都立高の男女定員枠が設けられた背景
都立高に男女定員枠が設定されたのは1950年、現在と同じく当時から私立女子校の数が男子校の数を大きく上回っている(女子の選択肢が多い)という東京都ならではの特殊な事情があり、公平性と男子の進学先を確保するための制度として誕生したと言われています。
しかしながら、あらゆる教育現場でジェンダー平等を説く現在とのギャップが大きい時代遅れの制度として、都教委をはじめとする行政側が格差緩和を図ってきたことが、今回の完全撤廃につながったという背景があります。
実際のところ、教育現場である都立高そのものよりも「受験生の方が大きな影響があるのではないか?」という疑問への答えを、都立中高で数多くの合格実績を誇る「ena」の中学部部長・小中副本部長である福家 龍先生と中学部副部長の米田 暁比古先生から、受験指導の視点でお話しいただくことになりました。
進学指導塾の現場はどうなっているのか
ストレートにお聞きします。男女定員枠の撤廃で指導現場にはどのような変化がありますか。
福家先生:男女枠撤廃に際して、enaでは特に対策しておりません。なぜなら、影響があるかもしれないという「推測」の域を超えていない変化だと考えているからです。女子だから受かるようになると保証できるわけではありませんから、内申点と入試の得点をしっかり押さえていくべきだと指導しています。そもそもボーダーラインぎりぎりの学校に滑り込むことを目指しているわけではありません。模試の結果、内申点や応募倍率などを総合的に見ながら現状を考慮しつつ、最終的にはご家庭で出願校を決めていただくことになります。
米田先生:実は2020年度から、都立高では男女別定員が合同定員に移行を始めていました。そのため、例年であれば「いける!」と思われた男子塾生が不合格になってしまったこともあります。それ以降はena講師陣の感覚が更新されており、進路指導にも反映するようになりました。しかし、男女定員枠が無くなっても男子の方が受験者平均点で上回っている学校が多いため、本質的な難易度は変わらないと言いたいところですが、やはり内申点の低い男子が苦戦しているケースはあります。
男子は入学者選抜(入試)当日の得点で内申点をカバーする傾向にありますので、日比谷のようなトップ校であれば男子も内申点を多く持って受験に来るため、注意する必要がありますね。
教育的な観点で見ると、一般的に男子の方が理数系に強いと言われており、今後の男女比によっては都立高で理系大学進学実績にネガティブな変化があるかもしれません。
今回の変更点はトップ校と呼ばれる学校にも影響があるのですか。
福家先生:無いとは言い切れませんが、論点は男女定員枠の違いではありません。自校作(自校作成入試問題)の学校は内申点が高くても、オリジナルの入試問題を限られた時間内で攻略するには学力が求められるため、単純に男女の定員が同じだから女子の合格者が増えるといった話ではないのです。
米田先生:男女定員枠の影響を受けている都立高はそれほど多くないんですよ。日比谷は男子志願者が増えていることから、むしろ本番当日の得点がものを言う現実があります。もちろん、内申点がオール5でなければ心配の種にはなります。自校作の学校は、各校によって問題のカラーが異なったり、制服が女子に人気な学校は当然のように女子倍率が高かったり、ひとえに都立校といっても個性があります。