センター試験速報 国語

2020年度

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全体概観

設問数・マーク数が昨年から1つずつ減った。評論は昨年に比べやや硬質な文章。小説は戦後初期に発表された作品が出題された。古文は過去にも頻繁に出題された擬古物語。漢文は『文選』からの五言詩が出題された。

難易度:昨年並み

大問数4題、各大問の配点50点。設問数・マーク数は漢文で昨年より1つずつ減った。

第1問の評論は、「レジリエンス」という概念の現代的意義を論じた文章。設問形式に大きな変更はない。字数は約3200字で、一昨年から減少した昨年(約4200字)より更に減少した。「レジリエンス」という概念に馴染みのない受験生はとまどったかもしれないが、筆者が豊富に具体例をあげており、論旨に従って読み進めれば、十分理解可能な内容である。問5は、生徒の会話に基づいた空欄補充問題だが、実質的には文章の内容合致問題と言える。

第2問の小説は、昨年と同じく戦時下の状況が大きく影響した内容で、病妻と魚屋の若者の死に対する「私」の内面が多く語られている。手紙文の引用をどう読むかが問われているが、慣用句の問題、表現の特徴に関する問題も例年通り出題されている。問題分量は1ページ程度減少している。

第3問の古文は、過去にも頻繁に出題されてきた物語系作品。本文の長さは過去十年の平均より200字ほど少なく、設問形式はほぼ従来どおり。擬古物語で出題されることが多い和歌の問題はなかったが、中盤の尼上の発言内容や後半の人々の様子などを正確に読み取るには精密な読解力が必要である。問2は珍しく二年続けて敬意の方向の問題であった。

第4問の漢文は、単独では古く1992年度の白居易の古詩以来、散文中に詩が入る形でも2007年度以来、久々に漢詩の出題であった。設問形式は、語の読み、返り点のつけ方と書き下し文との組み合わせ、心情説明など、例年と変わりのないものもあるが、詩のきまりの押韻の空欄補入、詩句の表現の問題に加え、図から答を選ぶという珍しい形の出題もあった。設問数は7から6に戻り、マーク数も7になった。

国語全体としては、昨年並み。

設問別分析

【第1問】河野哲也『境界の現象学』→やや易化

問1の漢字は例年通りの出題。問2は4~6段落の内容が解答根拠。問3は、ソーシャルワークの話が始まる7段落以降、特に「脆弱性」を説明した10段落が解答根拠となる。三行選択肢だが、いずれも二文に分けて説明されており、読みにくさはない。問4は、傍線部に「それ」という指示語が含まれるので、直前の12段落の内容をおさえた上で、「ミニマルな福祉の基準として提案」の内容を、13・14段落に即して理解すればよい。問5は、「本文の趣旨を踏まえ」とあり、文章全体の内容との照合が求められる。「レジリエンス」とは、「変わらないこと」を目指すのではなく、「変化する環境に柔軟に対応する過程である」ことをおさえる。問6は、(i)で「適当なもの」、(ii)で「適当でないもの」を選ぶことに注意。

【第2問】原民喜「翳」→やや易化

問1の語句の問題は基礎的なもの。問2は「私」の心情を問うもので、一行選択肢となっている点でかえって判断が微妙になっており、やや難。問3は「私」が推測した妻の心情を問うという設問だが、標準的なレベル。問4は「魚芳」の青年の態度を問うもので平易。問5は手紙を読んだ後の「私」の内面の動きを問う三行選択肢の設問だが、消去法で解けば大丈夫だろう。問6は昨年どおり不適切なものを二つ選ぶ形式で⑥がやや紛らわしい。

【第3問】『小夜衣』→やや難化

問1は例年通り解釈の問題。(ア)(イ)は重要単語・敬語の知識で解ける。(ウ)の「あはひ」はやや難。問2は2年続いて敬意の方向の問題。動作の主体や受け手を正しく読み取って解く。問3は直前の内容から考える。問4は尼上の発言を正しく読むと同時に、本文にない内容が含まれる選択肢を排除する。問5は直前の内容から考える。問6は本文にない内容が含まれる選択肢を排除して考えるのだが、正解は本文最終部に相当するので、最後まで気を抜かずに読まなくてはならない。

【第4問】『『文選』謝霊運の詩』→昨年並み

五言、全20句の詩で、単独では1992年度の白居易の古詩以来の漢詩の出題であった。問1は「倶(ともに)」「寡(すくなし)」の読みの問題、問2は返り点のつけ方と書き下し文の組み合わせ問題。問3は詩句に描かれた様子を図①~④から選ぶという珍しい形であった。問4は押韻(偶数句末の空欄補充問題)、問5は語句の表現の問題と、漢詩らしい問いである。問6は詩にこめた作者の心情説明の問題。

