小中学校においては公立の学校と私立の学校の対応の違い、公立でも自治体による対応の違いが話題となりましたが、最高学府である大学では、このコロナ禍のなか、どのように教育・研究が行われていたのでしょうか。
今回の大学リサーチでは、いくつかの大学のオンラインへの取り組みを調査するとともに、私学の雄・早稲田大学の広報ご担当の方にお話をうかがいました。
どの大学も独自のオンライン授業を模索
東京大学では、3月18日付の総長メッセージで、「新学期の開始時に、教員および学生に対してのオンライン授業のガイダンスと試行を行う」と表明しています。実際、4月・5月の「注目の大学研究室」で取材した三河内先生も、4月からはZoomを用いたオンライン講義を行っているようでした。
東京大学には、UmeeTという学生によるオンラインメディアがありますが、そちらでもオンライン授業に対する学生の声が多く寄せられていて、興味深いものがありました。
東京大学と同じようにZoomによる授業を実施しているのが東京工業大学です。ライブ配信による遠隔授業を行っているほか、授業を録画しているため、後日録画を視聴して復習することも可能になっているようです。
東京工業大学の公式サイトでは、益一哉学長のメッセージが胸を打ちました。
東京工業大学は、コロナによる経済的困窮などで修学を諦めることのないよう、特別奨学金制度の設立、授業料納付期限の延長など、学生への支援に力を入れています。
また、工業大学というとどうしても研究室に足を運ばなければならないものが必須となりますが、「新しい生活様式」の実践を行いながらのスタイルを模索していくようです。
実験同様、対面での授業が不可欠なように思われるのが芸術系の授業です。
音楽学部と美術学部を擁する東京藝術大学では、どのように授業を行っているのでしょうか。大学の公式サイトを確認すると、前期は全キャンパス原則として入構禁止、原則として遠隔授業とのこと。
ピアノの授業などが、オンラインで行われている一方、必要に応じて「3密」を避けることを大前提に対面での授業も実施。その場合、オンラインと対面で評価の差はつけないという配慮もなされるようです。
こうして見てみると、従来、大講義室で行っていたような講義形式の授業、あるいは少人数でのゼミのような授業はオンラインでもなんとか行える一方、実技や実験などに関しては、やはりオンラインだけでは如何ともし難いものがある……。そんな状況が見えてきました。学生や教授陣の歯痒い声が聞こえてくるようです。
早稲田大学のオンライン授業への取り組み
さて、インターエデュでは、早稲田大学広報室の方に、オンライン授業の取り組みについて聞かせていただきました。
エデュ: 今回のコロナ禍をうけて、貴学ではどのような対応をなさっていますか?
早稲田大学: 本学では、各学部・大学院各研究科のオリエンテーション・科目登録をオンラインで行い、2020年度春学期(セメスター/クォーター)の授業も、原則としてインターネットを通してオンラインで行うこととしています。2020年度からWaseda Moodleというラーニング・マネジメント・システムを導入し、次の3つの受講形態でのオンライン講義を行っています。
1)講義資料・課題提示による授業
2)あらかじめ収録した講義のオンデマンド配信による授業
3)リアルタイム配信による双方向の授業
どの授業形態でも、小テストや課題の提出を課すほか、学生の理解度確認や質疑応答、意見交換などもできるように工夫しています。
エデュ: なるほど。学ぶ内容の特性に応じて3つの形式を使い分けていらっしゃるのですね。どうしてもオンライン授業を実施できないような講義はありますか?
早稲田大学: 一部に、開講学期を変更せざるを得ない科目はありましたが、今学期の科目に関しては、基本的に全てオンライン授業を実施できています。
エデュ: 全ての科目でオンライン授業を実現! 導入するにあたっては、大変なこともあったのではないでしょうか。
早稲田大学: 今回、状況の先行きが見えないなかで、ICTやオンライン授業に不慣れな教員もおりますので、オンライン授業化を全教員に理解してもらうことにまず苦慮した面がありました。また、なかには通信環境が整っていない教員や学生もいましたので、彼らへのサポートを行う必要もありましたね。
本学は大規模大学ということもあり、多くの学生・教員が一斉にシステムを利用することに備えたシステム負荷対策も必要でした。
エデュ: なるほど。オンライン授業に対して、教授陣からはどのような声が挙がっていますか?
