教育×クラウドファンディング「スカラシップヤード」とは?
inter-edu’s eye
第32回では、教育とクラウドファンディングをかけ合わせたプログラム「スカラシップヤード」を教育機関に提供する港屋株式会社代表取締役の五島希里さんにインタビュー。なぜ新たなプログラムを始めようと思ったのか、どういう内容かなどをうかがってきました。
スタートラインすら引けない子どもがいる事実
教育とクラウドファンディング
エデュ:「スカラシップヤード」という言葉は聞き慣れない言葉ですが、どういったものなのでしょうか?
五島さん:「生徒たちが、自分の学び(Scholar)をチャレンジに変えて共感を集めると、巡り巡って、次の生徒たちの力(Scholarship)になる。誰でも、どこにいても、いま立つ場所から望む場所へ、航海をはじめる船を創り出す場(Shipyard)」のビジョンから取った3語を組み合わせた造語で、キャリア教育や総合学習などと組み合わせができるPBL(プロジェクトベーストラーニング)の位置づけになっています。
エデュ:なぜスカラシップヤードを始めようと思ったのでしょうか?
五島さん:いくつかの要因がありますが、やはり一番はユニセフのインターンや、海外で経験した孤児院でのボランティアです。現地の生徒たちを見て、何かの才能があるのかもしれないのに、スタートラインすら引けない子がいるという事実。そして日本は与えるばかりの支援をしてきたけれど、実はそれは自力で成長する力や何かを取りにいく力を奪ってしまうことにつながってしまうこと。これらの構造に根本から働きかけるような仕組みを作りたいと思いながら試行錯誤し、組み合わせたのが、「教育」と「クラウドファンディング」でした。これらの要素を形にしたのが、「スカラシップヤード」です。
エデュ:スカラシップヤードのプログラムではどんなことをするのでしょうか?
五島さん:実際にスカラシップヤードを取り入れた湘南学園中学・高等学校での中学2年生の事例を交えてお話しします。
まずスカラシップヤードではグループ単位で生徒たちが街で感じた「不(不思議、不満、不安)」などを探すところから始めました。例えばあるグループは湘南の海岸に流れつくゴミを見て、数え切れないほどのものがつくられ、捨てられる状況を見つめ直したい。そんなメッセージをお菓子のパッケージに印刷して発信しようという企画を立てました。当然印刷するには費用がかかるのですが、そこで登場するのが「クラウドファンディング」です。
クラウドファンディングは自分が作りたいサービスやアイディア、問題解決を実現するために、インターネットを通じて支援者を募り資金を集めることです。クラウドファンディングにはいくつかのタイプがあるのですが、スカラシップヤードでは全額受け取れる寄付型にしています。この受け取ったお金の一部は学校の手数料となりますが、そのお金を学校の奨学金などに使うこともできます。生徒のサービスやアイディアが増えれば増えるほど学校に入るお金も増える、そんな形をとっているのもスカラシップヤードの特徴です。
生徒たちと親御さんの意外な反応
生徒たちの目が輝く瞬間とは?
エデュ:実際にスカラシップヤードを体験した生徒たちの反応を教えてください。
五島さん:予想以上に楽しんでいました。スカラシップヤードではお金を集めるために、時には企業や商店街に行き、プレゼンテーション、PR活動、交渉をし、寄付者を集める必要があります。そこで、最初は素っ気ない態度をとっていた大人たちも乗り気になってくれたりすると、物事を自分で動かしているんだという楽しさを感じてくれていたように感じました。
エデュ:親御さんの反応はいかがでしたか?
五島さん:私も意外でしたが、学校に対して「何か私たちにできることはありませんか」と協力的でした。今回海が身近にある環境だったので、海の問題を扱ったチームが多かったのですが、海洋研究をされている親御さんが学校に出向いて色々レクチャーしてくれたり、「実はこんな問題もありますよ」とかアドバイスをくれましたね。関わりたい親御さんがこんなに周りにいる事実には私だけでなく、先生も驚いていました。
エデュ:先生の反応も教えてください。
五島さん:最初はお金が集まるかどうか不安そうでした。でも、生徒たちの発想の豊かさに驚いたり、先ほどお話した関わりたい親御さんがこんなに周りにいる事実に、驚いていました。
エデュ:3つの意外な反応があったのですね。一番、印象に残っていることは何でしょうか?
五島さん:スカラシップヤードは新しいプログラムなので、公開すればすぐお金が集まるんじゃないかとか、取材がたくさん来るのでは?と思った生徒が多かったのですが、蓋を開けてみると全然そんなことなくて…。自分たちの言葉で熱意を持ってちゃんと説明しないと人は動かない。そのためにあえてうまくいっていない情報を外部に公開して、親御さんや近隣の企業に声をかけて、プレゼンを聞いてもらい、フィードバックをもらって、「こんな風にやればできるんだ!」と気づいた時の生徒たちの目の輝きは非常に印象に残っていますね。
スカラシップヤードの将来性
自分の才能を発揮していける場所探し
エデュ:スカラシップヤードを通し、子どもたちにこんな風になってほしいというのはありますか?
五島さん:社会問題に対して何か成し遂げてみたいなというものが見つかってくれればいいと思っています。また、これからの時代、新たに増減する仕事の中で、自分はこれだ!というものを見つける時は、自分が実際にやってみて好きだなとか違うなとか、肌で触って確かめていくものだと思っています。自分なりにやってみてこっちだなとか、こういう力をつけたいなとか、自分で探していけるようになっていってほしいです。そういうことの先に社会問題が解決したとか、自分の才能を発揮していける場所を自分で探していければいいと思っています。
エデュ:今後の目標ややってみたいことを教えてください。
五島さん:私立中高だけでなく、公立校で取り入れたり、学校や国を越えてのプロジェクトの実現ができたら面白いと思っています。あとはどうしてもクラウドファンディングに対して不信感を持ち、導入を悩んでいる先生たちが多いので、そもそも「お金」というものが、信頼の対価や共感の形である点と、スカラシップヤードでは、手数料を奨学金などの有用な使い方をすることができる点をもっとしっかりアピールしていきたいです。
編集者から見たポイント
不透明な時代の中で子どもたち自身が問題を発見し解決する能力を身につけられる点で、スカラシップヤードには将来性を感じました。2016年に設立されたばかりの港屋株式会社ですが、これからの活躍には注目していきたいところです。
「港屋株式会社https://www.minatoya-jpn.com/」はこちらです。
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