の強い子は水の合う環境で過ごせることが、私立を目指す根本的な意味合いです。それは偏差値とは関係ありません。中学受験をする目的を偏差値に関係ないところに置けば、親の気持ちにも余裕ができ、無理をしない中学受験ができます。
でも、いい大学に入れる可能性を大きく取って置くために中学受験をする、という方は多いんでしょうね。そうなると偏差値60以上じゃないとダメだという考え方になってしまいます。せっかく中学受験するんだから偏差値60以上の学校に入らないと意味がないとか、第一志望に入れなかったら高校受験でリベンジだとか、中学受験に対してノルマみたいなものを決めてしまうのは違うと思います。どんな結果でも素晴らしいと認めてあげられないのであれば、中学受験をすべきではないと私は思います。
次回の記事は、「中学受験を『必ず笑って終わる』ためには?」です。お楽しみに!
おおたとしまささん
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・麻布高等学校卒業、東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。教育や育児の現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。心理カウンセラーの資格、中高の教員免許を持ち、私立小学校での教員経験もある。著書は『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『追いつめる親』(毎日新聞出版)など50冊以上。
おおたとしまささん著書:「受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実」(新潮新書)
激変を続ける受験の世界。国公私立に海外進学、幾多の塾・予備校…親子の目の前に広がる選択肢は多様化の一方だ。いま勢いのある学校や塾は? 東大生の3人に1人が小学生でやっていたこととは? 受験に勝つ子の「3条件」とは? 東大医学部合格者の6割超が通った秘密結社のような塾がある…? 子どもの受験・進学を考えるようになったら真っ先に読むべき入門書、誰も教えてくれない“新常識”が明かされる。
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