新型コロナ禍の中でのオンライン授業、私立と公立の違いは?
inter-edu’s eye
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、首都圏をはじめとする一部地域の学校ではいまだに休校状態が続いています。
各自治体や学校では、緊急事態宣言が発令されて以降、オンライン授業ができる環境の整備を懸命に進めてきています。しかし、オンライン授業が始まったものの、各家庭で行わなければいけない準備への負担、対面式のときとは異なる授業内容などに、不安や戸惑いの声もあがっています。
そこで、お子さまが実際にオンライン授業を受けている保護者の方にヒアリング。またインターエデュの掲示板に寄せられたオンライン授業への疑問や不安の声などから、オンライン授業の現状について見ていきます。
オンライン授業が地獄?保護者の不安はどこに?
オンライン授業には主に2つのタイプがあります。あらかじめ収録した授業動画を収録した映像視聴するタイプと、双方向でのやりとりが可能なビデオ会議タイプです。
授業で使われるツールもさまざまですが、双方向のやりとりが可能なタイプだと、一般企業でも使われるビデオ会議システムのZoomや、学校向けに特化した教育支援サービスGoogle Classroom、Classi(クラッシー)などを使っているところが多いようです。
オンライン授業を受けるためには、端末の準備が必要です。すでに学校でICT環境が整っており、生徒に1人一台のパソコンもしくはタブレット端末が貸与されている場合もありますが、そうでない場合には、各家庭で所持しているパソコンやタブレット、スマートフォンを使用することになります。そのため、まずは各家庭で、授業を受けるための端末の設定から行う必要があります。
オンライン授業が少しずつ動きだすにつれて、インターエデュ の掲示板でもオンライン授業に関する投稿が増加してきました。
中でも、「オンライン授業が地獄」と題されたスレッドでは
「下の子の私立中高一貫校、全コマがオンライン化されました。外部からは「さすがね」と言われているようですが、子供は「地獄だ」と言います。
5時間も6時間も毎日映像を見続けて、目が疲れて、辛い。視力がどんどん悪化する。冗長。集中力がもたないと。
上の子が通う都立高校。授業動画は1コマにつき15分程度にまとめられていて、Google Classroomに課題を提出して添削返答、質問は先生のメールアドレスかZoomによる質問タイムを活用という流れのようです。
下の子が通う私立のほうが動画拘束時間が長くて充実しているように見えますが、感覚として上の子の都立校のほうが現実的な気がしますし、満足度も高い、勉強も進んでいる気がします。あれれ、どうしてなんでしょう・・・。 」(こんなはずでは さん)
という、保護者の心配の声が。このスレッドには128件(2020年5月12日現在)のコメントが寄せられています。
また「オンラインありますか」というスレッドにも456件(2020年5月12日現在)のコメントが寄せられています。
どのコメントを見ても、誰もがお子さまの学校の状況や、他校の状況などについて気になっている様子です。学校が始まらなければ始まらないで不安になっていましたが、いざ始まってみても、対面ではなくオンラインでの授業。これまでに経験したことがほとんどない授業形態に、お子さまも親御さんも戸惑っている…、そんな状況が見受けられました。
オンライン化の取り組みは私立が先行。広尾学園、吉祥女子のオンライン授業とは
では実際に私立中高一貫校ではどんな授業が行われているのでしょうか。そこで、早くからICT教育に取り組む広尾学園中学校、吉祥女子中学校の授業内容について、同校にお子さまが通われている保護者の方に、お話をうかがいました。
・広尾学園中学校
同校のオンライン授業は4月15日から始まりました。50分授業で月〜金は6時間目まで、土曜日は4時間目まで行われています。
毎朝、8時25分にホームルームがあり、8時35分には1時間目がスタート。実技科目も、体育ではラジオ体操やストレッチ、体幹トレーニングを実施。技術は動画学習、美術は工作などを行っているとのことです。
授業についてお子さまからは「チャット機能でリアルタイムにやり取りができるので、質問しやすい。クラスメイトに直接会えておしゃべりできることがいい。ただ双方向オンライン授業なのでお互いの表情が見えすぎることも(笑)。技術や美術は通常授業のほうがわかりやすい」という感想が。
お話をうかがったご家庭では、1日中パソコンの画面を見続けることになるので、タオルでの温冷ケアなど、目を休ませるための対策もしっかり行っているそうです。
また、同校では、有志によるオンライン授業の相互サポートなど、生徒たち自身も率先して新しい環境下での学びを充実させるべく取り組んでいます。
・吉祥女子中学校
同校では4月13日からオンライン授業がスタート。朝は10時10分からホームルームが始まり、これ以降、30分授業が6時間。14時50分が終業です。
体育では筋トレやダンスの映像授業が行われています。
1か月、オンライン授業を受けてきて、お子さまからは「質問は先生個人にオンラインでできるのであまり不便は感じない。小テストもたくさんしているが、自己採点なので本当に理解しているかどうかわかりづらい」という感想が聞かれました。
