伝統行事「春季旅行」から学ぶ美術の授業への取り組み方

女子美術大学付属高等学校・中学校
女子美術大学付属高等学校・中学校(以下、女子美)は世界でもまれな美術大学付属の女子校であり、美術教育を基幹としながら「智の美」「芸(わざ)の美」「心の美」を育んでいきます。幅広い行事を通した人間教育にも力を入れており、最初の一大行事である中学1年生の春季旅行で得るものは少なくありません。

行事を通じ「計画→実行→評価→改善」という流れに慣れる

何事にも真剣に、楽しく取り組むのが女子美の校風で、中高6年間で行われる幅広い行事も同様です。

最初の一大行事は中学1年生の春季旅行。長野県の軽井沢を舞台に2泊3日で行われ、屋外でのスケッチを通じて豊かな観察力や表現力を育みます。スケッチの後には全作品を展示し、講評を通して作品をより良く仕上げるポイントを知ります。春季旅行は中学2年生で千葉県の房総、高校1年生で長野県の安曇野と場所を変えて実施されます。


中学1年生の春季旅行は長野県の軽井沢を舞台に行われます
中学1年生の春季旅行は長野県の軽井沢を舞台に行われます
スケッチ後、講評を通して作品をより良く仕上げるポイントを知ります
スケッチ後、講評を通して作品をより良く仕上げるポイントを知ります

女子美の行事は企画や準備から始め、話し合いを重ねて役割や方向性を決め、発表と振り返りを生徒全体で行うキャリア教育の役目も果たしています。春季旅行のほか、運動会や女子美祭は伝統行事となっており、イベントごとに行う「計画→実行→評価→改善」という流れは、個々の成長をしっかりと促します。多くの卒業生が「今社会で行っていることは女子美の行事と同じです」と話すとおり、早くから社会人の素地を作る点が特色です。

初夏の軽井沢で野外スケッチに取り組む意義とは?

教室を飛び出し、新緑豊かな自然をスケッチする時間はどのような意義を持っているのでしょうか。2024年5月、中学1年生の春季旅行を引率した美術科の佐野由紀枝先生に、2泊3日の伝統行事を振り返っていただきました。

美術科の佐野由紀枝先生
美術科の佐野由紀枝先生

中学1年生の春季旅行では、塩沢湖を中心に庭園や美術館もあるリゾート施設の軽井沢タリアセンでスケッチをするのが恒例となっていますね。

佐野先生 教室では味わえない、広い空間を描ける点が最大の醍醐味だと考えています。初夏の軽井沢ではさまざまな緑を見ることができます。生徒たちがスケッチに励んだのは、湖に映る景色も含めてたくさんの色を見つけ、自分らしく表現することを満喫できる場所でした。また、深沢紅子野の花美術館や軽井沢千住博美術館では、野外スケッチから感じた構図の捉え方や自然界の色の美しさに対して、新たな気づきや答えを個々で感じられたようです。

野外スケッチに向けて、どのような準備をしたのでしょうか。

佐野先生 旅行前の美術の授業では学校の屋上から「副都心を描く」という課題を実施しました。近くに見えるものから遠くに見えるものまでの空気の層のほか、車や飛行機の音、鳥の声を感じながら取り組みました。広い空間を描く醍醐味と、その瞬間は体全体を使って制作することの楽しさを感じる体験がそれぞれの感性を豊かにしていくと考えております。

スケッチ当日の様子を教えていただけますか。

佐野先生 今年は曇り空で、日差しが穏やかな一日でした。風が葉を静かに揺らす音、鳥の声、土の香りなど、五感を使って全身で景色を味わって描く時間を楽しんだことが筆を動かすエネルギーになったと思います。

春季旅行の講評会の内容はいかがでしたか。

佐野先生 講評会では一人ひとりの作品を丁寧に全員で鑑賞し、作品のテーマ、全体感、色彩などいくつかのポイントをもとに1枚ずつ担当教諭が講評を行いました。自ら真剣に取り組んだ時間があるからこそ、それぞれの生徒が友達の作品から学ぶことも多くあったようです。

ほかにも野外で学ぶ機会はありますか。

佐野先生 秋の校外授業があります。中学1年生は多摩動物公園に出かけ、動物をスケッチをしてきます。2学期最後にはスケッチした動物をモデルにイメージを膨らませ、模様や形、色の要素も想像して「動く作品」を作ります。工程が複雑なので、計画的なもの作りを体験できる時間となっています。

