何があっても変わらない「学びのカタチ」を子どもたちに伝えたい
今回、ご紹介する『12歳からはじめよう学びのカタチ: 優くん式「成績アップ」5つの秘密』は、作家の佐藤優さんが、主に小中学生向けに「勉強のコツ」「基本の型」を伝えるために、漫画家の西原理恵子さんと共同で執筆した本です。
2021年から新しい大学入試制度が始まります。記憶力や知識だけではなく、身につけた知識を使って考える力が求められるようになります。大学入試制度が変わるのに合わせて、学習指導要領も変わり、単に知識を教えるだけではなく、子ども自ら積極的に学ぶ「アクティブ・ラーニング」へと学習内容が変わっていくことが予定されています。
教育制度が変わることで、いままでの勉強のやり方が通用しなくなってしまうのでは? と戸惑っている親子も多いことでしょう。そんな人たち、特に小中学生に向けて、著者自らの経験の中から編み出した「学びのカタチ」を伝えようというのが、本書の執筆目的なのです。
著者は「はじめに」で、この本を執筆する目的について、次のように述べています。
「状況がどう変わっても影響をうけないような「学びのカタチ」を、この本できみたちに伝えたいと思っているんだ」と書いています。
「学びのカタチ」とは、著者の言葉でいうと「ものごとを学ぶ姿勢」のこと。スポーツや武道、茶道やピアノなどのお稽古事でも、上達するにはまず基本の「型」を身につけないといけませんが、「学び」についても同じことです。学びの「基本型」を身につけておけば、学習内容や学習方法がどう変わろうと、十分に対応できる。その方法を子どもたちに伝えたい、というのが、著者が子ども向けに本書を執筆した動機でした。
アクティブ・ラーニングに必須の5つのカタチ
著者の考える「学びのカタチ」は、次の5つだけです。
・ワザありの時間管理術
・90分間、机にむかって集中するコツ
・苦手なところ・弱いところを自覚する方法
・スイスイ暗記するための奥の手
・インプットとアウトプットの方法
時間を有効に使う、集中力を上げる、苦手の克服法、効率的な暗記、そして、学んだ知識を使って表現をする方法。このように言い換えてもいいでしょう。とてもシンプルですが、でも、実際にやろうとすると、なかなか難しいことです。
しかし、これらの解説が秀逸です。子どものころからの読書経験、外交官としての仕事で出会ったこと、そして作品を書くために行っている情報収集活動などを通じて得られた知見などを総動員して、具体的に「こうすればいい」とポイントを絞って読者に語りかけます。西原さんの絵と相まって、スルスルと読めてしまいます。
しかも、以外に原始的な手法を重視しています。たとえば時間管理術。パソコンなどを使わずに、ノートにメモする方法を推奨しています。また、暗記方法では音読をすすめています。これ、実際にやってみるとわかるのですが、黙読よりもはるかに記憶に残りやすいのです。
さらに傑作なのは、スパイ式の記憶術まで紹介されているところ。ソ連担当の元外交官の佐藤さんならではと言えるでしょう。これ以上書くとネタバレになってしまうので、詳細は本書を読んでいただきたいのですが、第1章と第2章で、「学びのカタチ」を身につける手法が紹介されています。
中でも著者が重視しているのが「インプットとアウトプットの方法」で、他の項目とは別に第2章を立てて、インプット(情報の入手法、精査法)とアウトプット(自分なりの表現)の方法を解説しています。その他の4つのカタチは、インプットとアウトプットに上達するための基本ととらえていることがよくわかります。
このあたりの感覚は、元外交官で作家という職業が関係しているようにも感じられますが、これはビジネスの世界でも普通に必要とされている要素でもあります。新学習指導要領が求めている「アクティブ・ラーニング」でも、もっとも必要とされる能力と言ってもいいでしょう。
中学の勉強はその後の基礎。おろそかにできない
本書は4章で構成されています。第1章と第2章は「学びのカタチ」という、総合的な能力の身につけ方ですが、第3章からは教科ごとの実践編に入ります。中学で学ぶ英語、数学、国語、理科、社会の主要5教科に、「学びのカタチ」をどうやって応用すればいいのか。そのノウハウが、事細かに紹介されています。
最後の第4章は、読書がテーマ。「本を読むと、自分が経験したことのないさまざまな世界にふれることができる」「本を読むと自分の頭で考えることができるようになる」「本を読むと他人の気持ちになって考えることができる」など、読書の効用について思う存分著者が語りかけます。
