ホワイトカラーが失業する時代が到来!:第27回
inter-edu’s eye
「今の大人たちは見当違いの教育を与えている」と、世界が注目する若手研究者、落合陽一氏が新著で警告しています。近い将来、ホワイトカラーの仕事はほとんどコンピュータに置き換わると言うのです!
◆デジタルネイティブの子どもと若い親たちへ
20代の新進気鋭の学者にしてメディアアーチストの落合陽一氏が著した『これからの世界をつくる仲間たちへ』。子どもたちと若い世代の親たちに向けて、コンピュータと人間が今以上に融合するだろう将来、どんな生き方を選択したらいいのか、真っ正面から問いかけてくる異色の新刊です。
世界が注目する研究者でありアーティストでもある著者が、なぜこの本を書いたのか? それは、生まれたときからコンピュータやインターネットが身近なデジタルネイティブの子どもたちと、そうではない大人たちの間に、さまざまな齟齬や誤解が生じているという危機感からです。
地球上のすべての社会を激変させたコンピュータとインターネット。そのとてつもないパワーに、今の大人たちは翻弄されています。しっかり世の中を見据える余裕もないまま、デジタルネイティブの子どもたちを、親として大人として導いていくことは本当に難しい。デジタルネイティブの若者たちを対象にした本ではありますが、その親世代にも若き落合氏の言葉は多くのヒントをくれると思います。
◆ホワイトカラーは絶滅危惧種?
コンピュータと人間の関係がわかりやすく解説されている本書にあって、もっとも衝撃的なのは、「ホワイトカラーは絶滅危惧種」だと語っているところでしょう。今の親たちも今の学校教育も、それにビジネス書や自己啓発書も、「どうすれば優秀なホワイトカラーになれるか」を目的にしているけれど、「そんな大人たちは、ホワイトカラーの現状と未来がみえていない」と、落合氏は言っています。
(前略)僕のまわりにいる優秀な若者たちも、多くがホワイトカラーとして社会に出て行きます。とくに目立つのが、外資系のコンサルティング会に入ろうとする人たち。(中略)
そこでやるのは、「ザ・ホワイトカラー」とでも呼べるような、ひたすら処理能力の高さを求められる仕事です。その経験をセカンド・キャリアで活かすつもりならともかく、そのままでは「絶滅危惧種」として生きていくことになりかねません。それは、外資系の金融機関についても同じことが言えます。少なくとも、与えられたタスクを猛烈にこなすことが「自立的でかっこいい生き方」だと思っているなら、大きな勘違いだと言わざるを得ません。(P67)
なぜ、ホワイトカラーが「絶滅危惧種」なのか? それは、ホワイトカラーに求められている能力が、一定のビジネスモデルの上で、与えられた課題をよりスピーディに効率的に処理する能力だからです。これは学校のテストでいい点をとる能力とつながっています。テストで満点をとれる能力があれば、大人になって大企業に入っても、与えられた仕事をより効率的に処理していくことができるというのが従来の考え方でした。
でも著者は、そうした課題処理能力は、早晩コンピュータが人間を超えてしまうと言い切ります。20世紀後半、ロボットが多数導入されて工場で働く人が減りましたが、それと同じことが、今度はホワイトカラーの職場で起きるというのです。
ホワイトカラーは何かを効率よく処理するための「歯車」です。そして、処理能力の高い「歯車」はいずれコンピュータに居場所を奪われてしまう。
だから、いまの小中学生が将来「コンピュータに駆逐されない自立的な仕事」をできるようになるためには、何でも水準以上にこなせるジェネラリストではなく、専門性を持つスペシャリストになることが必要です。(P68)
◆創造的専門性を持った知的労働者に
本書の内容を手短に紹介するのはとても難しいので、ここでは一足飛びに著者の落合氏の考え、つまりホワイトカラーでないとしたら、優秀な子どもたちはどういう方向を目指すべきと主張しているのかをお伝えしておきましょう。
単純に言えば、「コンピュータにはできないことを目指そう」ということです。そして、コンピュータに使われる側ではなく、コンピュータを使う側の人間になるべきと言っています。どうすればそうなれるでしょう? キーワードは「モチベーション」です。たとえどんなに課題処理能力が高くても、モチベーションの弱い人間はコンピュータに使われる側になりかねない。強いモチベーションを持っている人間だけが、コンピュータを使役する側になることができる、というのが落合氏のメッセージです。
そしてもうひとつ、落合氏は、「クリエイティブクラス」という言葉も使っています。「創造的専門性を持った知的労働者」といった意味です。コンピュータだけでなく、ほかの人間では代替ができない専門性を持つ知的労働者。ITの世界では故スティーブ・ジョブスを筆頭に、こうしたヒーローが多数誕生しています。そんなイメージだと思います。
“でも、そんなことできるのは優秀な人の中でもごく一握り…”と言いたくなりますよね。しかし、落合氏はこう語ります。
日本人が日本の国内で勝負するしかなかった時代は、それなりに大きなマーケットのシェアを占めなければ勝負になりませんでした。全部で人口が1億人しかいないので、その中の少数派を狙うニッチなビジネスは成り立ちにくかったのです。
グローバル化が進んだ現在は、そんなことはありません。世界には、70億人もの人が暮らしています。だから、少数派にしか受け入れられないアイディアでも、十分に戦うことができる。(P112)
なるほど、20世紀とは視野にいれるべき世界も変わってきたわけです。大企業や安定した組織に属したところで、仕事の中身も選抜のしくみが大きく変わっていくことでしょう。考え方のベースそのものを見直さなければなりません。
幼いうちは誰もがたっぷり持っている「モチベーション」を大きく育み、その子でなければできないことに情熱を注げるように導いてあげることは、今や子育ての絶対条件のような気がしてきました。それに、これは近く予定されている大学入試改革の方向とも一致しています。ここに紹介したこと以外にも、英語教育の功罪など今の教育の問題点がさまざま語られています。デジタルネイティブのお子さまのサポートのため、ぜひ落合氏のメッセージに耳を傾けてみてください。固定観念が払拭されること請け合いです!
これからの世界をつくる仲間たちへ
落合陽一著、小学館刊、1,300円+税
著者は28歳という若さにして、世界的にも「社会を変える」と見られている最先端の研究者。コンピュータが人間の生き方に根本的な変革を迫っていると言います。世の中のすべてが変わる。たとえばホワイトカラーの仕事は何もかもコンピュータに持っていかれ、いくら知識を得ても何の役にも立たない時代になると。そんな世界で生き抜くためにどうすればいいのか。落合氏は若者たちに熱く語ります。「魔法をかけられる側になってはいけない。魔法をかける人間になれ」と――。
8歳からコンピュータに慣れ親しみ、中学受験や大学受験も経験してきた著者自身の子ども時代からの体験も多く語られているので、別世界の天才の意見と感じることなく優秀な子を導く子育てのヒントも得られるでしょう。…購入はこちらから
著者の落合陽一(おちあい よういち)さん
1987年生まれ。筑波大学助教。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)認定スーパークリエイタ。BBC、CNN、TEDxTokyoをはじめ、メディア出演多数。超音波を使って物体を宙に浮かせ、三次元的に自由自在の動かすことができる「三次元音響浮揚(ピクシーダスト)」で、経済産業省「Innovative Technologies賞」を受賞。2015年には、米the WTNが世界最先端の研究者を選ぶ「ワールド・テクノロジー・アワード」(ITハードウェア部門)において、日本からただひとり最も優秀な研究者として選ばれた。月刊『文藝春秋』で「日本を元気にする逸材125人」に選出。<現代の魔法使い>の異名を取る。
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