2021年中学入試の受験者数は「横ばい」か「微減」の予想
インターエデュ(以下、エデュ): 一都三県の2021年度の受験者数について、どのように予想していますか?
森上先生: 2020年度と同様、もしくは微減と見ています。
2020年度の受験者数は、リーマンショック(2008年)前と同じ水準です。過去20年間の受験者数の推移を見ても、ピークに来ていることがわかります。
問題は、この上昇傾向が2021年度も続くのか、それとも新型コロナの影響があって受験者数が減るのかということですね。受験者数の動向を知る手がかりとなる指標は3つあります。
1つ目は、6年生の学習塾の6年生の塾生数です。
2020年4月末時点において、大手塾3社の6年生の塾生数は、昨年の同時期と比べて増えています。
この大手塾3社には、難関校・上位校・中堅校を受験する塾生が多く在籍しています。
そのため、2021年の入試では、中堅校以上の学校で、受験者数が増加する可能性が高いです。
中堅校以下の学校については、大手模試の一つ、中堅校に強い模試の受験者数が参考になります。詳しい分析はこれからになりますが、昨年と比べ少し減っている感覚があります。
指標の2つ目は、過去の傾向です。
リーマンショックが起きた年2008年は、受験者数は減りませんでした。減少したのはその翌年からです。新型コロナが経済に与えた影響を考えると、同様の現象が起きると見ています。
やはり、6年生のご家庭は「せっかくここまでやってきたのだから…!」という想いが強く、受験をやめようとは考えません。5年生以下では、受験自体をするかどうかについて検討するご家庭も増えてくるでしょう。
3つ目の指標は、東京都の6年生の人口です。
2020年度の中学入試では、東京都の私立学校で受験者数が伸びました。それは東京都の6年生人口が2019年度より多かったことも影響しています。
東京都の6年生人口は右肩上がりです。したがって、東京都の私立学校で受験者数が伸びる可能性は高いでしょう。
総合すると、2021年の一都三県の受験者数は、東京都の学校で増加、一都三県全体で見ると横ばい、中堅校以下の受験者が減少するならば、微減という予想になります。
男子校・女子校で受験者数が伸長、共学校は横ばいの予想
エデュ: 男子校・女子校・共学校別ではどのように予想されていますか?
森上先生: 2020年度と同様に、上位の男子校・女子校で受験者数がさらに伸び、共学校では横ばいになると予想しています。
学校の種類別の受験者数の傾向を予想するときには、大学合格実績が参考になります。
2020年度の大学合格実績を見ると、上位の男子校・女子校が好調、共学校は男子校・女子校に比べて、目立つところはありませんでした。2020年度の中学入試も大学合格実績と同じ傾向にあり、受験者数は男子校・女子校で伸び、共学校が横ばいでした。
ここ数年、上位の私立学校で大学合格実績に大きな変動がなく、この傾向は2021年度も続くと思われます。
大学合格実績が好調となると、その学校の人気が上がります。2020年度の男子人気・上位校の平均倍率は2.5~3倍、女子で2倍前後でした。2021年はそれから0.1~0.2ポイント上がると予想しています。
大学合格実績のほかには、中学入試形態の一つである「※午後入試」も、ここ数年、受験者数に影響しています。
※「午後入試」…東京都と神奈川県の中学入試解禁日である2月1日の午後、もしくは2月2日の午後に行われる入試。入試科目は、2教科、またはここ数年人気となっている算数1教科と、少ない科目数で受験が可能。ただし、募集人員が少ないため、倍率が高い。
近年、午後入試を導入した男子校・女子校で、受験者数が伸びています。午後入試を導入した学校では、導入の2年目に、午前入試の倍率も伸びる傾向にあるからです。
共学校の受験者数動向については、大学付属校の受験者数がヒントになります。5、6年前から大学付属校の受験者数が増えてきました。センター試験の廃止など、大学受験の先行きが不透明なため、大学入試の心配がない付属校の人気が上がったわけです。早慶、GMARCHの付属校人気からはじまり、続いてそれ以外の大学付属校まで受験者数が増えつつありました。それが昨年高止まりをしています。
よって、2021年の共学校の受験者数は、横ばいとなると予想します。
入試問題に大きな変化はなさそう
エデュ: 入試問題に影響はありそうですか?
