東京大学総合研究博物館とは…?
三河内研究室は、現在耐震工事中の東京大学総合研究博物館の中にあります。東京大学総合研究博物館の前身は1966年に発足した東京大学総合研究資料館で、地理、鉱山、地史古生物、鉱物、岩石・鉱床、動物、植物、医学、薬学、考古、人類・先史、文化人類といった学問の東京大学開学以来の膨大な研究資料・材料を集積したものでした。それが1996年春、日本初のユニヴァーシティ・ ミュージアムとして生まれ変わり、今に至ります。
三河内先生は理学部の大学院である理学系研究科にも籍を置きながら、総合研究博物館の専任教授として、研究と学生の指導に当たっています。150人以上の専任教員がいる理学部と比較すると、「研究者同士お互いの顔が見える小規模な組織なので、全く分野の異なる学問の研究内容も見渡せて面白いですし、知的好奇心をくすぐられますね」と語ってくれました。
宇宙からの隕石が教えてくれる地球の起源
インターエデュ(以下、エデュ):三河内研究室では、どのような研究を行っているのでしょうか?
三河内岳先生(以下、三河内):宇宙から飛来した隕石や、「はやぶさ」などの探査機が持ち帰ってきた小惑星のカケラなどの組成を分析し、研究しています。そのことによって、太陽系の成り立ちを解明していくのが、僕たちの研究テーマです。
太陽系の火星と木星の間には小惑星帯があります。隕石のほとんどは、これらの小惑星を起源としていると考えられていますが、小惑星は、その小ささ故に、天体活動をすぐに停止したと考えられているために、太陽系が生まれた当時の状態を保っているといわれています。そのため、この組成を調べることによって、太陽系の初期の状況や、地球の生命誕生の秘密について、多くのヒントを得られる可能性があるのです。
識名さん(以下、識名):例えば、私の研究テーマは火星からの隕石です。
阿部さん(以下、阿部):僕は太陽系初期に形成されてあまり変化を受けていない「コンドライト」という隕石を研究しています。
エデュ:どこから来た隕石か、というのは、どのようにして分かるのですか?
識名:石に含まれているガス成分が火星の大気と一致していることから判断します。
林さん(以下、林):僕は小惑星帯由来の隕石が研究テーマです。2010年6月に「はやぶさ」が小惑星イトカワの地表から持ち帰ったカケラの組成分析によって、「この隕石は、やはり小惑星由来だった」と答え合わせをすることができました。
大野さん(以下、大野):研究対象として宇宙に興味があっても、なかなか実際に行くことはできません。でも、隕石は実物を手に取って研究できる。それがたまらない魅力です。
エデュ:今年の冬に小惑星Ryuguから戻ってくる「はやぶさ2」が持ち帰るカケラも、こちらの研究室で実際に分析をする予定なのでしょうか?
三河内:僕は今のところ分析を行うことになっています。「はやぶさ2」が持ち帰るRyuguのカケラは大気圏突入時の熱や地球の大気の影響を受けないので、本当に貴重な研究材料になります。
学問の魅力と先生の人柄に惹かれて集結したゼミ生
エデュ:宇宙からの隕石を調べることで、私たちが暮らす地球や太陽系の秘密に迫ることができるとは……ものすごいロマンを感じますね! では、「同じような研究をしたい!」と思った方が三河内研究室に進学するには、どのようなルートがあるのでしょうか?
三河内:総合研究博物館内の研究室ですが、僕も学生たちも、所属は理学部の大学院です。東大なら理科Ⅰ類か理科Ⅱ類から理学部の地球惑星環境科学科か地球惑星物理科学科に進み、その後その上の大学院の地球惑星科学専攻に進学するというかたちになります。ちなみに、東大理学部からは例年およそ9割が大学院に進学しています。
大学院の地球惑星科学専攻に関していうと、東大理学部からだけでなく、半分くらいは他大学からも進学してきています。また、修士課程を終えた学生のうち博士課程まで進むのは3分の1くらいの学生です。
識名:ここにいるメンバーにも、他大学からこの研究室に進学してきた人は多いですよ。
大野:私も、学部時代に受けた三河内先生の授業がここの研究室に来たきっかけです。東大から非常勤講師として「地球物理学」の講義をしにいらっしゃっていて、「研究をするなら隕石だ!!」と。
エデュ:大学院で地球惑星科学を研究した後の就職先としてはどのような職業が多いのでしょうか?
