中学受験の「算数が苦手」は親子で乗り越えられる
inter-edu’s eye
第33回では、中学受験算数プロ家庭教師として約20年、きめ細かい算数指導とメンタルフォローをモットーに毎年多数の合格者を輩出している株式会社アートオブエデュケーション代表取締役の安浪京子さんにインタビュー。親御さんができるメンタルサポート法、大手進学塾での指導経験もあるからこそ分かる、塾との付き合い方などもうかがってきました。
算数が得意、苦手になるご家庭の特徴
親御さんの関わり方が大きく左右
エデュ:志望校への合格を目指すうえで「算数が苦手」という声を聞きますが、なぜ苦手になってしまうのでしょうか?
安浪さん:子どもが算数を好きになるしかけをしていないことが原因の一つです。親御さんがお子さまを放置していたり、親御さん自身は熱心だけどお子さまはゲームやYouTubeに熱中しているご家庭です。とくにYouTubeは短い時間で興味を引くように作られているので、それに慣れてしまったお子さまはじっくりと考え、自分で答えを出すタイプの問題、つまり算数が苦手科目になっていってしまいます。
エデュ:では、今は算数が苦手でも、これから得意になるにはどうしたらよいでしょうか?
安浪さん:親御さんがお子さまに対してしっかり働きかけることです。例えば九九も学校に任せきりではなく、家で復唱させたり。何だそんなことと思われるかもしれませんが、意外とやっていないことが多いです。あとは多少誇張でもいいので、できない部分ではなく、できている所を見つけて褒めて褒めまくり、苦手意識を持たせないことも大切です。
ただ気をつけてほしいのが、「熱心になりすぎてしまうこと」です。実際に私が見てきたご家庭で、親御さんがとても熱心に教えているのに、お子さまはプレッシャーに耐えられずうまくいかなかったケースを何度か見てきました。このあたりはバランスが難しいので、一概にこうした方がいいというのは言えませんが、意識してほしいですね。
学力はあるのに本番で力を発揮できない
力を発揮できる自信のつけ方2つ
エデュ:学力は十分なのに本番に弱かったり、自信がない子どもの原因を教えてください。
安浪さん:「場数を踏んでいないこと」が原因だと思います。場数を踏むには模試などを受ける必要がありますが、ただ練習と本番は別物。そこで親御さんができる本番で力を発揮できる、自信のつけ方を2つお話します。
1つ目は「親の声掛け」です。
お子さまにいくら自信を持ちなさいと言っても簡単には持てないので、先ほどお話したように、例え誇張でもいいので、とにかく褒めて、その子のことを肯定してあげることが大切です。「見直しをきちんとしなさい」、「計算を丁寧に」と声がけして送り出しても、プレッシャーになるだけです。
2つ目は「暗示かけ」です。
例えば「朝、これを食べた人は○○点アップするらしいよ!」とか。ただこの方法は日頃から使っていると真実味が薄れるので、ここぞというときの最終手段にしてください。
エデュ:ご家庭で日常的に親御さんができるメンタルサポートは何でしょうか?
安浪さん:一番大事なのは、まずは親御さん自身のメンタルを安定させることです。お子さまは親御さんの一挙手一投足を見ています。親御さんが不安定で揺れ動いていると、お子さまも揺れ動いてしまいます。
あとはお子さまの寄り所、安心する場所をしっかり家庭内に作ってあげることです。実際に最難関と言われる中学校合格を目指すお子さまで、「不合格だと親に見捨てられたり、がっかりされるんじゃないか」と気にしている子を何人も見てきました。でも本番で実力を出すためにはこれでは駄目なんです。親御さんはお子さまに「あなたを愛しているよ」、「頑張っている姿をちゃんと見ているよ」、「どんな結果になってもパパとママは最後まであなたの味方だよ」とちゃんと伝えてあげることが重要です。
エデュ:塾との上手な付き合い方についても教えてください。
安浪さん:塾の先生に可愛がられるようにとアドバイスしています。お子さま自身が質問しに行ったり、授業中に積極的に手をあげたり。でももちろんそれができない子もいます。そういった場合には親御さんが「うちの子引っ込み思案ですが、よろしくお願いします」と塾の先生と仲良くなっておいて、目をかけておいてもらうことをおすすめします。
中学受験を断念し高校受験でリベンジ
中学受験は向き不向きがはっきり分かれる
エデュ:安浪さんの考える中学受験をするメリットは何でしょうか?
安浪さん:勉強の仕方や体力が身につく、学力が伸びる、うまくいけば親子の絆が強まる、などですね。とくに勉強する体力(一定以上の時間・量に取り組む体力)を小学生のうちに身につけておくと高校受験、大学受験だけでなく、大人になってからも役立つと思います。
エデュ:では逆にデメリットは何でしょうか?
安浪さん:中学受験に向いていないお子さまに無理やりやらせることによって、その子を潰してしまう可能性があることです。中学受験は成熟度が高い子には向いていますが、低い子は高校受験まで待ち、別の勉強をさせる方が良いと私は思っています。11歳・12歳は個人差が大きいのですが、15歳で横並びになります。向いていないのにやらせることで勉強嫌いになるし、結果も出ない。結果が出ないというのは、数字でいうと偏差値30~40の学校にしか受からないということですが、その子も高校受験まで待てば伸びるチャンスがあるかもしれません。
ここからは実際にあったエピソードですが、中学受験で第一志望に落ちてしまい、滑り止め校に進学しようかどうか悩んでいるご家庭がありました。滑り止め校も決して悪い学校ではないのですが、お父さまは「その学校に進学するなら学費は払わない」の一点張り。結局、高校受験でリベンジするために公立中学校に通ったのですが、中学受験で鍛えた勉強の体力があるから学力もぐんぐん伸びるんですよね。そして高校受験では渋幕、筑駒、開成に合格して筑駒に進学を決めました。
エデュ:なるほど、その子は中学受験では結果は出せなかったけど、切り換えて高校受験で結果を出せたということですね。最後に貴社のこれからの目標を教えてください。
安浪さん:中学受験業界の健全化、ひいては家庭における教育格差をなくす取り組みをしていくことです。最近活動を通し、メンタルサポートの重要性の認知度が高まってきていると感じるので、もっと広まっていってほしいと思っています。
編集者から見たポイント
中学受験家庭をサポートする安浪さんから出た「高校受験のすすめ」は意外でしたが、その子を思うからこそ出るアドバイスに深い愛情を感じました。一度目指した私立中学校に、高校受験でリベンジというのも一つの選択肢かもしれません。
「株式会社アートオブエデュケーションhttp://artofeducation.co.jp/」はこちらです。
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