問題文の出典から見えるもの
各校の読解問題の出典
学校名 | 出典元 | 出版 |
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開成中学校 | 『君たちは今が世界(すべて)』朝比奈あすか | 2019年6月 |
『中国 虫の奇聞録』瀬川千秋 | 2016年6月 | |
渋谷教育学園渋谷中学校 | 『城のなかの人』星新一 | 1973年 |
『哲学の教科書』中島義道 | 1995年 | |
桜蔭中学校 | 『エベレストには登らない』角幡唯介 | 2019年12月 |
『思いはいのり、言葉はつばさ』まはら三桃 | 2019年7月 | |
女子学院中学校 | 『「迷子」のすすめ』阿純翔 | 2014年6月 |
『濃霧の中の方向感覚』 | 2019年2月 | |
雙葉中学校 | 『二つの環境〜命は続いている〜』武田邦彦 | 2002年 |
さて、国語の入試問題といえばやはり中心になるのが文章読解問題。難関校の読解問題の出典をまとめると上の表のようになります。
2019年発行の書籍が目立ち、渋谷教育学園渋谷中学校以外の学校は、比較的出版されたばかりの書籍から題材を採っていることがわかります。問題に使われている文章を「読んだことがある」という事態を少なくするための配慮ともいえるでしょう。
開成中学校
中でも注目の出典は、開成中学校の『君たちは今が世界』と、桜蔭中学校の『思いはいのり、言葉はつばさ』、雙葉中学校の『二つの環境〜命は続いている〜』でした。
開成中学校が読解問題の素材文に選んだ『君たちは今が世界』は、受験生と同じく6年生の子どもたちの学校生活を描いた作品です。舞台となるのは、やや荒れ気味の公立小学校の「学級崩壊気味」といわれるクラス。章ごとに異なる目線−−クラスの中の目立つポジションにいようと虚勢を張りつつも、いじめられっ子と表裏一体の危うい場所にいる男子、周囲を「くだらない」と判断し塾での受験勉強にだけ自分を見出す女子、コミュニケーションの苦手な男子、複雑で駆け引きだらけの友だちグループで過ごす女子…から綴られたこの物語には、思春期の小学生のリアルで危うい日常が描かれています。
冒頭の男子目線の章ならば開成受験生にも感情移入がしやすいかもしれないところなのですが、問題文に引用された部分は女子同士の複雑な駆け引きの章でした。
合格の暁には6年間を男子だけの環境で過ごすことになる受験生に、共学で6年間を過ごせば自然と学ぶことになる女の子の心理を考えさせよう…などという意図があったのかどうかはわかりませんが、たいへん興味深い出題でした。
どの小問も、登場人物の心情や行動について説明させるものでしたが、「なんとなくわかるんだけど、うまく言葉にするのは難しい…」という受験生の声が聞こえてきそうな内容。これらの解答を制限時間内でまとめるためには、国語の読解力や記述力に加えて、友人関係の経験値や人の気持ちを慮る力までも必要だと感じました。
桜蔭中学校
桜蔭の『思いはいのり、言葉はつばさ』は、「女に学問は要らない」という意識が強く、男性優位だった時代の中国で、1人の少女が文字に出会い、それを学ぶことで成長していくという物語です。中略を挟みながら、物語全体の筋も追えるような長文の素材文で、受験終了後、書店でこの本を買い求めたくなる母娘も多かったのではないかと想像されます。将来、日本をリードしていく女子を育てる桜蔭の受験生にこの物語を読ませることで、彼女たちに恵まれた環境で学べることの幸せを再認識させるような出典だと感じました。
雙葉中学校
雙葉の問題に使われた『二つの環境〜命は続いている〜』は、2002年発行の書籍でした。やや古い出典を不思議に思いましたが、この大問の最後の小問で納得! この本の発行当時と現在とを比較して考えを述べさせるという出題があったのです。一つの文章を深く読み込むだけでなく、世の中の動きを踏まえて考えを記述するためには、国語力だけでなく、日頃からの社会の出来事へ関心をもっておくことが必要です。設問も、記述だけでなく多岐にわたっており、総合的な力をもった生徒を求めていることが感じられました。
このような目線から国語の入試問題をひもといていくと、入試傾向だけでなく、その学校の求める学生像までもが見えてきます。
お時間のあるときにでも、お子さまの志望校の過去問で国語の読解問題の出典となっている書籍を読んでみてはいかがでしょうか。