「LINEで子どもがバカになる」って?:第26回
inter-edu’s eye
『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』が話題になった中学受験専門塾・スタジオキャンパス代表の矢野耕平さんが、『LINEで子どもがバカになる』という衝撃的な新刊を発表。今の社会環境が子どもたちの日本語運用能力に与える影響について本気で警鐘を鳴らしています!
◆子どもたちの日本語に危険信号が!
刺激的なタイトルの本書ですが、内容はきわめてまじめで、LINEのことにとどまりません。むしろ副題の「『日本語』大崩壊」にこそ、著者のメッセージが込められているのだと思います。「現代の子どもたちは日本語運用能力を削いでしまう幾多の『障害物』の内側で生きているように思えてならない。(P148)」と著者。
中学受験専門塾の代表を務めるベテラン講師の著者は、まえがきを「最近の子どもたちの使う日本語はおかしい。」からはじめ、さらに以下のように語ります。
いまの子どもたちの日本語に危険信号が灯っているのだ。学習塾で20年以上、国語を指導しているわたしはそのように感じざるを得ない。
いや、日本語云々以前に子どもたちの様子が何だかおかしいのだ。
子どもたちと話をしていると、その目の奥底に何も見えず、内心こちらが戸惑ってしまうことがとみに多くなった。(P4)
日々子どもたちを指導しながら感じるこうした印象を、著者は、「日本語運用能力」という観点から説き明かそうと考え、調査・取材を行ったうえで本書を著しました。ですから、豊富な指導経験とさまざまな調査資料・データがつきあわされ、説得力のあるレポートになっています。
◆LINEの悪影響とは?
まず、各章のタイトルを紹介しましょう。
第一章 便利さを引き換えに失ったもの
第二章 「敬語」が使えない
第三章 「比喩」が理解できない
第四章 「季節感」がわからない
第五章 それなのに「英語」ですか?
第六章 「日本語力」を取り戻すために
第一章では、LINEが子どもの「日本語運用能力」に与える影響を、数多く指摘しています。たとえば、日本語は他国のことばに比べて心情を表すことばがきわめて豊か。しかし今の子どもたちは、微妙に異なる心情のほとんどを「キモい」「ウザい」などに収斂させてしまっています。これで心情表現を問う国語の問題がちゃんと解けるでしょうか? 著者は、文中で国語の問題を出題し、子どもと一緒に解いてみてほしいと書いています。
またLINEといえばスタンプが有名です。これも便利ではありますが、心情をことばで表す機会を失わせるツールと言うこともできます。
手持ちの心情表現が多ければ多いほど自身の心の動きの微細を意識することができる、つまり「豊かな感情」を手に入れられるのだ。わたしはこれまで数多くの子どもたちの受験指導をしているが、語彙が豊富な子どもほど、その感情の表出、表情が彩り豊かであると実感している。(P32)
さらに、内輪の者同士だけが交流する「グループ機能」、あらゆる端末に搭載されている文字入力の手間を省く「予測変換機能」、そしてスピーディに返事をしなければと焦る気持ち…、どれもが「日本語運用能力」という観点からみれば、その能力を低下させこそすれ向上させるものではないことが明らかにされていきます。確かに私たちは、便利さと引き換えに「日本語運用能力」を失いつつあるのです。これは子どもたちだけではなく、多くの大人も実感していることではないでしょうか。ただ、成長過程でこうした環境に置かれる子どもへの影響は、大人以上に多大なはずです。
◆語彙力を失うとどうなるか?
