開成、柳沢校長が語る! 自己肯定感を高める子育て・教育
inter-edu’s eye
TOMAS(トーマス)主催の「中学入試 スタートアップガイダンス」が11月4日に開催され、来場者は500名以上と大盛況でした。その中で開催された、開成中学校・高等学校の校長、柳沢幸雄先生の特別講演、「『見守る力』自立した人生を歩める大人に育てるには」は、中学受験を目指すご家庭はもちろんのこと、すべての親御さんに伝えたい、子育て・教育の本質に迫る話でした。その内容を特別にご紹介します。
子が独り立ちをするために必要なのは、「集団になじむ力」
情報技術が発達している今、学校へ通わず自宅でもwebを介して授業や教育を受けることができる時代です。通学の時間も無駄にならず、合理的な選択だと考える人が多くいても不思議ではありません。しかしそんな時代であっても、学校は必要だと考える方が大半です。それはなぜなのか、学校の存在意義とは何なのか。柳沢先生は、その問いの答えを導き出すために、今の若者の現状について触れました。
現代の15~34歳の若者において、フリーター、ニートが全体の約10%を占めています。そして、40~50代で長年「引きこもり」の状態が続くと、社会復帰が難しくなり、さらに深刻な事態となります。そのきっかけは、就職活動がうまくいかなかった、職場になじめなかった、疾病があった、不登校を繰り返していた、とさまざまですが、「その人が所属しようとしている集団になじめなかった、ということにまとめることができる。」と柳沢先生は言います。
柳沢先生:人間は社会的な動物であり、一人だけでは生きていけません。たとえば日常の生活を考えたとき、衣食住を自分一人で用意はできません。そういう意味で、人は集団の中で生きています。よって、集団の中でのふるまい方を習得することは、子が独り立ちをし、基本的な生活力を得る、必須の条件なのです。そのためには、学校に子どもたちを集めて、生徒集団をつくることが必要です。集団の中でどのようにふるまい、どのように人間関係を作り、そして、どのように生きていくかを練習する場が学校です。これが現代における学校に通うことの意義だと思います。知識を伝えるところであるとともに、そういう生き方の基本的な知恵を身につける場所が学校なのです。
親の子どもに対する共通の願いは、「一人で生きていける力を身につけること」。それを身につけることができるのが学校、ということですね。
人とのコミュニケーションの基礎は親子の会話「2対1の原則」
集団になじむためには、人とのコミュニケーションが欠かせません。そこで必要なのは「言葉」。相手が理解しやすいように話せる力が必要になってきます。その力を子どもに身につけさせるために、柳沢先生は、「親は子どもと話す機会を増やしていくことです。親がしっかり聞いてあげると、子どもは安心してしゃべり始めます。そして子どもが長く話せるようになるには、親が上手に合いの手を入れてあげることです。」と言います。
親は聞くことを主として、子どもが話す割合を「2」、親が話す割合を「1」にする。柳沢先生は、これを「2対1の原則」と言います。また、6つの疑問詞(Who、When、Where、What、Why、How)で子どもに話させることもポイントだそうです。たとえば、「きょう楽しかったよ。」「何が楽しかったの?」「砂場で遊んで楽しかった。」、「誰と遊んだの?」と会話をつなげていくように、親は6つの疑問詞を使って合いの手を入れると、子どもは長く話せるようになるとのことです。このように言葉のキャッチボールを繰り返すことで、子どもは、「物事を人に伝えるためには、そういう内容にすればいいのだ」と理解するのです。
柳沢先生:論理的な表現は、会話の中で訓練することができます。他者を理解できるのは、論理だけです。人が人になじむためには、きちんとした論理的な表現、相手が了解できるように話をすることが必要な条件なのです。そうすることで読解力も身につきます。
子どもが話をしないからとしゃべりすぎる親や、詰問するように会話をする親も実際多いのではないでしょうか。子どもの言葉をうまく引き出すように、6つの疑問詞を意識した合いの手で、子どもの表現力・読解力を育てていきたいですね。
子の自己肯定感を高める“垂直比較”のほめ方
自己肯定感に関しては、先進国の中で日本は圧倒的に低い、とニュースなどでよく見聞きします。内閣府の調査によると、自己肯定感や自信が20歳~24歳で一番低くなっているとのことです。この年代は、教育期間を終えて社会に巣立ち、就活に直面する年代です。この時期に、さらに低くなるのは、いったいなぜなのでしょうか? 柳沢先生は、それを来場者に考えてもらうため、自分は自己肯定感が高いと思っている人、自分に自信があると思っている人に挙手を促しました。すると前者が3割、後者が5割という結果でした。