2019年度

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全体概観

大問数・マーク数は昨年通り。設問数は漢文で1つ増えた。評論はやや随筆調のもの。小説は5年連続していた女流作家の作品ではなく、戦前(昭和15年)に発表された男性作家の作品が出題された。古文は過去にも頻繁に出題された中世小説。漢文は杜甫の文章が出題された。

難易度:やや易化

大問数4題、各大問の配点50点。設問数は漢文で1つ増えたがマーク数は昨年通り。

第1問の評論は、「翻訳」の難しさについて、随想調に論じている文章で、昨年よりも分量が一割程度減り、一見して読みやすいものではあった。また、昨年のように図表を絡む設問は出題されていなかったが、問5で五人の生徒が話し合っている中で本文の趣旨と異なる発言を選ぶ問題が出題された。問6では(i)で「適当でないもの」、(ii)で文章の構成に関して「適当なもの」を選ぶ問題が出題されたので、注意が必要である。

第2問の小説は、私小説作家の小説で読みやすい文章であった。昨年と比べて会話の量は同程度だが客観描写が多くなっている。設問の形式は例年通りで、病気の妻を気遣う主人公の内面をどう読み取るかが大きなポイントとなる。

第3問の古文は、過去にも頻繁に出題されてきた物語系作品。内容は難しくないが、例年(過去十年平均)に比べて二割ほど長く、また、狐が姫君に恋をするというおとぎ話的内容であるため、最後まで物語の展開を正しく理解して読み続けるには読解力と気力が必要。設問形式はほぼ従来どおりで紛らわしい選択肢も少ないが、例年頻繁に出題されてきた和歌に関わる設問は本年も出題されており、これがやや難しい。問6は、物語系作品で問われやすい「内容に関する説明(内容合致)問題」ではなく、登場人物の関係と主人公の描かれ方を問う問題であった。

第4問の漢文は、著名な詩人杜甫の、叔母の死を悼む文章が出題された。2010年度に設問中に杜甫の詩が出たことはあるが、文中に詩は出題されなかった。設問形式は語の意味、内容説明、理由説明、昨年度同様書き下し文と解釈の組み合わせと、例年と大きな傾向の変化はない。設問数が6から7になったが、マーク数が8であることに変わりはない。

国語全体としては、やや易化。

設問別分析

【第1問】沼野充義『翻訳をめぐる七つの非現実的な断章』→やや易化

問1の漢字は例年通りの出題で、基本~標準レベルの問題。問2は第4段落最後に引かれた傍線部の問題であり、そこまでの流れをつかめば解ける基本問題。問3は「筆者がそのように考える理由」を問う問題であり、選択肢も長く、やや難。問4は筆者の考え方を問う問題で、選択肢も長いがレベルは標準。問5は五人の生徒の話し合いの中で、「本文の趣旨と異なる発言」を選ぶ問題であり、本文の理解がしっかりされていれば、特に難しくはない標準レベル。問6では(i)で「適当でないもの」、(ii)で文章の構成に関して「適当なもの」を選ぶ問題が出題されたので、注意が必要である。

【第2問】上林暁「花の精」(『星を撒いた街』)→やや易化

問1の語句の問題は基礎的なもの。問2~問4は主人公の心情を把握する設問で標準的。問5は3行選択肢の主人公の心情の推移を探る設問で本文をていねいに読む必要がある。問6は例年通りの表現の問題だが、やや紛らわしい。

【第3問】『玉水物語』→昨年並み

問1は例年通り部分訳の問題。(ア)はやや長いが、いずれも重要単語・敬語の知識で解ける。問2は2015年以来の敬意の方向の問題。人物関係を正しく読み取って解く。問3は直前までの内容と「いたづらに」の意を、問4は直前の「いかにしてさもあらむ人に見せ奉らばや」を、問5は本文6行目「我、姫君に逢ひ奉らば、必ず御身いたづらになり給ひぬべし」を、問6は本文最終箇所の連歌・和歌のやりとりを、それぞれふまえて解く問題である。

【第4問】『杜詩詳註』→昨年並み

問題文は185字で、ほぼ平年並み。設問数が、2011年度から2016年度までと同じ7に戻ったが、解答するマーク数は8で変わりない。杜甫の「文」であり、「詩」は出題されなかった。問1は「対」「乃」の意味の問題。問2、問5、問6は内容説明、問3は理由説明、問4は書き下し文と解釈の組み合わせ問題。問7は杜甫がこの文章を書いた趣意を問う問題であった。特に新しい傾向はなく、概ね例年の傾向の範囲内であった。

2018年度

問題・解答はPDFファイルです。ご利用の端末や通信環境によっては表示に時間が掛かる場合がございます。

全体概観

大問数・設問数・マーク数とも昨年通りの出題。評論では新傾向の出題があった。小説は現代女流作家の作品からの出題。古文では2001年以来の歌論の出題。漢文でも久々に史伝が出題された。

