個性?管理?奥深い学校制服の歴史と実情から見える日本社会の今(3ページ目)

制服は奥が深い

本書を読み終わって感じたのは、制服の制定やモデルチェンジ、自由化、復活といった変更を加えるのは、本当に大変なことなんだということです。制服を着たい生徒がいる一方で私服のほうがいいという生徒もいます。学校側で一方的に制服を決めれば反発が起きる可能性が高くなるし、たとえ制服導入に納得しても今度はデザインの問題が浮上します。家庭の経済状況も考慮しなくてはなりません。「○○高校の生徒」であるというアイデンティティにも関係するでしょう。

制服メーカーにとっても死活問題ですから、そのときどきの生徒が好きなデザインを提案するか競っているようです。また、着心地を中心とした機能や耐久性を高めるための素材開発も進んでいます。制服に対する若者の意識や制服をとりまく環境が、ずいぶん変わったのだということがよくわかります。

多くの人は学校制服についてそれほど真剣に考えていないでしょうが、一つひとつの事例や生徒、教師の生の声を聞くと、意外なほど奥の深いテーマです。コロナ禍で外出しにくい今、本書を手がかりに制服について考察してみてはいかがでしょうか。

『学校制服とは何か その歴史と思想』

小林哲夫著 朝日新聞出版 850円+税
学校制服とは何か その歴史と思想

学校制服をとりまく環境や生徒の意識は、時代ととも変わってきました。1960〜70年代には高校紛争で一部の高校が私服化され、80年代のツッパリブームや90〜2000年代のコギャルブームなどで、生徒は校則に反発し服装の自由を求める傾向がありました。
しかし、昨今ではおしゃれでかわいい制服を臨む生徒が増え、話題の制服が志願者を増やしたり学校のランクを上げたりすることにつながるケースも多々見受けられます。そうした流れに乗って、私服の高校が制服化したり、制服に関して適度に厳しい校則が学校の「売り」になったりするなど、むしろ生徒自ら管理を求めている風潮さえ見受けられます。その一方で、新型コロナ対策や猛暑対策で私服化を進める学校も出てきている。
制服は生徒の個性なのか、それとも学校の管理ツールなのか。社会が大きく変わりつつあるいま、制服の役割はどうあるべきか…学校制服の歴史やデザインの変遷、関係者の証言を通じて制服を通した現代の教育事情を描き出す著者の最新作です。

小林哲夫(こばやし・てつお) さん
1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。教育、社会問題を総合誌などに執筆。著書に『シニア左翼とは何か 』『早慶MARCH』(ともに朝日新書)、『大学とオリンピック 1912-2020』(中公新書ラクレ)、『高校紛争 1969-1970』(中公新書)、『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『神童は大人になってどうなったのか』(太田出版。追補版が朝日文庫より刊行)など多数。