わが子に育てにくさを感じるすべての親たちへ
inter-edu’s eye
子どもが言うことを聞かないと悩む親御さんにおすすめ! 東大の先端科学技術センター教授・中邑賢龍さんが書いた『育てにくい子は、挑発して伸ばす』は、他の子育て・教育本とはひと味もふた味も違っていて、しかもすぐに取り入れられるアドバイスが満載です。受験のための塾通いが始まってから親子関係がぎくしゃくという方も、ぜひ手にとってみてください。
◆育てにくいって、どういうことだろう?
どうしてこの子はいつもいうことを聞かないの、どうしていつも反発するの…、子どもが成長するにつれ、そんな思いを深めている親御さんは決して少なくないでしょう。日常生活は同じことの繰り返しがほとんどだから、親の言うことも同じなら子どもの反応も毎度同じ。毎日おなじみのやりとりにうんざりして、できることならリセットしたい、そんな思いを抱えるお母さまも多いはず。
そんなときは、この夏発売された『育てにくい子は、挑発して伸ばす』がおすすめです。「挑発」とありますが、内容は「挑発」に終始しているわけではありません。表紙を開くと表紙カバーの折り返しに、「子どもの育てにくさに悩まないでください。凸凹とした個性豊かな子どもを潰さず、伸ばす道があります。」とあります。親なら誰しも感じる育てにくさに関して、他ではお目にかかれない独特のヒントを与えてくれる本です。
著者は、東京大学の先端科学技術センター教授の中邑賢龍さん。中邑さんは、学校に馴染めない、きわめてユニークな子どもたちの能力を伸ばしていくのを支える場としてスタートした「異才発掘プロジェクト ROCKET」のディレクターです。そして、このプロジェクトに集まってきた、きわめてユニークな子どもたち、その親たちと接してこられました。
きわめてユニークとは、突出した特殊な才能があるという意味ではなく、性格や認知能力に偏りがあって学校などの集団生活に馴染みにくいということ。本書には、そんな子どもと親とのエピソードが多数紹介されています。中邑さんは、そうした経験が、彼らほどユニークではないわが子への接し方に悩んでいる親御さんにも、ヒントになるのではないかと考えて本書を執筆されました。
◆他の子育て・教育本にはないアドバイス
本書の半分近くを占める第1章のタイトルは、「親も子も楽になるために、今すぐできること」です。第1章の小見出しは22個あります。そのいくつかご紹介しましょう。
・口下手な子どもとこそ、どんどん親子げんかを
・褒められすぎのモンスター、叱られなすぎのモンスター
・今の平穏を選ぶか、社会に出てからの強さを選ぶか
・余白のない放課後が、子どもたちにもたらすもの
・早く寝かせるより、朝まで続ける熱意を試してみる
・子どもをゲーム漬けにするかどうかは、親次第
・勉強にはなくてゲームにはある、魔法の魅力
・もしも、子どもが「死にたい」と叫んだら
こうして小見出しを見ていただくだけでも、普通の子育て・教育本とはだいぶ違うことがおわかりになると思います。それぞれのアドバイスには、うちも同じと思わせる親子の会話や、プロジェクトに参加しているユニークな子どもたちと中邑さんのやりとりがのっています。そして、ありがちな親の対応と中邑さんの対応の違いが見えてきます。
読んでいくうちに、そうか!と気づいたことがありました。それは、いつも子どもが同じように反発をするのは、もしかしたら親がいつも同じことをしているからかも?ということです。子どもの行動が先なのか、親の行動が先なのか、よくわからなくなったのです。だからこそ、中邑さんは、章タイトルの横にこんなメッセージを書かれたのでしょう。
どうすれば、子どもが変わってくれるのだろうか?
そう考える前に、まずは大人の私たちができることを考えてみましょう。
◆子どもが効率優先社会の犠牲になっていませんか?