第二、第三、第四章と、現代のさまざまな環境が、子どもたちの「日本語運用能力」に与える悪影響が語られていきます。その詳細は、どうぞ本書を手にとって読んでみてください。第一章同様、文中に国語の問題を出して、これが解けますか?と著者は問いかけてきますから、なるほどこの問題が解けないようではまずい、と思ってしまうこともあるでしょう。
著者によると、同じ年齢の子どもでも語彙力には大きな個人差があるとのこと。「多くの子どもたちを観察してきて、大人に囲まれるような環境下で育った子は実に多くのことばを知っているし、それらのことばを駆使することができる(P65)」、そして「子どもたちが、『使えることば』を新たに身に付けるためは、『何だかわからないことばだけれど、前後の文脈から類推すればだいたいこういう意味なんだろうな』という経験を重ねていくこと(P68)」が必要なのだと著者は語ります。示唆に富む指摘です。
第五章は英語教育について。著者は、日本語をおろそかにして英語に走る危険を、衝撃的なセミリンガルの実例を提示して訴えます。人間は母語で考えるもの。日本人であれば日本語で考えるのだから、外国語を習得しても日本語で考えた以上のことを外国語で語ることはできないという厳然たる事実。さらに「He had no choice.」をどう訳すか? 「彼には選択の余地はなかった」と正しく訳すには、「余地」ということばを知っている必要があります。しかしそれを知らないために「彼は何も選択を持たなかった」と訳す子が増えてきたというエピソードも紹介されています。
最後の第六章で、著者は、「いまの子どもたちに求められるべき日本語学習は、『ことばにじっくりと立ち止まり、熟考する姿勢』を育んでいくこと」だと語り、そうした姿勢がなければ解けない国語の読解問題を多数出題しています。そして、こうした問題に正解するには、他者を理解し、配慮できる能力が不可欠であることも力説しています。国語の読解問題というのは、解法を暗記さえしておけば解けるというものではないのです。子どもたちが「既読スルー」の重圧に束縛されることなく、「ことばにじっくりと立ち止まり、熟考する姿勢」を身に付けて読解問題に対処できるように、周囲の大人は、今すぐにでも対策を講じる必要がある、と思ってしまいました。
これから先、子どもたちが中学生、高校生、大学生、そして社会人と成長していけばいくほど、他者の「心情」や、他者の「意見」を「客観的」にとらえ、その時々に対処していかなければならない。
そんなときに、国語の読解問題で数多くの文章に触れることは大いに役立つ。
私はそう確信している。(P176)
本書を読んで、日々のコミュニケーションのありようと文章の読解力の間に、これほどまでに密接な関係があるのかと思い知らされました。大学入試は、「知識偏重型」から「思考力重視型」に大きく方向転換しようとしています。語彙力、読解力などの「日本語運用能力」は、全科目の成績により深く関わってくることでしょう。そしてより重要なことは、その子の人生そのものの豊かさに大きな影響を与えるということです。
「勉強」という枠を超えて、子どもの周囲にいる大人が日常的に日本語とどうつきあっているかも、大いに試されているのだと実感しました。子どもの教育という面だけでなく、大人が自分自身の言語能力を振り返る意味でも、おすすめの本だと思います。ぜひ文中に出題されている問題を解きながら読んでみてください。
LINEで子どもがバカになる,「日本語」大崩壊
矢野耕平著、講談社+α新書、840円+税
子どもたちの国語能力にとんでもないことが起きている。「LINE」の弊害など、現役の塾講師だから気付いた、子どもたちを襲う「日本語大崩壊」を、気鋭の現役塾講師が解説。
塾講師をやって、恐ろしくなること、感情表現はすべて「スタンプ」任せ、「予測変換機能」の罪、短文ばかりで接続詞が使えない、「比喩」が理解できない訳、言葉を知らない子は感情も乏しくなる、英語も日本語も中途半端な「セミリンガル」、タワマン暮らしが子どもに与える影響、ここまで崩壊!国語問題「誤答一覧」など、未成年の子どもを持つ親は必読!…購入はこちらから
著者の矢野耕平(やの こうへい)さん
1973年東京生まれ。大手塾に十数年勤めたのちに、中学受験専門塾「スタジオキャンパス」を設立し、代表に就任。東京・自由が丘と三田に校舎を展開し、現在も講師として小学生の国語・社会の指導に携わっている。著書に『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)『中学受験で子どもを伸ばす親 ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)などがある。
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