そこで、今回は、さらに一歩踏み込んで、実際に大学が行っている子ども向けの公開講座への潜入取材を敢行! 大学の先生や職員さんにもお話をうかがってきました。
「中央大学 クレセント・アカデミー」の『こどものための哲学教室』
今回、記者が取材を行ったのは、中央大学多摩キャンパスで2019年7月20日(土)に開催された『こどものための哲学教室』。
一般的に、大学が子ども向けの公開講座を実施する場合、そのテーマは、理系のプログラミング教室や化学の実験、ものづくり、自然観察などが多くなっています。また、テーマが文系だとしても、「お金の仕組み」「身近な法律」など、実学寄りのものが主流です。そこに、「法科の中央」があえてぶつけてきた、小学生にはひょっとしたら難しいかもしれない「哲学」というテーマ。一体どんな講座になるのだろうかと、記者はそこにも興味をもっていました。
大学のゼミのような雰囲気で進行する授業
授業は、今回の講師を務める竹中真也先生と参加した小学3年生から6年生までの子どもたちの自己紹介から始まりました。その後、この日のテーマ「哲学」とはどんな学問なのかの説明が行われ、続けてこの日のルールが子どもたちに伝えられました。
この日の話し合いのルール
「チュー王子のぬいぐるみを持っている人だけが話し、ほかの人は話し終わるまで静かに聞く」
ルールを確認したところで、教室では2つのアニメが上映されました。スタジオジブリの『千とちひろの神隠し』の一場面と、ディズニーの『アナと雪の女王』の一場面です。
よく知っている作品を見て、難しそうなイメージの「哲学」に少し構えていた子どもたちも楽しそうな様子になりました。
ここで、竹中先生から今回の講座のテーマが発表されました。
「しあわせってなぁに?」
子どもたちに「あなたは『しあわせ』ですか?」という問いが投げかけられます。
「急にこんなこと聞かれてもびっくりするよね。でもこれを考えるのが今日のテーマです。それじゃあ、今から5分間でワークシートを書いてみてください」と、竹中先生。
子どもたちの手元のワークシートには、自分がしあわせかどうかについての6つの選択肢。
- とてもしあわせ
- しあわせ
- ときどきしあわせ
- 少ししあわせ
- しあわせではない
- わからない
さらに下には、その理由を記入する欄もあります。
シンプルなようでいて、大人でも少し手こずりそうな問いかけですが、子どもたちは一生懸命に考え、記入していました。
ワークシートの記入を終えたところで、一旦トイレ休憩。
ここまでで、学校の授業と同じ45分が経過していました。1時間にも満たない時間とは思えない濃密な前半でした。初対面同士の子どもたちですが、早くも何組かの友だちの輪ができていました。
さて、後半は各人が記入した内容の発表と「しあわせ」についての討論です。
ランダムに回ってくるチュー王子を手にした子どもたちが、自分はしあわせか、そうでないか、それはどうしてか、などを順に発表していきます。どの子も自分の考えを自分なりの言葉で語ってくれました。竹中先生は、それぞれの考えに相槌を打ったり、考えを深めるような問いを投げかけたりしながら、子どもたちの発言を引き出し、そのキーワードをホワイトボードに書き込んでいきます。
子どもたちの発表が一回りしたところで、話し合いはまとめの段階へ。
竹中先生は、子どもたちの発言の中から共通点を拾い出したり、発言を促したりしながら、「しあわせ」について板書していきます。
講座の様子は、まるで大学のゼミでの討論か、あるいはビジネスマンのブレインストーミングのよう。「しあわせ」という抽象的なテーマについて、小学生でもここまで深く考えられるのだと、記者はただただ感心しながら、その様子を見守っていました。
話し合いの結果、この日のメンバーで導き出した「しあわせ」の条件は、
- 生活面が満たされていること
- 楽しいこと
- 人との繋がりがあること(一人でも幸福になれるが、人とのつながりをもつ方がより幸福になる)
- しあわせでないと感じるときもあること(しあわせの裏面には幸せでないことがつねにある)
の4つでした。
特に4は、なかなか考えさせられます。
「しあわせでないと感じるときもあるからこそ、しあわせなときは、これを続けたいな~って思う」と高学年の女の子が答えてくれました。
かなり深いところまで踏み込んだこの言葉には、記者はもちろん、竹中先生も「驚きました。大学生の議論かと思うほどでした。」とコメント。参加した子どもたちの考えを深めていく力に感心していました。このまとめを受けてもう一度ワークシートを記入し、2回目の休憩に。
先生に話しかけたり、頭の上にチュー王子を乗せたりと、先ほどの休み時間よりももっと子どもたち同士の距離が縮まっている様子でした。