セクハラ・性暴力がどれだけ人を傷つけるかを伝える努力を
本書では男の子を育てる上で、どのようにセクハラや性暴力のことを伝え、考えさせていくかについても触れています。
太田さんは、本書の第4章において、重大な性犯罪の加害者の99%が男性であることを取り上げ、「有害な男らしさ」の中に、「女性を支配することが『男らしさ』の証」「男性は女性より性的に優位に立つべきだ」といったバイアスが潜んでいることと大きな関係があるのではないかと指摘しています。
そして、家庭においてセクハラ・性暴力がどれだけ人を傷つけるかを男の子にしっかりと伝える努力が必要と訴えています。
太田さんは、子どもに性暴力について教える際に反面教師とすべき大人の態度として、以下の3つを挙げています。
・ 性暴力の背景に被害者の落ち度があると考える
・ 現実の性暴力をエロネタにする
・ 身近で性暴力が起きても助けない
性暴力の被害者を「露出が多い服装をしていたのではないか」と非難したり、電車内での痴漢を「エッチな話」の一種として歪曲、矮小化したりすることは、家庭内でもよくあることかもしれません。
しかし、太田さんの言葉をひも解けば、子どもにとってより身近な存在である親がこれらの態度をしっかりと改め、セクハラ・性暴力は許されないことだと積極的に伝えることの重要性を実感させられます。
差別と戦い、新しい時代をつくる男の子を育てるために
本書では、性教育をはじめとする男の子の性に関する問題が深く、大きく取り上げられています。そのため、本書を手にしたとき、何とも言えない驚きをもって受け止める人は少なくないでしょう。
しかし、太田さんが本書を通して伝えたい願いは、男の子を育てているママであれば、誰もが納得できるものです。その願いは、本書の第6章冒頭に、以下のように記されています。
「伝えたいことは、大きく分けるとふたつです。
ひとつめは、「男らしさ」の呪いから自由に生きてほしいということ。
ふたつめは、「男性であることの特権」に自覚的になって、性差別や性暴力を許さない、と、男性だからこそ声をあげてほしいということです。」
太田さんは、まず、「自分の弱さを否定しなくていい」と男の子を励ましています。「自分の弱さは弱さのまま認め、自分の感情の揺れに敏感であってほしい。同時に、他者の痛みや弱さを想像できるようになってほしい」と述べています。
そして、「男性であること」だけで暴力を受けにくかったり、侮られにくかったりするなどの「特権」があることを知り、その特権を活かして性差別や性暴力に抗ってほしいと願っています。
「女性と対等な関係を築ける男の子に育てる」と言葉で言うほど子育ては簡単ではありません。また社会全体もその途上にあると言えます。しかし、太田さんが本書の中で提唱している子育てをつぶさに実践していけば、差別と戦い、新しい時代をつくる力をわが子に託すことができるでしょう。
これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン
太田啓子 著 大月書店 1,600円+税
君が将来、幸せになれるように――
男の子にこそきちんと話そう、性のこと。
「男らしさ」の呪縛は何歳から始まる?
わが子をセクハラ加害者にしないためには?
性差別社会に怒りを燃やしつつ、男子2人を育てる弁護士ママが悩みながら考えた、ジェンダー平等時代の子育て論。
対談=小島慶子(タレント・エッセイスト)、清田隆之(桃山商事代表)、星野俊樹(小学校教師)
太田 啓子(おおた・けいこ)さん
弁護士。2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。2014年より「怒れる女子会」呼びかけ人。2019年には『DAYS JAPAN』広河隆一元編集長のセクハラ・パワハラ事件に関する検証委員会の委員を務めた。
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