男だって育児に「モヤモヤする」!? 育児に奮闘する40代男子の本音とは?
inter-edu’s eye
『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』という本が話題を呼んでいます。著者は「働き方評論家」にして「主夫」でもある常見陽平さん。43歳で父親となり、現在2歳の娘の育児に没頭する毎日を送る中で感じた「仕事と家事・育児の両立」の難しさ。男性が感じる育児のモヤモヤとは? 男性の育児参加はどうあるべき? 兼業主夫となった自身の体験を交えながら、少子化時代の男性の育児参加について、常見さんが語ります。
子育ての当事者となってわかった、女性が感じるモヤモヤ
本書の著者である常見陽平さんは、15年間のサラリーマン生活の後、一橋大学大学院社会学研究科修士課程に進学。2年間の大学院生活を経て、千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任、労働社会学の専門家として活躍しています。
現在の肩書きは働き方評論家。サラリーマン時代からライターとしても活動し、雑誌の連載を多数持ち、多数の著書も執筆するなど、猛烈に忙しい毎日を送っていました。
そんな生活が一変したのは、5年間の妊活を経て43歳で一児の父となってから。フリーランスの仕事をしながら大学院へ通っているころから、フルタイムで働く妻に代わって家事をしていましたが、子どもが生まれてからというもの、自分の思い通りになる時間はほとんどなくなったのです。
早朝から夜遅くまで育児と家事に没頭する生活の繰り返し。といって、著者は育児や家事の作業が嫌いなわけではありません。むしろ、好きだし、楽しんでいます。しかも上手。「洗濯は妻のほうが上手」と書いていますが、料理は相当な腕前だし、皿洗いから整理整頓に至るまで、実に手際がいい。情報収集もお手のものだし、乳幼児のお世話という人生初の現実を前にしても、創意工夫を怠りません。
育児・家事は楽しみながら没頭する。そのための技能も十分に身につけている。そんな著者でも、「常にモヤモヤしている」と言います。育児・家事が楽しくて没頭していても、誉められることはない。仕事がおろそかになった状態のまま過ごして、この先大丈夫なのだろうかと、不安になるというのです。
「でも、このモヤモヤは、働く女性たちが今までも感じてきたことなのですね。やっと当事者として気持ちがわかったような気がします」
本書は、「主夫」として育児や家事に全力で取り組んでいる著者が、これからの男性の生き方や育児参加の心構え、夫婦のあり方などについて、問題提起をするために生まれました。
「イクメン」と呼ばれることへの抵抗感
育児に積極的に関わる「イクメン」が、流行語大賞のトップテンに選ばれたのが2010年。それから9年。メディアでは「ワンオペ育児はけしからん」「男性も育児に参加を」という論調が主流になっています。
しかし、総務省の「社会生活基本調査」(2016)によると、6歳未満の子供を持つ日本人男性が家事・育児に費やす時間は、1日当たり83分。2011年の調査に比べて16分増えているものの、女性の454分と比べても圧倒的に少なく、国際比較をしても、先進国中最低の水準にとどまっています。
平均的な日本人男性に比べれば、著者は「イクメン」そのものでしょう。しかし著者は「イクメンとい呼ばれることに強い抵抗があります」と言います。「偽善的な臭い」を感じるというのです
確かに、男性も女性と同じように育児に参加したほうがいいでしょう。しかし、親として生まれる人間はいません。女性も男性も、初めての子育ては、知らないことだらけです。時には、オロオロすることもあります。
そんな普通の人間にとって、育児と仕事を両立させる「イクメンなんて無理」「労働強化に他ならない」と断言します。実際に仕事も人一倍こなし、育児にも積極的に関わった著者の言葉だけに、とてもリアリティがあります。
「いかにも仕事と家庭を両立している理想的なイクメン像、凄母像が喧伝される社会において、なかなかそうなれずに悩んでいるパパやママもいるのではないでしょうか。私も含めた、そういうパパやママのことを思うと、仕事と家庭の両立を達成している”スゴい人”が華々しく登場する一部メディアの論調には、怒りさえ感じてしまいます」
しかも、「イクメン」を持ち上げれば持ち上げるほど、今度は育児参加をしない男性への風当たりは強くなります。子育てを女性だけが担っていた時代が続いてきたことは事実です。「男性は女性の大変さをわかっていない」と言われることも多いでしょう。しかし、だからといって「男性が仮想的になってしまってはいけない」と著者。
男性と女性が敵対する関係ではなく、「互いに働きながら協力して子どもを育てる」方向にもっていったほうがいい。そして、そのためには何が必要か、関係者みんなで考えていこうと、著者は提案しています。
注目の学校
家事は仕事。合格レベルを下げるとしあわせになる
では、実際に主夫となって、可能な限り育児に参加するにはどうしたらいいか。そのための心構えや、読者にも参考になりそうな具体的なヒントも、本書にはたくさん掲載されています。家事を仕事としてこなすためのアイデアで、詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、男性の育児参加にとても有効ではないかと感じた考え方を二つほど紹介しましょう。