早稲田大学: 今後、教員を対象としたアンケートを行い全体の声を確認していく予定ではあるのですが、現時点では次のような声が上がってきています。
「授業準備に時間がかかっており、大変である」
「オンラインでも、グループワークを効率的に進められる」
「学生の反応がわからないので、講義の進めかたが難しいときがある」
「課題や小テストで理解度を把握、形成的に評価するよう努めている」
オンライン授業の実施に関しては、戸惑いの声がある一方で、学生との双方向性が格段に上がったという声も届いています。
従来型の対面講義の代替策として始まったオンライン授業ではありますが、科目によってはより高い学習効果が期待できるようです。
エデュ: それは興味深いですね。では、対面授業ができない今の状況に対して、学生からはどのような声があるのでしょうか。
早稲田大学: 肯定的な意見としては、「授業のオンライン化により、理解が深まった」「海外や遠隔地からも授業に参加できて良い」などの意見があります。
一方で、課外活動を含めた学生同士の交流がないこと、構内施設の利用ができない点、対面授業と比較して学習の負担が増えたことへの不満などが挙がっています。
本学では、学生に対しても今後アンケートを実施する予定です。
実際に、以下のような声が現時点では寄せられています。
「課題が多い! 通常よりも学修時間が1日3時間増えた」
「自分のペースで学ぶことができ、理解が深まっている気がする」
「キャンパスで実験をしたい(想定データをもとに課題を提出するしかない)」
「留学に行けなかったことが、やはり悔しい」
エデュ: なるほど。どの声にも納得ですね。では、対面授業ができないことによる課題や、今後学生にキャッチアップしてもらわなければならないことなどはありますか?
早稲田大学: 本学では、オンラインでも学生の相談に乗れる体制を構築できており、当面は大きな問題はないと考えています。
ですが、今後、オンライン授業を行う期間が継続する中で、どうしても「対面」が必要な場面が出てくることも想定されます。各学部・研究科での実態を確認しながら、どのような場合に対面での対応などを行っていくかなど、検討していかなければと考えています。
エデュ: 先が見えない不安の中でも、学びたいという思いをもった学生さんを全力でバックアップしていかれるのですね。最後に、大学受験生、特に貴学を志望する大学受験生に対してメッセージをお願いいたします。
早稲田大学: 全世界から学生が集まる本学では、その多様性が交じり合うことが本学の最大の特色と考えています。オンライン上でも、全世界から集まった学生が交流できる環境を整えていますが、新型コロナウィルスの感染状況が改善し、対面での授業等が可能となったときには、これまで以上に学生同士が交流しあい成長しあえる場を提供できるようにしていきたいと考えております。
エデュ: ありがとうございます。
学びの本質を考える契機に
1年前には想像すらできなかったような今回のコロナ禍。さまざまな大学のオンライン授業の状況を調べる中で、どの大学も学生の学びを止めないための体制づくりに力を注いでいました。
オンラインによる授業では、これまで以上に積極的に学ぶ姿勢が必要になってきます。オンラインで出される課題に取り組んだり、自ら仮説を立て、レポートをまとめたり。講義に出席し、先生の話を聴くだけでなんとなく理解したつもりになっていたような受け身の授業から、自ら主体的に学ぶかたちに。
今回のコロナ禍をきっかけに、自分が大学で本当に学びたいことは何なのか? 改めて自らを見つめ直してみるのも良いかもしれません。
■参照サイト
東京大学 https://www.u-tokyo.ac.jp/
東京工業大学 https://www.titech.ac.jp/
東京藝術大学 https://www.geidai.ac.jp/