子どもが“グローバル社会で生き抜く力”を身につけるために知っておきたいこと【前編】
inter-edu’s eye
お子さまにどんな質問をしていますか? ママのカッコ悪い姿を見せていますか? 今回のインタビュー相手は、アメリカ・ワシントンDCに在住し、ライフコーチとして活躍中のボーク重子さん。福島県出身の彼女は、元外交官のアメリカ人と結婚し、1人娘を育てながら、ワシントンにアートギャラリーを開いたり、オバマ元大統領らと並んで「ワシントンの美しい25人」に選ばれたりという、絢爛たる経歴の女性です。
中でもエデュママが気になるのは、2017年に娘のスカイさんが「全米最優秀女子高生コンテスト」に優勝したという実績に裏打ちされた、世界基準の教養の育み方ではないでしょうか。「娘の前ではかっこ悪いママなんです」と語る重子さんに、お話を伺いました。
グローバル社会と日本のローカリズムには大きなギャップがある
インターエデュ(以下「エデュ」): 親はわが子に「一人で生きていく力」を身につけてほしいと願っています。けれども、受験やよい会社に就職をすることが目標になっていて、重子さんが著書でおっしゃっている「“グローバル社会で生き抜く力”を養う」という考えとは、少し違うと感じています。この認識のずれについて、どうお考えですか。
重子さん:「うちの子は外国には行かないからグローバル社会とは関係ない」と考える方もいらっしゃいますよね。でも、グローバル社会とは、「人材、文化、政治、経済が国境を超える」ということ。こう考えると、日本はすでに立派なグローバル社会になっています。国や国境を越えていろいろなサービスが作られるようになったり、多くの商品が流通したりと、便利で自由な時代ですよね。でも、グローバル社会には素晴らしい面だけでなく、デメリットもあるんですよ。
たとえば有能な人材がどんどん海外から日本に入ってきて、競争が激しくなり、日本人の職がなくなることもあるし、給料が下がる可能性だってあるんです。優秀な外国人留学生たちの中には日本で勉強する、そのまま日本に就職する人がたくさんいますから。
今の子どもたちはこういう優秀な留学生たちと協働する時代に生きています。だからこそ、グローバル社会でいったい何が起こっているのか、日本のローカリズムとの違いは何なのかを知っておく必要があります。
エデュ: 今回、子どもの教養についての本を執筆されたのは、そのような思いからなのでしょうか?
重子さん: 本を書いた大きな理由は、2つのことを伝えたかったからです。1つ目は、グローバル社会と日本のローカリズムには大きなギャップがあるということ。日本人のが控えめな性格や謙遜を美徳とする姿勢がグローバル社会で同じように評価されるかというとそうではないのです。このギャップを知らないと知らず知らずのうちにチャンスを失うことにもなりかねません。
私もアメリカに来た頃は、まさに控えめで謙遜が習慣、そして指示待ち人間でした。褒められたら「そんなことありません」と否定し自分からは話しかけられず、質問されても意見を言えないからどこに行っても壁の花。「何にもない人」と思われていたようです。でも、どんなに親や夫が偉い人でも、グローバル社会では、「あなたはだれ?」「あなたはどう思うの?」が基本。言うに事欠き「うちの夫は……」なんて言っていると、だれにも相手にされません。
周りを観察してみると、親も子もみんな堂々としています。英語が上手ではない人もいましたが、そんなこと気にせずにコミュニケーションをとっています。そんな人たちを観察するうちに日本とのギャップを思い知り、それからは勇気を出して話しかけたり、意見を言ったりすることが大切だと思うようになったのです。
そこで、かつての私と同じように悩んでいる人たちのために、少しでも役立つことができたらと思い、筆をとることを決めました。
本を書いた2つ目の理由ですが、日本人には「倫理観」や「気遣い」といった、AIには代替不可能な素晴らしい資質があるんです。その日本の素晴らしさをもっとグローバルに広めてほしいと思ったから。効果的に日本の素晴らしさを発信して行くためにもグローバリズムとローカリズムのギャップを知ることが大切です。日本にいると、なかなか日本の良さは見えませんが、日本は本当に素晴らしい国です。だからグローバル社会で活躍する人が身につけている教養を知り、ぜひ自信をもって日本を、自分をもっとアピールしてほしいと思います。
リベラルアーツの本質とは「自分を知って生き方を考えること」。学校はそれを学ぶところ
エデュ: 著書の中で「リベラルアーツ」という言葉が出てきますが、そもそもリベラルアーツとは、どんな力を育て、何に活かせるのかを教えていただけますか。
重子さん: 私も最初は「リベラルアーツ」の内容や意義がわかりませんでした。リベラルアーツという言葉を調べると、日本語では一般教養と訳されます。「なぜ一般教養のために大学に行くのか?」と疑問がわきました。日本では、大学とは専門分野を学ぶところだと認識していましたから。アメリカの大学では、ほとんどがリベラルアーツを採用しています。調べるうちに、いわゆる日本の一般教養とは違うものだとわかりました。アメリカのリベラルアーツをひと言でいうなら、「問いを立てる力」ですね。
倫理学の本を読んだら「自分にとっての倫理って何だろう」、国家について学んだら「自分にとっての国家って何だろう」、幸せについて本を読んだら「自分にとっての幸せって何だろう」、経済学の話を聞いたら「自分にとってのお金って何なんだろう」「自分にとって働くとは何だろう」と、問いを立てながら、自分の考え方を学び、生き方を見つけていく学問。それがリベラルアーツです。
詰め込みと繰り返しを中心とした認知能力教育に長けた日本に比べると、リベラルアーツ教育はのんびりしています。けれども、人生は長いから、自分を知らないままでいると、定年時に、「会社に行かなくなったら、僕は人生をどう生きたらいいのか」、子育てが終わったときには「私の人生は何だったのか」と生きる意味を見失うことになってしまいます。「自分を知って生き方を考える」のがリベラルアーツの本質です。
