麻布の先生が書いた「読解力を伸ばす本」:エデュママリサーチ第38回

麻布の先生が書いた「読解力を伸ばす本」2014年8月22日

麻布の先生が書いた「読解力を伸ばす本」

『小学生のための読解力をつける魔法の本棚』という本があります。2009年に発売されてから版を重ねているロングセラーです。著者は、かの麻布学園の現代文の先生、中島克治さん。

巻頭の「はじめに」に、この本を書いた目的がはっきり書いてあります。
「自分の子どもに本を好きになってもらい、できれば読解力を伸ばしたい、国語を得意科目にしてやりたい(苦手意識をなくしたい)と考える方々のお役に立てるよう、私なりの処方箋をまとめました。少しでもヒントになれば幸いです。」

◆読解力は、人間らしさも養う

読み始めてすぐ、これはハウツー本ではない、ということに気づかされました。読み進むうちに、これは一気に読んでわかったと言える本でもない、ということも判明しました。子どもが小学生になったら買い求め、子どもの成長とともに何度も手にとり、小学校を卒業するときまで身近に置いておきたい、そう思わせる本なのです。

なぜかといえば、子どもを本好きにし、読解力を伸ばす処方箋とは、単にテストの点をあげることではないからです。もちろんそうなれば国語の点数はあがるでしょう。でもそれは、本好きになり読解力が身についた効用のほんの一部にすぎません。目前のテストの点があがることより、もっともっと子どもにとって大事な、将来にわたって財産となる、人間としての高い能力が備わる……これが、第1章を読むだけでもずっしりと心に響いてくるのです。

昨今、子どもの国語能力が低下しているという指摘が、さまざまなところから発信されています。塾の先生から聞いた人も多いでしょう。しかし読解力が低下しているのは、子どもだけではないと、中島先生は指摘します。
「大人の世界でさえ、ただのわがままが「自己主張」としてまかり通っているようです。もはや社会そのものが、読解力を育てられない状況に陥っているかのようです。」と。

そして、「もちろん中学受験をしようがしまいが、読解力は人間が豊かに生きるために必要な能力です。そのためにもぜひ、できれば小学生のうちに人とどう向き合うのか、どう関わるのかということをしっかり教え、考えさせることで、読解力=人間らしさを養ってあげてほしいと思います。」

中島さんは、読解力とは、国語という教科だけのことではなく、人間の豊かさそのものに深くかかわる能力だとはっきりおっしゃっているのです。

とはいえ、中学受験を目前に控えていると、そんなことより偏差値アップが先と思ってしまう親御さんも多いことでしょう。それに子ども一人ひとりで、懸案となっている問題はさまざま。“算数はできるのに国語ができない”“計算は速いのに応用問題を読み間違えてしまう”、あるいは“本は好きなのに国語の点が悪い”などなど。もちろん、この本はこうした具体的な悩みにも、きちんと答えてくれます。そして第5章には、長文読解問題が出題されています。難関校を目指す中学受験生が、どれほど難しい問題に取り組んでいるかもわかります。

なかなか本を手にとらない子に、「本を読みなさい」と言い続けたところで効果がないのは承知のうえ。親子が置かれている状況によって、いくらアドバイスをしたところで、できないことが多々あるということも了解済み。そのうえで、それでは…と具体的なアドバイスをしてくれます。著者は名門麻布の先生、麻布の生徒たちと接したさまざまな経験もちりばめられていて、ふうん、そんなふうになるんだ~と感心することもあるでしょう。

◆子育てと中学受験のヒントがいっぱい

興味を持った方は、書店でまず目次を見てください。この本の素晴らしい点のひとつは、各章の小見出しを読むだけでもヒントになること。参考までに、「第1章 読解力の育て方・伸ばし方」の最初の小見出し5つを書き出してみます。

・「できる子」は読解力がある
・日常生活の中で求められる読解力
・読解力が育たない社会
・勉強だけの生活をさせないで
・音楽や図工は受験のときこそ必要な教科

「えっ、なんで? 受験まで半年もないのに音楽や図工より、受験科目を勉強させたいわよ」と思ってしまう受験生のお母さまもいらっしゃるかもしれませんね。でもできれば、そんなお母さまにこそ手にとってもらいたい。「えっ、なんで?」と思ったことがきっかけとなって、この本を読んでもらえれば、お母さまにもお子さまにも、そして中学受験の取り組みにも、とてもよい効果を及ぼしてくれるはずです。

国語の先生らしい美しくてわかりやすい文章には、心洗われる思いがします。最初にも書いたように、一気に最後まで読む必要はありません。ぜひ、ほんの少しでも時間を割いて、少しずつでも読んでみてください。そうすれば、忙しさや焦る気持ちにまぎれて忘れてかけていた大事なことが、少しずつ心に刻まれていくのを実感できると思います。

小学生のための読解力をつける魔法の本棚

できる子はこう読んでいる!
小学生のための読解力をつける魔法の本棚
中島克治著、小学館刊、1300円+税

子どもの国語力をつける家庭はここが違う! 麻布学園現役国語教師が教える家庭でできる読書術と国語勉強法。どんな本をどう読めば、読解力がつくのか? 「本を読むのに国語ができない謎」を解き明かし、家庭でできる国語力アップのための読書法を公開します。また読解力は、人が豊かに生きていくために必要な判断力や思考力のベースにもなります。そんな人間力を育むためにおすすめの、170冊のブックリスト付き。 …詳細はこちらから≫

中島克治さん

著者の中島克治さん
麻布学園中学・高校を経て、東京大学文学部卒業。博士課程に進んだ後、麻布学園中学・高校国語科教諭となる。幼い頃からの膨大な読書経験と、さまざまなジャンルの本に対する深い造詣をもって、人間性を育てて深めるための読書の重要性を伝え、読書への関心を高める指導を精力的に行っている。一女の父。