日頃の成果を見られる機会が「女子美祭」や「女子美ニケ中学生・高校生展」ですね。

佐野先生 中学1年生らしい、美術を楽しみながら取り組んだ課題を展示することができました。来年以降も、見に来ていただく皆さまに、表現することの楽しさを共感していただけるとうれしいです。

教室では味わえない、広い空間を描ける点が最大の醍醐味
教室では味わえない、広い空間を描ける点が最大の醍醐味
中学1年生は秋に多摩動物公園に出かけ、動物をスケッチします
中学1年生は秋に多摩動物公園に出かけ、動物をスケッチします

あこがれの存在だった女子美生になって良かったこと

入学してすぐ風景を写し取る春季旅行は、どのような気づきや成長をもたらしたのでしょうか。また、以降の学びの中でどのような変化が生じ、どのような点に女子美生としての実感を抱いているのでしょうか。4名の中学1年生に話をうかがいました。

取材に応じてくれた4名の中学1年生。左から、K.N.さん、K.N.さん、Y.N.さん、K.A.さん
取材に応じてくれた4名の中学1年生。左から、K.N.さん、K.N.さん、Y.N.さん、K.A.さん

春季旅行のスケッチで気づいたことや自身の成長を教えていただけますか。

K.N.さん 木や池などたくさんの物を一枚の絵に入れる必要があり、しかも対象が手前にも奥にもあるので奥行きを出す難しさを感じました。

K.N.さん 野外スケッチはその場でその瞬間を捉え、決まった時間内で進める必要があり、細かく描く部分と大まかに描く部分を判断するスピードがついたと思います。

Y.N.さん 植物の多い構図になったので、色の差別化や遠近法を出すことは難しかったですが、着彩の技術は上がったと感じています。

K.A.さん 光の方向は時間によって変わるので、長い時間、屋外で同じモチーフを描く難しさを感じました。そうした条件では、先に形を描いて主な色をのせ、そこから明暗をつけるような技術向上に役立ったと思います。

5月の野外スケッチから半年以上が経ちましたが、その間にどのような変化がありましたか。

K.N.さん ボールなど単純なモチーフを描くときも、よく観察して表面のデコボコや影の変化などを細かく描いて、立体的に表現できるようになりました。

K.N.さん 最初から色を混ぜるか、色を重ねて塗っていくかで絵の雰囲気が変わることに気づくことができ、絵の具の使い分けの技術を持って絵を描けるようになりました。

Y.N.さん 野外スケッチの経験を生かして、時間配分や着彩を意識するようになりました。

K.A.さん 明暗のつけ方やモチーフに向き合う気持ちが変わりました。自分の絵を客観的にも見られるようになりましたが、これは友達の絵を見て感想を言う時間があるからだと思います。

野外スケッチだからこその気づきや成長もありました
野外スケッチだからこその気づきや成長もありました
作品を見てお互いに意見を言い合い、切磋琢磨する環境があります
作品を見てお互いに意見を言い合い、切磋琢磨する環境があります

1年前まであこがれの存在だった女子美生になって良かったと実感できることを教えてください。

K.N.さん 友達と比べながら表現力を吸収できる環境ですし、お互いに意見を言い合える点が勉強になっています。

K.N.さん 美術が好きという中にたくさんの「好き」があって、それを尊重できているなと思います。自分の「好き」を広げ、大切にできるところが女子美の魅力だと実感しています。

Y.N.さん 何より美術の授業が楽しいです。先生方から丁寧なアドバイスをいただけますし、ほかの人の作品を見られる点も気に入っています。

K.A.さん 絵の具を出すときや絵が完成したとき、「自分は女子美にいるんだ」と楽しくなります。そして、「もう自分はあこがれの存在になれたんだ」と思い、充実感を感じます。

編集後記

女子美の特色は、中心にある美術教育で芸術技法を学ぶだけでなく、春季旅行に代表されるように、年間を通して行われる各イベントで感性や物事に真剣に向き合う姿勢を育む点にあります。友人たちから刺激を受けられる環境も魅力でしょう。多くの行事を通じて身につける「計画→実行→評価→改善」というプロセスは、社会に出てからより価値を増すはずです。

イベント紹介

入試報告会では入試の最新情報をお知らせします。

イベント名 日時
中学校ミニ学校説明会 ※要予約
2024年1月11日(土) 14:00~
高等学校ミニ学校説明会 ※要予約 2024年1月11日(土) 16:00~
高等学校卒業制作展 (於 東京都美術館)
2025年3月1日(土) ~6日(木) ※展示時間9:30~17:30
中学校入試報告会 ※要予約 2025年3月22日(土) 10:00~・12:00~
高等学校入試報告会 ※要予約 2025年3月22日(土) 14:00~