「子どもはなるべく叱らずに育てるべき」
このような、世の中にはびこるさまざまな“育児べき論”に翻弄され、悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
モンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育の研究者である島村華子さんの著書『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』は、3歳から12歳の子どもを持つ親が実践すべきほめ方・叱り方を学術的な根拠に基づいて示しています。
「おざなりほめ」、「人中心ほめ」はNG!「プロセスほめ」でがんばる力を高めよう
日本人の子どもの「自己肯定感」は世界的に見ても低いという話を聞き、その原因を謙遜文化ならではの「ほめ不足」に求めている人は多いでしょう。
しかし、島村さんは「非効率なほめ方や叱り方」が原因かもしれないと考え、安易な「ほめて伸ばす」教育を実践することに警鐘を鳴らしています。
島村先生が言うところの安易な「ほめて伸ばす」教育とは、「おざなりほめ」と「人中心ほめ」の2つです。
「おざなりほめ」とは、「すごいね」「上手」といった具体性に欠ける中身のない表面的なほめ方を指します。
一方、「人中心ほめ」とは、「優しいね」「頭がいいね」「かわいいね」など、性格・能力・外見といった表面上の特徴を中心にほめることを指します。
これらのほめ方ばかりされた子どもは、ほめられないと自信を持てなくなってしまったり、ほめられるためだけに行動をするようになったり、チャレンジ精神や努力をするモチベーションが低下したりしてしまうと言います。
では、どのようなほめ方をすれば良いのでしょうか。
島村さんは「プロセスほめ」の重要性を説いています。
「プロセスほめ」とは、「がんばって最後までやりきったね」「失敗してもあきらめなかったね」「いろんな方法を試したね」など、努力・過程・試行錯誤した手順を中心にほめることです。
「プロセスほめ」をされた子どもは、柔軟にいろいろな方法を試すことで成功できるかもしれないとがんばれるようになると言います。
ただし、大切なのは本心から褒めることだと島村さんは述べています。
もし、「すごい」の一言だけであっても、それが子どもの行動や言動に素直に驚いたり、心から感心したりするときに発せられたものであれば、子どもにより良い影響を与えることができるでしょう。
叱るときは「肯定の言葉」から!「理由の説明」と「わたしメッセージ」も忘れずに
子どもを叱る際、とっさに「ダメ」と言ってしまう人は多いのではないでしょうか。
道路への飛び出しなど、危険行為をやめさせるために「ダメ」と叫ぶことは仕方がありません。
しかし、緊急事態以外では、「ダメ」をはじめとする否定的な言葉はなるべく使わないようにした方が良いと島村さんは主張しています。
では、どのような言葉をかければ良いのでしょうか。
島村さんは否定的な言葉をかける前に「そうだったんだね」「わかるよ」などといった「肯定の言葉」をかけることが大切だと述べています。
また、なぜその行動が好ましくないのか、子ども自身、あるいは他者のいかに影響を与えるかというモラル(道徳)に焦点を置きながら、具体的に「理由の説明」をすることが重要だと言います。
なお、その際、親の気持ちを正直に伝えることも効果的です。
たとえば、子どもが弟に暴力を振るってしまったとしましょう。
その際、「弟を叩くなんてひどいね」と声をかけると、子どもは「責められた」と感じ、かえって攻撃的になってしまいます。
一方、「蹴ったりして暴力を振るうのを見ると、ママはとても悲しいよ」など、自分の気持ちを中心に、自分自身がどう感じているか、また、その理由は何であるかを伝える「わたしメッセージ」を発すれば、子どもは相手の気持ちを思いやるようになると言います。
ただし、「いつもあなたが宿題をやらないでダラダラしているせいで、ママはイライラしちゃうよ」といった言い回しは、「わたしメッセージ」ではなく、子どもの行動を批判する「あなたメッセージ」です。
主語を「わたし」にすれば何でも「わたしメッセージ」になるというわけではないということを、念頭に置いておいくべきだと島村さんは述べています。