読書は「学びのカタチ」を強く、しっかりとしたものにするという信念に基づき、マンガを含めた本との出会い方や選び方を紹介しています。古典からマンガに至るまで、著者がオススメする本が掲載されているのも、うれしいポイントでしょう。
小中学生を対象としただけに、親しみやすい表現ではありますが、かなり高度な内容だと思います。それを「12歳」に伝えようとする意図について、著者は読者に語りかけています。
「なんで12歳かって? 中学に入学するまえに、この5つが身についていれば、中学での勉強がとてもやりやすくなるはずだ。きみが中学受験を考えているならば、受験はグンと有利になるだろう。もちろん、中学に入ってからでもおそくはない。中学生のあいだに、学びのカタチをしっかり自分のものにしてほしいんだ」
著者はこれまで、著書や講演などで、大人向けの勉強方法を伝える仕事をしてきましたが、その中で気づいたことがあるといいます。「勉強が苦手」と語る大人が多いのです。そうした人の話をきくと「たいていは中学生のときの勉強の基礎ができていない」と著者。基礎ができていないから、勉強がわからなくなり、あきらめてしまう人が多いのです。
「中学での勉強は、高校や大学での勉強の土台」と著者は書いています。その土台をしっかりさせるためには、12歳までに「学びのカタチ」を身につけておく必要があるのです。
タイトルに「12歳」と入っていますが、小学校の中学年以上であれば、十分に読めるはずです。時にはわからない言葉があるでしょうが、それはご両親が教えてあげれば大丈夫。また、中学生以上の子や大人が読んでも、学びの初心に返ることができるでしょう。親子双方で読むのをおすすめします。
『『12歳からはじめよう学びのカタチ: 優くん式「成績アップ」5つの秘密』』
佐藤優(文)、西原理恵子(絵)NHK出版刊、1400円+税
優くん式「成績アップ」5つの秘密。元外交官にして作家の佐藤優さんが、自身の勉強法を小学校高学年に伝授します。
「暗記の奥の手」「ワザあり時間管理術」「集中力強化のコツ」「英数国必勝勉強法」「インプット&アウトプットのヒケツ」。中学校入学の前に、わずか5つの「学びのカタチ」を身につけておけば、中学校の勉強がとてもわかりやすくなると、著者は言います。
子どもと同じ目線で語りかける文章は、とても親しみ安いのですが、内容はかなり高度。「学びのカタチ」の実践方法とともに、各教科それぞれの勉強法のポイントを平易な文章で解説すると同時に、西原理恵子さんの手にマンガが要所要所に配置され、子どもでもスイスイと読み進めることができます。優くん式「学びのカタチ」を身につければ、もちろん、学校の成績がアップすること確実!?
最終章では、情報収集や思考の枠を広げる読書の効用について詳しく解説するとともに、小中学生のときに役立つ本やマンガも紹介。巻末には本書で取り上げた書籍やWEBサイトのリストを収録。
佐藤優(さとう まさる)さん
1960年、東京都生まれ。作家。埼玉県立浦和高等学校から、同志社大学神学部に進学。同大大学院神学研究科を終えて、85年外務省入省。ロシアとの外交に力を尽くしたが、2002年に背任容疑などで逮捕される。その経験を記した『国家の罠—外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。保釈後は、執筆活動に取りくむ。ソ連崩壊の過程を外交官としての目でまとめた『自壊する帝国』(新潮文庫)で、新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『先生とわたし』 (幻冬舎文庫)、『十五の夏(上・下)』(幻冬舎)、『君たちが知っておくべきこと :—未来のエリートとの対話—』 (新潮文庫)など著書明日宇。作家活動以外に、高校、大学などで講演、講義を精力的におこなう
西原理恵子(さいばら りえこ)さん
1964年、高知県生まれ。マンガ家。武蔵野美術大学卒業。88年、週刊ヤングサンデー「ちくろ幼稚園」でデビュー。97年『ぼくんち』(小学館)で文藝春秋漫画賞、2004年『毎日かあさん(カニ母編)』(毎日新聞出版)で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、05年『毎日かあさん』、『上京ものがたり』(小学館)で手塚治虫文化賞短編賞、11年『毎日かあさん』で日本漫画家協会賞参議院議長賞受賞。著書多数。