三河内:研究内容とつながりの深い就職先としては、JAXAやJAMSTEC、気象庁などでしょうか。また、僕たちは分析機器をよく使うので、そういった分析機器を作るメーカーなどもあります。ですが、基本的には、地球惑星科学を研究したからこの仕事に就けるというようなルートはあまり多くないですね。だからこそ、本当にこの学問に魅力を感じて志望する学生が多いです。もちろん、そのまま研究を続けて研究者になるという道もあります。
研究論文作成から南極探検まで
エデュ:普段はどのような活動をしていますか?
三河内:生たちは、各人がテーマに定めた隕石などの分析を行いながら、1〜2週間に1度のゼミで進捗報告をし、論文指導を受けて修士論文、博士論文を仕上げていきます。それと並行して、大学院内の他の研究室と協働でセミナーを開いたり、国内や海外で行われる学会に参加して研究成果を発表したりもしています。
エデュ:国内外を飛び回っていらっしゃるのですね!
三河内:そうなりますね。NASAとも共同研究をしていますし。
阿部:実は、もうすぐ海外での学会に参加予定だったのですが、今回のコロナ騒動で中止になってしまいました。
林:でも、それで予定が空いたからといって、特に暇になるということはありません。自分の研究テーマが見つかると、研究には終わりがないので、のめり込んでいくと生活そのものが研究、という感じになるからです。
三河内:それから、最近福島県楢葉町に研究材料の収蔵・展示をするスペースを作ることになり、そのために資料の選定をするのも仕事の一つになっています。
エデュ:本当に幅広いですね。南極観測隊とともに南極まで隕石を収集しに行かれたと伺いましたが。
三河内:はい。以前、南極に、隕石を拾いに2か月半ほど行っていました。実は南極には世界で唯一の隕石が多く集まった場所があるのです。落ちた隕石が氷河によって何千年、何万年もの間に流され、山にぶつかって地表に出てくる一帯があって。しかも白い氷原の中に黒っぽい隕石だから探しやすいんですよね。
エデュ:隕石拾い。まるでクリ拾いみたいですね。
三河内:言っても、そんなにゴロゴロ隕石が落ちているわけではないんですよ。10人くらいで20〜30mの間隔を空け、時速10kmでスノーモービルに乗って進んでいくんです。1日3〜4時間走り回って、一番多く拾えたときでも80個くらいでしたかね。
気温がマイナス20〜25℃、風速15mだと体感温度はマイナス30℃くらい。凍傷になるので絶対に顔は出せない。過酷な環境でした。
エデュ:すごいです。その拾ってきた隕石はみんな東大総合研究博物館の収蔵品になるのでしょうか?
三河内:すべて国立極地研究所というところに収納されています。そして、拾ってきた隕石は全世界の研究者のために使われるんですよ。
エデュ:大変なご苦労をなさったのに、独り占めはできないんですね。
三河内:でも、僕は学生の頃から、南極へ隕石を拾いに行きたいと憧れていたんですよ。
大野:私は、2か月以上もそんな生活は……先生たちに感謝しながら、隕石の分析に専念します。
林:僕は南極に行きたいです! いつか同じように隕石を収集しに……!
エデュ:その1歩1歩が、地球や太陽系の起源という大きな謎へと迫っていくのですね。
地球惑星科学という学問の魅力や、研究への熱い想いを語ってくださった三河内先生と大学院生の皆さん。こういった研究者の努力と情熱が積み重なって、今の社会があり、科学技術が進歩してきたのですね。後編では、実際に見学させていただいた分析装置や、貴重な試料などについてお届けします。