第1章の中で、中学受験を目指すような教育熱心な親御さんにぜひ注目していただきたいと思ったのは、「余白のない放課後が、子どもたちにもたらすもの」です。塾におけいこにと、親世代より忙しい毎日を送っている今の子どもたち。親は、子どものことを思うあまり、あれもこれもと欲張ってしまいます。でも、あれもこれもやらせることで、結果的に子どもから心の成長に必要な時間を奪っているのかもしれません。なぜなら何もしなくてもいい時間があってこそ、退屈の先に、ふっと○○をしてみようかなと思うものだからです。そんな暇のない子ども時代を送ったら、与えられた課題はできても自ら課題を創造することができない人間になるかも…。そう考えると、うすら寒い感じさえしてきました。
さて、続く第2章「身近なテクノロジーで解決できること」には、学習やコミュニケーションに困難を抱える子どもたちを、さまざまなテクノロジーでサポートする方法について書いてあります。そして最後の第3章は、「道を拓く大人に育てるために」は、加速する高度情報化社会に育つ今の子どもたちへの教育について。彼らが大人になる時、社会がどうなっているかを想像することなしに教育のあり方を考えることはできないと、中邑さんはきっぱり言っておられます。第3章に、きわめて示唆に富んだ一節があったので引用させていただきます。
コンプライアンス(命令・要求に従うこと※筆者注)が重視され、効率化が追求される社会になればなるほど、教育は自由度を失っていきます。一人ひとりの個性に合わせて柔軟に対応するのではなく、決められたカリキュラムや手順に沿ってしか、教師は行動できないのです。今の日本は、まさにその時代です。適応できない子どもは、近年、「発達障害」というラベルを貼られるケースが増えています。そうなると、彼らは治療教育やリハビリの専門家を受診することになります。親や教師の願いも、医師の願いも、ひたすら社会に適応できることであり、彼らはそのように矯正されます。その治療教育によって凸凹がなくなった子どもは、他の子どもたちと同じラインに一応は戻っていくのですが、その過程で深く傷つく子どももいます。ひどく叱られ、努力しても上達せず、意欲を失った彼らは、大きな傷を負ったまま、生きて行くことになります。
人と同じでなければならないという教育を受けてきた子どもたちは、人と同じことができない自分を責めることになります。人と同じことができない友人や同僚を、許容しなくなります。
同じことができない一部の子どもたちを徹底的に追い詰める、今の社会のあり様が正しいとは、私には到底、思えないのです。(P148~149)
多くの親は、自分の子と周りの子との違いが気になります。比べてはいけないと思いながらも、周囲より劣らないように、周囲から断絶しないようにと願いがちです。加えて社会や教育の場までもが同調圧力にさらされているのが今の時代だとすれば、今の子どもはあらゆる意味で大人社会の犠牲者なのかもしれません。
親は、むしろ防波堤になる必要があるのでは? 本書の裏表紙には、『「みんなと同じ」を抜け出そう!』というメッセージがありました。わが子の凹を人並みに矯正することばかりに気をとられるのではなく、わが子の凸を伸びやかに育てていこうとすること、そうであってこそ、次世代のリーダーを育てることができるのかもしれませんね。
育てにくい子は、挑発して伸ばす
中邑賢龍著、文藝春秋刊、1,300円+税
集団生活にフィットしない、友達が少ない、言うことを聞かない、こだわりが強すぎる……、そんなユニークで“育てにくい子”こそ、日本を変える人材かも! 子どもの短所に思える部分にばかり目を向けるのではなく、ほかの子と違うからこその面白さ、強さを活かすことで、子どもの可能性は大きく広がります。東大先端研が2014年から取り組む異才発掘プロジェクトROCKET。既存の学校には馴染めない個性豊かな子どもたちを受け容れ、その個性を潰さず伸ばそうと始まったプロジェクトには毎年、多くの親子が参加を希望するなど注目を集めています。ROCKETのディレクターを務める中邑賢龍教授が、“育てにくい子”を育てる親、そして教育関係者に向けて発信する子育て論は、これまでの常識に捉われた大人たちに新たな視点を与えてくれます。受験競争で勝者になることが、幸福な未来につながると確信できた時代は終わりました。進化したAIが台頭する時代を生きる子どもたちに、大人は何を伝え、サポートしてやることができるのか。子どもに関わるすべての人に読んでほしい一冊です。…購入はこちらから
著者の中邑賢龍(なかむら けんりゅう)さん
1956年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野教授。2014年にスタートした「異才発掘プロジェクトROCKET」ディレクター。同プロジェクトなどICTを活用した社会問題解決型実践研究を推進している。共著に『バリアフリー・コンフリクト』(東京大学出版会)共編著に『タブレットPC・スマホ時代の子どもの教育』(明治図書)など。
いつもエデュナビをご覧いただきありがとうございます。
この度「エデュナビ」は、リニューアルいたしました。
URLが変更になっているので、ブックマークやお気に入りの変更をお願いいたします。
これからも、皆さまの受験や子育てをサポートできるよう、コンテンツの充実とサービスの向上に努めてまいります。