女子に工学系学部進学の道を拓く瀧野川の新教育

瀧野川女子学園中学高等学校
男女の理工系分野への進学率には大きな偏りがあると言われ続けてきましたが、そうした固定観念を覆そうとしている女子校が存在します。瀧野川女子学園中学高等学校(以下、瀧野川女子)では、医・薬・看護学部だけに留まらず、理工系学部への進学も増えています。その学習背景について、生徒の学びを支える先生方から紹介いただきました。

情報はワクワク感を実現する手法のひとつ

ICT導入から約15年が経ち、早期から授業を進化させてきた情報科の先生からお話をうかがいました。

情報教育研究室で大学生への情報教育を施していた山岸先生
情報教育研究室で大学生への情報教育を施していた山岸先生
「コンピューターの使い方をもっと多くの人に伝えたいと思い中高に来ました」

保護者世代にも分かりやすく瀧野川の「情報」を説明してもらえますか。

山岸先生 テクノロジーを駆使して思考の幅を広げる手段を学ぶのが情報の授業です。本校は中高一貫校ですから時間的余裕があり、学校独自に中学3年間の「情報」と高1の「情報基礎」の授業を行なっています。学習指導要領の規定よりもはるかに多くの授業数が設定されているので、チャレンジできることが他校より増えています。大切にしていることは、生徒たちに「授業」の感覚をあえて持たせないことなのです。
知識を増やすというよりも、社会で使う実用的なスキルを身につけるように指導しています。スプレッドシートやドキュメントなど、クラウドベースで最先端のビジネスソフトやプレゼンテーションなどを自在に使いこなせるようにするのはもちろんですし、プログラミングやその考え方であるアルゴリズムなどももちろん学びます。それに加えて、本校ではプロ向けの画像編集を行うAdobeのソフトや、映画やCM制作などでプロが使うFinal Cut Proでの高度な映像制作なども重点的に行なっています。これらは、実際に手を動かして何かを作りながら学ぶことによって、初めて実践的な力にたどり着くものなので、先ほども申したように、授業よりも一緒に何かをつくっていく学びを行なっています。自由度の高いカリキュラムを設定できるのが私学ならではの強みであり、公立校では叶わない潤沢な教育を実施していることが、私にとっての喜びでもあります。

メディア系のスキルだけでも仕事ができそうですね。

山岸先生 型にはめるような正解や見本を設けず、創造性を伸ばすために表現方法を導入しました。それはCM映像だったり、好きなものランキングだったりと、生徒自身が好きなテーマや手段から選べます。こだわりを発揮するためにスキルが上がり、プレゼンテーション用動画は相当のクオリティで見せてくれるようになりました。
高2の創造性教育で取り組む「事業化実習」では、世の中に存在しない商品を作り出して販売します。新たに生み出した商品の価値は、CM映像を手段とすればその魅力が伝わります。これからの時代は価値自体を作り出して売り出す仕事が必要になりますので、事前に経験しておけば社会で必ず役に立つことでしょう。

クラスメイトと共に学ぶ現代の数学を実践

理工系学部への進学を数多の学習サポートで支えている数学科の坂本先生からお話をうかがいました。

位相幾何学の研究に没頭してきた坂本先生
大学を副総代で卒業し、博士課程で位相幾何学の研究に没頭してきた坂本先生
「どんな教科にも理解できた際の喜びが根幹にあるのを実感しましょう」

論理的思考力を身につけるための手段として、数学が再評価されているようです。

坂本先生 数年前に早稲田の政治経済学部で数学が入試科目の必須になりました。なぜかというと、現代では経済は自然科学分野といわれ、数学で議論するからです。現代の経済のように、私たちが普段話す言葉のレベルを超えて、量や変化していく数字を議論するには、数学という言葉が必要なんです。普通の言葉で表せないような複雑な現象も数学を使えば表すことができますし、それを使って具体的な議論をすることができるのです。論理的な思考力の中でも、人間的な言葉の限界をさらに超えて客観的論理的な表現力、思考力を身につけるのが数学です。数学を学ぶことによって、言葉の壁を超えて、実にさまざまな事柄を客観的に論理的に議論することが可能になります。
最近では、建築工学科は男子学生より女子学生の方が多いこともあるそうです。建物や空間を作ることは素敵な仕事ですよね。こういったものを作り出すには、言葉だけでは無理で、数学の力が必要なんです。そこで、数学嫌いが多いといわれる女子生徒に敬遠されない数学の授業内容を考えていたら、コミュニケーションを通して学ぶという方法が良いのではないかと考えたんです。そうしたら多くの女子生徒が関心を持ってくれました。具体的にはまず、板書中心だった数学の授業で、公式を説明するために生徒のプレゼンテーションを採用したんです。生徒各自が異なる受け止め方をするので、数式を使って議論していく中でたくさんの驚きがあり、楽しく話をしながら考えを説明する想像力も鍛えられました。なので本校の数学の授業は実に賑やかにみんなで議論しながら進んでいくんですよ。数学が苦手な女子生徒もみんなで議論しながら進むので「楽しい」という声があがっています。
こうして鍛えられた力は、未知の分野を切り拓いていくこれからの仕事で強力な力を発揮します。幅広い分野に進学・就職する際の素地として大いに役立つと知ってもらいたいですね。その多くが他の学校にはない内容であり、本校の魅力にもなっています。