授業時間が30分と通常より短めに設定されているのは、長時間端末の画面を見続けることになる生徒の負担を軽減しようという意図もあるのでしょう。
こちらのご家庭では、オンライン授業が始まってから、お子さまは「宿題をためない」「課題はなるべくその日のうちに提出」を心がけているということでした。さらに筋トレに力を入れるようになり、動画を探してトレーニングもしているそうです。
注目の学校
地域・学校によってバラツキのある公立。高校では早めに取り組んでいる学校もあるが…
独自に環境構築を進めることができる私立の学校と比べて、どうしてもオンライン授業などの導入が遅くなってしまっているのが公立の状況です。
そんな中でも、都立高校の中には、一部、比較的早くからオンライン授業に取り組んでいる学校もあります。
たとえば都立日比谷高等学校では4月7日に対応を協議し、翌週にはオンライン授業の試験配信を開始。現在ではZoomで双方向のホームルーム、Classiで課題提出を実施しているとのこと。
一方で、小中学校は意思決定が市区町村の教育委員会単位になってしまうということもあり、対応は遅れがち。さらに地域によってバラツキが出ています。
東京23区では、港区が唯一、オンライン授業を導入。また2017年から区立小中学校の生徒一人ひとりにタブレット端末を貸与(通信費は区が負担)している渋谷区では、3月2日から共同学習支援ツール「コラボノート」で学習を進めています。新宿区では、5月12日になってようやく、一斉メールで端末の所持を問う調査が全中学生の家庭に対し行われたという状況です。
文部科学省は4月21日、新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休校に関連した公立学校における学習指導の取組状況の調査結果を発表。これによると4月16日時点では、臨時休校中または休校予定の1213自治体、25,233校のうち、「デジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習」は29%、「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」は5%という状態でした。
東京都は「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」の開始を前倒しに
公立学校でのICT環境整備を進めるには、自治体の予算、教育現場でのIT人材不足、セキュリティの問題などさまざまなハードルを乗り越える必要があるといわれています。そこで文部科学省は、2019年12月に「GIGAスクール構想」を打ち出していました。これは2020年度までに学校には大容量通信ネットワークを完備し、2023年までには1人につき1台のコンピューターを実現させることを目標としたもの。その整備にまさに取り掛かろうとしていた矢先に、今回の事態となりました。
東京都は、「GIGAスクール構想」の実現に向け、11月にスタートする予定だった「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」を前倒し、5月中旬からスタートさせることを決めました。すでに都立高等学校・特別支援学校などの都立学校全247校の生徒と教員が利用する学習支援サービスとして、Microsoftが提供するOffice 365 Educationを利用(11月からはMicrosoft 365 Educationに切り替え)。さらにオンライン授業や教員・生徒のコミュニケーションツールとして、Microsoft Teamsを採用し、すべての教員と生徒が利用できるアカウントも設定されます。
また、愛知県では、リクルートのWeb学習サービス「スタディサプリ」を利用。このサービスは、授業というより家庭学習支援の側面が強いのですが、環境整備に時間がかかるならば、「まずはできるところから始める」ということなのでしょう。
オンライン授業を進めることで、子どもたちに学びの機会を
現状では、これまでICTを積極的に導入してきた学校とこれからという学校とを比べると、その差は歴然です。また記事の冒頭で紹介したスレッドのように、どんな授業が適切なのか、まだ最適な答えは見つかっていません。授業の内容や進め方についても、手探り状態で先生たちが作り上げているところだと思います。また、今後は生徒の個性によってオンライン授業に向くタイプ、向かないタイプなどの問題も出てくることでしょう。
いずれにしても、大切なことは、このオンライン授業化の流れを一過性のもので終わらせないこと。新型コロナウイルスは今後、第2波、第3波が来ると予想されています。今後もイレギュラーな登校・授業形態が継続してしまう可能性もあるのです。
万が一のときでも子どもたちが学びを継続できるシステムとして、オンライン授業が有用であることについては、誰もが共通認識を持つことができたでしょう。最初から理想のオンライン授業を子どもたち全員に届けることは難しいことです。それでも、できるところからやってみる。そして走りながらも改善を続け、すべての子どもたちが、どんな社会状況下にあっても学ぶことを続けられる環境を実現していくこと。それが、私たち大人の使命なのではないでしょうか。
(本記事は5月12日時点での情報をもとに作成しています)
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