エデュ: 今、日本の大学は就職予備校とも言われ、いかによい就職先を見つけるか、そのために何を得て、どんなスキルを身につけるのか、というところが学びの中心になっている現状です。日本の大学についてどうお考えですか。
重子さん: 日本の大学は、会社のニーズを満たす人材を育てる場になっていますね。もちろん、これからの世の中では、会社が何を必要としているか、自分は何をしたいのか、という能動的な姿勢をもつことは重要です。ですが、その会社が求める人材がグローバル化多様化の流れを受けて変わって来ているのです。昭和的な概念や安定思考という古い価値観に固執するのではなく、変化の激しい時代を生きる人間力が今求められています。
昭和という時代は明確なレールの引かれた時代でした。認知能力主体の学校教育と受験制度ではやればやっただけ点数が伸び、点数が伸びればそれだけ良い大学に行け良い就職につながる。男性は一生安泰な大黒柱としての役割を全うする。
一方、妻には夫を支え子どもを育てる、という役割が求められました。けれども、平成になると年功序列や終身雇用がゆらぎ、非正規雇用が増え、昭和の安定神話は崩れ去ったのです。
それと同時に素晴らしい変化も訪れました。たとえば平成の終わりに、「女性が輝く社会」として法律で認められるようになったこと。それから2020年の文科省の教育改革です。これにはリベラルアーツ的考え方を育むことが盛り込まれています。これからの大学受験にはこの思考力が必須となっていきます。グローバル社会でリーダーシップをとっていくためには自ら考え行動していく力が必要だからです。
今日あった仕事が明日はなくなり、昨日なかった職種が明日生まれる。今はそんな時代です。会社の平均寿命は25年と言われますが、人生100年時代を生きる私たちは、最低50年は働くことになります。そんな時代に昭和的価値観で終身雇用を目指すこと自体無理があります。
昭和の価値観はすでに崩れているのに、よい大学に入ってよい会社に就職するという、昭和の安定志向にしがみついたままの人はたくさんいます。変化の激しい時代を生き抜かなければならない子どもたちに、私たち親ができる最大のことは「自ら考える力を育む」こと。自分の人生を自らデザインし、力強く生き抜く力をつける手伝いをすることだと思います。そのために有効なのが、昭和の価値観や安全神話にしがみつくのではない「リベラルアーツ的思考力」です。そしてそれは家庭でこそ伸ばせる力なのです。
家庭の「対話」を通して育まれる“グローバル社会で生き抜く力”
エデュ: 日本でも、一部の先進的な中高一貫校では、教育改革を視野に入れ、すでにリベラルアーツを取り入れた授業を展開しているようですね。
重子さん: そうですね。でも、学校の教育が変わるのを待っているだけではダメ。リベラルアーツの能力も、コミュニケーション能力も、すべては家庭が基本です。これらの能力は家庭の中でこそ、一番効果的に育まれると私は考えています。リベラルアーツの特徴である「自分に問いを立てる能力」は、言い換えれば「自分で考える力」です。これは家庭での「対話」を通して育まれます。
たとえば、子どもが何かに夢中になっているときに「楽しそうだけど、なぜそのテレビ番組が人気なの?」「そのゲーム、なぜみんながやっているの?」と聞いてみましょう。あるとき、うちの娘がどこがおもしろいのかわからない番組を見ていたので、「なぜその番組を見ているの? どこがおもしろいの?」と質問しました。すると娘は「今は頭を空っぽにしたい気分なの。だから単純に笑える番組が必要なのよ」と答え、なるほどと納得したんです。子どもが自らの考えを発言できる機会をどんどん与えることが、リベラルアーツの力を養うのに、もっとも効果的な方法だと思います。
実は、私はもともと指示待ち人間だったので、アメリカに移住して、人と対話することを恐れていました。自分の発言が間違っていたらどうしよう、私の質問で相手を傷つけたらどうしよう、と。そのときの私と同じように、親はよい見本であるべきと思うあまり、「わが子にどんな質問をすればいいのかしら」とプレッシャーを感じているママもいるでしょう。でも、一番重要なのはお子さまに興味を持つということです。「あの子は今、何を考えているのかな」と。「子どもを育てる」という感覚より「この子を知りたい」という感覚の方が近いかもしれません。
講演会に来てくださった方からいただいたメールに、「パッションのお姉さんの本を読んでから、ママは私の話を聞いてくれるようになったね、と娘に言われたんです。涙が出るほど嬉しかった」と書かれていました。その方が娘さんに何をしたかというと、単に「今日、学校で何したの?」など、いろいろと質問をしただけでした。
たくさん質問してもらえると、子どもは「自分に興味を持ってもらえている」と、とても嬉しい気持ちになります。子どもと同じ目線、というのでしょうか。「やりなさい」「こうしなさい」と上から目線で子どもと話すのでなく、「この子ってどういう子なんだろう」とわが子に興味を持ち、もっと知りたいと思うことで、質問は自然に出てくると思います。
【著書紹介】ボーク重子(ぼーく・しげこ)
ICF認定ライフコーチ、アートコンサルタント。大学卒業後、外資系企業に勤務。30歳の誕生日前に渡英、2004年にアートギャラリーShigeko Bork mu projectをワシントンにオープンする。2006年にはワシントンDCでの文化貢献度を評価されオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙の副社長らと一緒に「ワシントンの美しい25人」にたった一人の日本人として選ばれる。娘のスカイは2017年「全米最優秀女子高生」コンテストで優勝、多くのメディアに取りあげられた。
後編の記事はこちら⇒
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