ひとつは、家庭内での自分の役割設定について。第2章「家事は、労働だ」の冒頭で、著者はこんなふうに書いています。
「家では”仲居さん”という設定で生きています」
そう、あの旅館の仲居さんです。主に炊事やゴミ出し、買い出しなどを担当していますが、食事をする際は「春らしく、筍をつかった炊き込みご飯ができましたよ」といったように家族にふるまうのです。
また、妻のどんなオファーにも気持ちよく応じます。ときどきミスをしたら、すぐに「すみません」と謝る。「昭和的父親の威厳なんてない」と著者は言いますが、いわゆる男らしさや大人らしさを誇示せずにすむため、「プライドもゼロですが、ストレスもゼロ」だと語っています。
もうひとつは、「合格点を下げる」という考え方。「仕事と育児・家事の両立」などと言われると、とかく完璧を目指したくなってしまうものです。また、料理がおいしく作れたら、さらに上を目指したくなるというのも人情です。でも、これがいけない。
育児・家事には、人によって得手不得手があります。毎日、同じようなことの繰り返しです。そんなときに無理な目標を設定すれば、続かなくなります。だから「合格点を下げる」。家事は仕事だという意識を常に持つことで、妥協のポイントも見えてくるでしょう。
「妥協がないと家事は回りません」と著者。人それぞれ、妥協のできないポイントはありますから、それをふまえた上で、合格点をある程度下げるのです。常に80点、90点を目指すのではなく、ときには60点でもいいと妥協する。それが大切なのです。
「とくに子育て中の家事は、完璧をめざさなくていい。合格点の標準を下げれば、しあわせが増えます」
私たちは前例を参考にできない時代を生きている
著者は子育てに慌ただしい毎日を送っています。仕事が存分にできないというモヤモヤ感を抱きつつ生活していることも事実です。
子どもがかわいいから、自分がやりたいから、ということが最大の理由ですが、もうひとつ、日本人男性は育児・家事に費やす時間が少ないか、自分自身で実験しているような気分もあるといいます。働き方評論家、労働社会学者としての、大きなテーマでもあるからです。
政府も男性の育休を増やす取り組みを続けており、企業の中には育休を義務づけるところも徐々に増えてきましたが、職場によっては、社内に理解者がおらず、なかなかとりにくいところもあるでしょう。
なにしろ前例が少ないですから、いくら制度が整っても、みんながみんな、権利を自由に行使するまでには、なかなか至らないのです。
著者は男性に対して、育休をとれる環境にいるならば、ぜひ取得して、「その大変さと楽しさと喜びを実感してほしい」と呼びかけています。同時に、女性に対しても、「男性が育休を取得したり、時短勤務を申請したりすることが、まだまだ難しい社会」なのだということを訴えています。
女性が社会進出して仕事と育児の両立を求めはじめたときと同様、男性も、参考にできるロールモデルのない時代を生きているのです。著者は言います。
「女性が男性を責めるのではなく、いま互いにできる最善を持ち寄って、やりくりしながら、次世代の子育て家庭のモデルをつくっていきましょう」
不妊治療をはじめ、著者自身が知らなかったことや、これまで知ろうとしなかったことも含めて、男性の育児参加の楽しさやその大変さ、育休制度が取得しにくい理由などについて、著者の考え方が提示されており、納得させられる内容です。議論のきっかけを作るにはうってつけでしょう。男性だけではなく、女性にもおすすめの本だと思います。
僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う
常見陽平著、自由国民社刊、1200円+税
「イクメン」が流行語に選ばれてから10年近くたちます。政府も男性の育児休暇取得を推進したり、企業でも育休を義務化したりと、制度は整いつつあります。しかし、育休を取得する男性はまだかなり少ない。その原因はどこにあるのか。働き方評論家である著者が、自身の子育て体験をベースに、男性の育児や夫婦のあり方、社会的な問題点について語りました。
単なる「イクメンのススメ」ではありません。実際に仕事を減らし、ママ並みに育児・家事に没頭している経験の中から紡ぎ出された言葉は説得力十分。巻末には漫画家の宮川サトシさんとの「育児のモヤモヤを語り尽くす特別対談」を収録。育休をとろうかとるまいか迷っている男性だけではなく、子どもをもつお母さんにも読んでいただきたい一冊です。
常見陽平(つねみ ようへい)さん
千葉商科大学国際教養学部専任講師、働き方評論家。1児の父。1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より現職。著書『僕たちはガンダムのジムである』『「就活」と日本社会』『なぜ、残業はなくならないのか』『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』のほか、『現代用語の基礎知識』「働き方事情」の項目を執筆中。
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