日本の読み聞かせには「やりとり」が足りない
本書は、アメリカで一般的なダイアロジック・リーディングの手法について紹介した本です。著者である加藤映子さんは、ハーバード大学をはじめとするアメリカの大学で、読み聞かせの日米比較などを長年研究してきた研究者。日本とアメリカで読み聞かせの実態調査を続ける中で、同じ読み聞かせでも日米で大きく異なることに気づきました。
「日本人の親子は、読み聞かせをするときにやりとりをしない」と著者は言います。一方のアメリカはというと、親子で「うるさいくらいにしゃべりながら読み聞かせ」をしているのです。
見たことのないものには「これはなに?」と質問するし、わからないことがあれば「どうして?」と聞く。
「子どもが質問すれば、それに応答する親の発話数も当然、多くなります。アメリカの親子の読み聞かせは、とにかく親子間のやりとりを盛んにするのです」(本書より)
これがダイアロジック・リーディング(対話型の読み聞かせ)です。アメリカでは1970年代からこの手法の研究が進められており、読み聞かせに付随する親子の対話がどんな効果を持つのか、主に「言語取得」の観点から検証されてきました。アメリカは移民国家であり、移民に言葉を覚えてもらわないと困るという切実な事情も関係しているようです。
異なる文化圏の手法をそのまま取り入れてもうまくいかないこともありますが、ダイアロジック・リーディングは、日本の読み聞かせにいちばん不足している部分を補う手法でしょう。この手法を取り入れて読み聞かせの際に親子で言葉の「やりとり」をすれば、日本の読み聞かせはさらに素晴らしいものになるのではないか。そう考えた著者が、研究の成果をもとに、ダイアロジック・リーディングの効果と実践方法を詳しく解説したのが本書です。
ダイアロジック・リーディングで伸ばせる子どもの能力とは
本書には「本について何か発言するように促す」「子どもの発言に対して評価する」「子どもの発言を拡張する」「子どもの理解を促進させるために反復する」というダイアロジック・リーディングの基本となっている4つの手法も紹介されています。
なにやら難しそうに聞こえますが、子どもに問いかけ、褒め(相づちをうつ)、話題を広げ、大事なことを繰り返すということです。しかも、著者によれば「厳密にこのとおりにやりとりしなければいけない、というものではない」とのこと。
ときには絵本から脱線しても大丈夫ですし、子どもが従来型の読み聞かせに慣れていて発言しにくいときは、読み聞かせに慣れた本を使い「2、3見開きに1回くらい」質問をすることから始めてもいいのです。最初は、お母さん、お父さんに絵本を読んでもらっているときにお話をしてもいいんだ、と子どもが実感できればいいのです。「やりとり」の楽しさが何よりも大切なのではないかと感じました。
この習慣さえ根付けば、あとはいかようにも「対話」の幅を広げられます。その具体的な手法、たとえばどんな言葉で質問をすればいいのか、子どもが言葉を発したときどのような姿勢で受け答えをするといいのか、詳しく解説されています。
では、ダイアロジック・リーディングで伸ばせる子どもの力とは何でしょうか。著者によれば、「見る力」「聞く力」「知識・語彙力」「考える力」「伝える力」の5つです。情報を入力し、それを頭で処理をし、自分の言葉でアウトプットする力が養えるというのです。
これまでの日本の読み聞かせに不足していたのが、「考える力」と「伝える力」、すなわち思考力と表現力かもしれません。思考力については絵本を読んでもらっているときにさまざまな思考を巡らすことのできる子はいるでしょうが、表現力、つまり「アウトプット」については子どもが自ら言葉を発しない限り磨けません。ダイアロジック・リーディングは、その「アウトプット」の能力を含めて、脳の働き全体を活性化させる手法と言ってもいいでしょう。