精進料理がもたらす自信とは?命をいただく教育
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駒込中学校・高等学校は、私立中学校としては珍しい給食制の学校です。今回は給食ではなく学校行事の一つ、「日光研修」で出される精進料理について、そもそも精進料理とはどういうものなのか、正しい作法、そして精進料理を通し生徒はどのように育つのかをご紹介します。
精進料理とは?
昔々のインドのお話です。ゴータマシッダールタという青年が厳しい修行の後「あること」を「悟り」ました。インドの人々は彼の事を崇拝し、「ブッダ」と呼ぶようになります。「ブッダ」のもとには多くの弟子が悩みを相談しにきました。
弟子1「ブッダよ! 肉を食べると体が元気になって暴れてしまいます。どうしたらいいでしょうか?」
ブッダ「では肉を食べるのを控えなさい」
弟子2「ブッダさん。私は魚を食べるとお腹を下すのですが」
ブッダ「では魚を食べるのを控えなさい」
しばらくしてブッダは亡くなりました。するとブッダの弟子たちは、集団の中でのきまりを細かくまとめはじめました。ある弟子が「そういえば肉とか魚を食べることはどうしようか…」。別な弟子が「それは他の宗教も禁じているからもちろん禁止ね」という具合にです。そこで問題が起こりました。当時の僧侶は日々の食事を托鉢といい、一般の人から恵んでもらっていました。その恵んでもらう食事に肉がはいっていたのです。せっかくいただいている食を粗末にしてはもったいない…。そこで肉に関してはこのように決まりをつくりました。
①自分が食べるために殺された疑いがない肉。②自分が食べるために殺されるのを見なかった肉。③自分が食べるために殺されたと聞かなかった肉。以上3つの決まりは仏教が広く東に伝わる際に2つの方向性に変わっていきました。
中国、朝鮮、日本などへ伝わった仏教ではやはり肉を食べてはいけないのではないか、ということで肉を食べることが禁止になりました。タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオスなどへ伝わった仏教では3つの決まりを守った上で肉を食べるようになりました。よって日本における精進料理とは、肉や魚など殺生を含むものや、ネギ類に代表される匂いの強い食材を除く料理を指します。そのため、食材の持ち味を引き出すために、煮る、焼く、揚げる、蒸す等の調理法を試み、豆腐や高野豆腐、コンニャク、浜納豆などが食膳に並ぶようになったのです。
精進料理の正しい作法
日光研修で出される精進料理は当然のごとく肉や魚などを除いたものです。また日光山輪王寺の修行僧が疲労回復、栄養補給のために食べた生湯葉などもお膳に並びます。研修中の全ての食事はお膳を前に正座でいただきます。食前には天台宗式略食事作法を唱えます(※1)。食事中は一切の「音」をたてることを禁じています。お茶を注ぐ「音」、お椀を置く「音」、箸を置く「音」、一切の「音」を出すことが禁じられています。
また食事を終えた後は洗鉢という作法があります。各器にお茶を注ぎ、一切れの沢庵を箸でもち、これを丁寧に洗っていきます。全ての器を洗い終えた後、洗い汁を一つの器に集め飲み干し、食事を終えます。最後に己の「命」のために、他の「命」をいただいたことを感謝し、精一杯物事に打ち込むことを約束する食後観(※2)を唱えます。学校給食でも毎食以下のお唱えをして、感謝の心につなげていきます。
※1:「食前観」
われ今(いま)幸(さいわい)に、仏祖(ぶっそ)の加護(かご)と衆生(しゅじょう)の恩恵によって、この清き食(じき)を受(う)く。つつしんで食(じき)の来由(らいゆ)をたずねて、味の濃淡(のうたん)を問わず。その功徳を念じて品(しな)の多少をえらばじ。いただきます。
※2:「食後観」
われ今、この清き食(じき)を終わりて、心ゆたかに力(ちから)身(み)に充(み)つ。願(ねが)わくは、この心身(しんじん)を捧(ささ)げて己(おの)が業(わざ)にいそしみ誓って四恩(しおん)に報(むく)い奉(たてまつ)らん。ごちそうさまでした。
精進料理を通し己を乗り越えていく
この食事作法で生徒はなぜ「音」をたててはいけないのか、なぜ「洗鉢」をするのかと最初は疑問をもちながらいただきます。しかし研修が進むにつれて、僧侶に叱咤激励されながらもその真意を理解していきます。「音」をたてない理由というのは「恩」を感じることなのです。自分の目の前に調理された食物は本来、命を全うすべきところを、我々人間が生きるために「命」を終えることとなったのです。
また食膳に運ばれるまでには収穫をする人、運搬をする人、料理をする人など、たくさんの人のお蔭様で我々は「いただく」ことができるのです。その「恩」を感じる時間だからこそ、音をたてずにその「恩」つまり因果関係に思いをはせ、「命」に感謝して「命をいただく」のです。精進料理は食物のみの命をいただいていますが、彼らがいただく日ごろの食事は動物まで含まれます。命に差異はありませんが、よりしっかりと感謝をしなけばなりません。日光研修では精進料理を通じて、日頃の食事に感謝をする心を育んでおります。
したがって、普段ならば食事を好き嫌いで選別してしまうような生徒も、きちんと残さずにいただく努力をしています。中には、自分に負けじと苦手食材にもチャレンジして、それを克服していきます。じっと正座をしたまま、一切の「音」をたてることなく、ひたすらに食事に向かう…誰に言われたわけでもなく、自分で己を乗り越えていく瞬間です。精進料理がもたらしてくれた新たな自信です。
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監修:駒込中学校・高等学校
学校イベント情報
■オープンスクール:2018年4月1日(日)
詳しくはこちらから【食育への取り組み】
本校では完全給食を実施しており、日々の給食に対して必ず食前観と食後観をお唱えします。これは己が生きるために頂くすべての命、収穫や運搬、料理に携わった方々に感謝をし、またその命を頂くからこそ、日頃の勉強や部活動に精進する姿勢を育みます。ただ頂くだけではなく、来由に心をはせることにより、他者に心を寄せられる「一隅を照らす人」への一助となっております。
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