森上先生: 難関校・上位校では変わらないと思われますが、中堅校以下で出題範囲を狭める可能性があります。
先日、文部科学省は、大学入試・高校入試で出題範囲を縮小する要請を各自治体に出しました。それが中学入試にも多少は影響すると見ています。
加えて、2020年度から学習指導要領が変わったことも、入試にわずかながらも影響すると考えています。
変更点は、たとえば6年生の社会の学習順が、地理→歴史→政治から、地理→政治→歴史に変わったことです。これにより、中学入試では、歴史の出題が細かい内容ではなく、大きな流れを問う問題になると予想しています。ちなみに理科は範囲に異同はありません。
~現時点での2021年中学入試トピックス~
学校名 | 変更点 |
---|---|
吉祥女子中学・高等学校 | 2月4日入試を廃止し、2月1日と2日の2回入試に |
芝浦工業大学附属中学高等学校 | 男子校から共学校へ |
獨協中学・高等学校 | 2月1日午後入試導入 |
桐蔭学園中等教育学校 | 2月2日午後入試導入 |
神奈川大学附属中・高等学校 | 2月1日午後入試導入 |
聖徳大学附属女子中学校・高等学校 | 女子校から共学校へ 校名変更:光英VERITAS |
インターエデュ調べ
入試日程と実施方法は現時点で例年通り
エデュ: 新型コロナの影響で、入試の実施方法に変更はありそうでしょうか?
森上先生: 新型コロナの第2波がない前提で言えば、例年通りです。
一方で、新型コロナ対策で、試験時間を短くする、試験科目を1教科のみにする、といった対策を考える学校も今後でてくるでしょう。
第2波が来たときのために、オンライン入試の検討をしている学校もあります。しかし、オンライン入試は不正が行われやすい点がネックです。
オンライン入試は、不正とは関係のない入試、プレゼンテーション型の入試や、択一型ではない、回答に複数のパターンがある出題の入試では有効な手段となります。よって、学校がオンライン入試にふさわしい入試問題を準備できる場合は、オンラインになる可能性もあります。
難関校、上位校では、今のところオンライン入試の実施は難しいと見ています。
エデュ: 入試の日程に大幅な変更が出たり、入試の期間が長期化したりする可能性はありますか?
森上先生: その可能性は低いと考えています。例年通りのスケジュールと見てよいでしょう。理由は、中学入試が終わった後に高校入試が始まるので、私立学校側で入試のスケジュールを動かしにくいからです。
ただ、今後コロナの感染が拡大し、その影響で受験生が試験を受けられないというケースが一定以上発生した、もしくは学校が危険だと判断して入試を実施しなかったというような場合には、日程をずらすということはあると思います。
模試が予定通り実施されなくても、「過去問」で志望校判定を
エデュ: 大手塾が実施する、9月、11月の模試が中止となった場合、志望校が合格圏内かどうか、どのように判断したらよいでしょうか?
森上先生: 11月時点での過去問の出来具合を見ましょう。8割正解していれば合格圏内です。たとえ模試で良い点をとっても、過去問の出来が良くなければ合格は厳しい。合格判定の指標としては過去問が一番です。
エデュ: 併願校を模試の結果で決めようと思っていた場合には、どうしたらよいでしょうか?
森上先生: 併願校が決まっていないご家庭は、塾の先生にアドバイスをもらいましょう。塾の先生は、お子さんの学力、得意なところ、入試問題の向き不向きに合わせて、併願校にふさわしい学校を選定してくれます。
もし、お子さんがどうしてもここを受けたいという学校が3つ4つあったら、その学校の過去問に取り組んで出来具合を見ることです。
エデュ: ありがとうございました。
edu’s point
2021年度の中学入試の動向は、今のところ、2020年度の中学入試の結果・分析を参照するとよさそうです。受験生のご家庭は、情報が少ないことや受験勉強がうまく進められないことに対して、苛立ちや不安があると思います。しかし、中学受験の専門家は、「みんな同じ条件、焦らないで!」と言います。
受験生の親御さんは情報収集に、受験生は着実に力をつけていけるように、今できることをがんばりましょう!