指導上のこだわりはありますか。

坂本先生 キーボードのタイピングだけで済ませるのを避けて、iPadとApple pencilを使用して、数式やグラフ、モデル図などを自由に書け、共有できるデジタル手書きを推奨しています。クラウド共有することで、リアルタイムにみんなで考えることができます。この考えるプロセスというのが、数学的な力を身につけるときにとても大切なんです。ある旧帝国大学レベルの数学の入試では、9割が考え方の筋道に配点されるくらいなんです。それくらい、数学は考え方の筋道が大切なんです。
また、情報授業の内容をヒアリングしてから数学授業の進度を調整するケースがあります。他授業の進度を把握することで、より有効な学びを実践することを可能にしています。臨機応変な対応は、教員が同じ部屋(いわゆる職員室)を使っている点が大きいと思われます。

世界を変える可能性を秘めた物理の立ち位置

考えもしなかった進路を夢見るきっかけにつながるかもしれない物理を担当する明石先生からお話をうかがいました。

 実験道具を自作してしまうという物理の明石先生
 実験道具を自作してしまうという物理の明石先生
「東工大の学部生として地球惑星科学を学び、院生時は電波天文学にのめり込みました」

理系学部志望者が増えた背景には学習サポートの工夫があったのではないですか。

明石先生 物理では1つの公式をきちんと理解してもらうのに1コマ分の時間がかかる場合があります。本校ではICTの力もあって授業の前半で公式の理解まで進められるので、後半を問題演習の時間にすることで学習のサポートをすることができます。問題演習では数学と同様に、手書きすることを重要視しています。私が問題を解くときにどのようにペンを運んでいるのかを、iPad上で見せることが出来るので、生徒も自分が問題を解くときに手を動かすことができます。また、授業に使うノートはクラスのみんなで共有しているものなので、クラスメイトの演習問題の解答プロセスを見て新たな考え方を知ることも出来て、大変面白いと思いますよ。

STEAM教育の要素を採り入れた独自の授業例はありますか。

明石先生 先ほど坂本先生が情報と数学の関係性を言及されましたが、物理では数学の力を借りて公式を導き出し、その公式について実験を行い、実験結果を情報の力を借りて確かめるケースもあるんですよ。また、高1が取り組んだロボットハンド製作は、プログラミングに加えて物理や機械工作といった要素を掛け合わせた授業です。4月から授業の準備を進め、手の再現を試みる過程で私たち教員にとっても気づきがあり、意義深い授業になったと考えています。

学問が持つ真の面白さを感じる学び方

副校長の山口龍介先生からは、既成概念にとらわれない学びへの姿勢についてお話をうかがいました。

学問を広める使命感を実現する副校長の山口龍介先生
学問を広める使命感を実現する副校長の山口龍介先生
「工学部出身者として価値を知るサイエンステクノロジーの要素を導入しました」

時代を先取りした教育を実践されていますね。

山口先生 理科・算数(数学)の授業は、基礎を学ばなければ真の面白さにたどり着くのは難しく、その過程がまるで「手続き」のようで楽しくないと感じている子は多いことでしょう。学問が持っている本来の面白さは、他分野との境界を意識せずに横断できる点にあります。教科書は逆さに読んでも学べるものであり、基礎から応用に至る学びもあれば、逆に現実の応用から基礎に遡る学問もあるのです。
むしろ多くの女子中高生にとって、理学や工学に興味を持つ第一歩はこの「現実社会に近い出来事」だったり、「リアルな体験」です。これに接した時の一人ひとり異なる興味や好奇心を、知的欲求に繋げていくのが本校の先生たちの授業なのです。
女子生徒は一般的に理数系教科が苦手だとされますが、実際のところ物理や化学現象、現実に近い現象に触れた時の好奇心はむしろ高いと思います。なので本校ではできるだけ現実に近いリアルなものから授業を行うようにしています。
大学以降の学問や研究、実社会での仕事も理論から現実を発展させるよりも、現実から始める取り組みの方が多いですし、実社会の問題は答えが一つではないことの方が多いのです。中高生のうちから現実社会や本物の学問の考え方を実践して鍛えていく、何より楽しんでいくことは有効だと私たちは考えます。

瀧野川の卒業生が活躍する姿を見越した学びだと理解しました。

山口先生 これからの中高教育は、答えのある問題を解くだけでなく、将来活躍する実社会に直結した学問に取り組むべきです。これまでの中高教育は、理科数学を中心に、謎を突き止めようとする求理学(サイエンス)に大きく偏っていました。しかし実社会では、これらを道具に新しいものを作り出す工学の考え方(エンジニアリングデザイン)の方が、実業界に直結していて規模も大きく、多くの面白い仕事が存在しています。私たちの学校の理数の学びの中には、理学だけでなく、それを使って何かを作り出す、現実社会に繋げていく工学的アプローチがたくさん含まれています。情報も合わせて、ロボットハンド作りをする情報の授業や、大道芸ロボットを作る創造性教育では、まだこの世に存在しない、人々を喜ばせるものを作ります。
大学受験は単なる通過点であり、その先に待ち受ける実際の世の中に対処できる能力を育てることも重要です。原因を追求する理学だけでなく、それを道具に新しいものを生み出し喜ばせる工学の考え方を身につけることで、本校の生徒が実社会でより活躍貢献できるように、学びを進化させています。何か新しいものを作ってみたい、と考えている女子であればぜひ、本校で一緒に学びましょう。

編集後記

瀧野川は2010年から他校に先駆けてICT活用を先導してきた経緯があります。進取の精神が実り、中学生は柔らかな頭脳から目を見張るようなアイデアを引き出せるようになりました。さらに進化・発展を続ける瀧野川の今後にご注目ください。

イベント情報

 

イベント名 日時
学校説明会(小学3~6年生) 2024年12月7日(土) 13:30~16:00
学校説明会(小学3~5年生) 2025年1月11日(土)13:30~16:00
入試直前対策講習(小学6年生) 2025年1月11日(土)13:30~16:30