難易度:やや易化

大問数4題、各大問の配点50点。設問数・マーク数も昨年通り。

第1問の評論は、比較的新しい文章からの出題で、人間の、現実をデザインするという基本的条件について具体例を通じながら論を展開している。文章量が昨年より1割程度増えており、読むのに少し時間がかかったかもしれない。また、問3が新傾向の問題で、問題文に関する図についての四人の生徒の対話が交わされる中、空欄に正しいものを入れる設問が出題された。文章の表現と構成を問う問6は、(i)が適当でないものを1つ選ぶ問題、(ii)が適当なものを選ぶ問題なので、注意が必要である。

第2問の小説は、5年連続で女流作家の作品からの出題であった。ページ数、文字数、また、設問数、設問形式は昨年通り。現在、活躍中の作家の作品であり、時代的に古びた感じはしないものの、夫と子を亡くした妻の心境を中心とした内容で、受験生にはなかなか共感は得られにくいかもしれない。問5の理由説明問題は選択肢がまぎらわしく、問6の表現に関する問題は、本文を丁寧に読み返す必要があるため、正解を得るまでに時間がかかると思われる。

第3問の古文は、17年ぶりの歌論で取り組みにくく感じたかも知れないが、例年より本文が短く、内容も読みやすい。問われている内容が書かれている箇所を見つけられれば、解答しやすい問題である。問2の文法問題は新形式の問い方で、助詞に関わるのも新傾向と言えるが、問われている知識は基礎的内容。問5、問6は傍線部はないが、該当箇所を見つけて選択肢と照合する問題。全体を見わたす合致問題の出題はなかった。

第4問の漢文は、近年随筆的内容の文章が多かったが、本試験では1999年度の『列女伝』、追試験も含めれば2011年度の『宋史』以来、久々に史伝による出題であった。設問形式は、語の意味、解釈、書き下し文と解釈の組合せ、理由説明、内容説明に加え、主体を問う問題が出題されたが、大きな傾向の変化はない。

国語全体としては、やや易化。

設問別分析

【第1問】有元典文・岡部大介『デザインド・リアリティ−集合的達成の心理学』→やや易化

問1の漢字は、(ア)の「意匠」がやや難しいが、ほかは基本的な問題。問2は、前後を読解すればわかる基本問題。問3は新傾向の問題。問題文に関する図についての4人の生徒の対話が交わされる中、空欄に正しいものを入れる設問が出題された。問4、問5はいずれも3行にわたる選択肢の問題だが、本文ときちんと照らし合わせれば正解できる標準レベルの問題。問6は文章の表現と構成を問う問題。(i)が適当でないものを1つ選ぶ問題、(ii)が適当なものを選ぶ問題なので、注意が必要である。

【第2問】井上荒野「キュウリいろいろ」→昨年並み

問1の語句の問題は、辞書的な意味で対処できる。「枷が外れる」はやや難だが、本文の内容に即していけば解ける。問2〜問4は標準的な理由説明・心情説明問題だが、かなり間違いやすい選択肢になっている。問5は3行選択肢の理由説明問題で、やや難。問6は昨年と同様、表現に関する問題だが選択肢に指摘された箇所を探すのに時間がかかり、やや難。

【第3問】本居宣長『石上私淑言』→やや易化

問1は例年通り部分訳の問題。(ア)は前後の文意も考える必要が少しあるが、(イ)(ウ)はほぼ単語の知識で解ける。問2の文法問題は新形式の問い方で、傍線部に関する文法説明のうち不適当なものを選ぶ問題。助詞が関わる問題は2016年の「の」の用法を問う問題があったが、それ以前の出題にはほぼ見られない新しい傾向と言える。問3は、「問ひて云はく」に対する答である「答へて云はく」の後半「恋はよろづの……」に注目して選択肢と照合する。問4は、「答へて云はく」の最初の5行に注目して選択肢と照合する。問5は傍線部がないが、注目すべき箇所が「さはあれども」から始まる段落と分かれば正解は得られる。問6も傍線部はないが、例年のような本文全体を見わたす合致問題ではなく、本文1枚目(30ページ)最終行の「色を思ふも本は……」と、最終段落の内容を選択肢と照合して解く問題であった。

【第4問】李とう『続資治通鑑長編』→やや易化

問題文は187字で、ほぼ平年並み。設問数が昨年度から6に戻っている。マーク数も昨年同様8であった。本文は注も多く比較的読みやすいものであった。問1は漢字の読み方ではなく、「議」「沢」の意味の組合せ問題。問2は昨年同様短い傍線部の解釈の問題。問3は、返り点と書き下し文ではなく、書き下し文と解釈の組合せ問題であった。問4は2ヶ所の名詞と述語の主体の組合せ問題。問5は理由説明、問6は内容説明問題で、概ね例年の傾向の範囲であった。

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