柳沢先生:20~24歳で自己肯定感が低くなっているのは、巣立ちの段階でミスマッチがあるということです。これはなぜかということを考えてみましょう。子は親の鏡です。子どもの行動、価値観、子どもの意識、これらは親を真似して身につける、親の意識の反映です。自己肯定感が低いということを、子育ての問題というよりかは、みなさん自身の問題としてお考えになることが大切です。
では、自己肯定感を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。柳沢先生は、一つ目に「ほめること」と言います。
柳沢先生:「這えば立て、立てば歩めの、親心」ということわざがあるように、乳幼児の頃は子どもの成長を具体的に感じることができて、ほめて喜んでいたことでしょう。このときの親の心理は、子どもの過去の時間と今を比較しています。比較すると子どもの成長が実感できます。つまり、子どもの時間軸で、垂直に比較するとほめることができるのです。何か改良が加えられた点を具体的にほめるということです。もう一つは、子どもは親が喜んでくれることを正しいこと、やっていいことと思ってやります。それが自然と伸びていきます。つまり親が望ましいと思っている価値観をほめることによって、その価値観を伝え、子どもに植えつけることができます。
子どものどこをほめたらよいか分からない、という親御さんも多いようですが、他人との比較ではなく、子どもの以前の状態と比べて、何ができるようになったのかを具体的にほめるということですね。
二つ目は「家庭が安心できる場所であること」。
柳沢先生:子どもたちの日常は、ほとんどすべてのことが新しいことです。そこに挑戦していけるのかどうかと不安の連続です。子どもが生きている世界は、常にそういう状況です。ですから、気分が落ちついて休める場所が必要なのです。それが家庭であり、親の肌のぬくもりです。
つまり、親は垂直比較で、子どもを具体的にほめてあげると、子ども自身が成長を実感できます。すると、新しいことにチャレンジしようとします。加えて、親がほめてくれたことに対し、子どもは安心してやっていいことだと感じられれば、新たな挑戦への原動力にもなります。そして、挑戦する子どもの不安を和らげるために、家庭が安心できる場所であること、そのトータルとして、子どもの自己肯定感が高くなるというわけです。
柳沢先生は、講演のまとめとして、「『見守る力』とは、『子どもの発する小さな成長のサインを見つけ、それを伸ばすことで子どもの素質を大きく育てること』」と締めくくりました。ただ見守るのではなく、意識をもって見守ることが大事で、そこで親の力が試されるのだと感じました。
最後に、中学受験生のご家庭に向けた柳沢先生からのメッセージをご紹介します。
柳沢先生:中学入学試験の結果と中学1年生の学年末の結果、高校を卒業するときの結果を比較していくと、中学1年生の学年末の結果が、将来を占う意味で非常に重要な指標となります。これはどういうことかというと、子どもが受かった学校に早くなじみ、毎日楽しい時間を過ごせて、自信をもっていろいろなことに挑戦すると、将来にプラスに働くということです。中学受験で第一志望校に入ることができる子どもは約10%と言われています。そこで第一志望ではない学校でもいかに早くなじめるか、親は子どもに、そういう意識づけをすることが大切です。たかだか中学校の入学試験です。「その結果で人生が決まるわけではない、通学する学校を居場所として自分を成長させていきなさい」と、親が子どもに意識づけをしていくことが重要なのです。
子どもの教育というと、高い教育水準の学校へ行かせる、多くの知識を身につけさせるために勉強をさせる、ということに偏りがちです。それももちろん大切なことですが、今回の講演では、親として、教育の根っこの部分とは何かを考え、自分自身を振り返ることも、子どもの教育にとって必要なことだと多くの方が感じたのではないでしょうか。
中学入試 スタートアップガイダンス(主催:TOMAS)
TOMASの入試イベントは、今回のように、名門校の校長を招くなど、趣向が凝らされ、親御さんから、たいへん高い評価を得ています。入試イベントは、TOMAS生ではない方も参加が可能です。生徒1人に講師1人、完全1対1の個別指導塾ならではの、手厚いサポートを感じる機会にもなりますので、ぜひ今後のイベントもチェックしてみてください。
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