「親の希望で大学を選んではいけない」とは?

経済界の巨人、日本電産の永守重信氏が、若者たちへの熱いメッセージを新書『大学で何を学ぶか』にまとめられました。貧しい家庭から一代で巨大企業のカリスマ経営者となった著者が、自身の経験と未来予測から未来を担う世代に伝えたいことは何か? 親世代にもぜひ読んでいただきたい刺激的な新刊です。

偏差値教育とブランド大学主義の影響

偏差値教育とブランド大学主義の影響

今回、ご紹介するのは異色の新刊です。著者は、日本電産の創業者にして経営トップの永守重信氏。1973年に3人の仲間と立ち上げた会社を、売上高1兆9千億円、世界43か国に300社を超える関連会社を持つ巨大企業に育て上げた立志伝中の人です。

その永守さんが書いた『大学で何を学ぶか』は、書名からも分かるように大学進学を目指す中高生を対象とした本です。でも読み進むほどに、小学生以下の子を持つ教育熱心な親御さんにも読んでもらいたいと思うようになりました。永守さんが子どもたちに伝えていることは、親世代にも大いに関係があるからです。

本書には、少々長い「はじめに」があります。まずは、その一節を引用させていただきましょう。

自分のやりたい学問よりも偏差値で大学や学部を選ぶ「偏差値教育」や、有名大学に入ることにこだわる「ブランド大学主義」が中心の日本の教育システムでは、若い人の能力を十分に伸ばしきれないと考えている。
というのも、小さな頃から試験に追われる子どもたちの目標は、たいていは親や塾の勧める偏差値の高い大学、有名な大学に入ることである。
高校の進路指導でも、学部や学科選びの指導は二の次で、とにかく有名大学、即ち偏差値の高い大学を目指すことが良しとされている。本人が何を学びたいか、どんな仕事をしたいかを教師と話すようなことは少なく、大学選びがもっとも重要視され、有名大学に入ることが推奨されるのだ。
これでは本人の学ぶ意欲や主体性は削がれてしまうのではないか。(P.8~9)

親としては有名大学に入ってほしいけれど…

いかがでしょうか。ここに書いてあることには、多くの方が賛同なさるのではないでしょうか。最後の「これでは本人の学ぶ意欲や主体性は削がれてしまうのではないか」というあたりも、“そうかもしれない”と思う方が多いと思います。ただ、そうは思っても親として、将来の可能性を広げるために偏差値の高い大学に行って欲しいし、そのために偏差値の高い名門中学校・高校に入って欲しい…、これが教育熱心な親の心というものでしょう。

しかし永守さんは、本書に、「親の希望を叶えるための大学選びはやめるべき」とはっきり書いておられます。理由は、これまでに1万2千人以上を採用してきた経営者として、有名大学出身者が、そうでない大学出身者よりも社会や企業で活躍しているわけではないことを知っているからです。さらには、高偏差値大学出身者の中で活躍できていない人には、「指示待ち族」が多いと感じておられるそうです。

このままでは日本社会も日本の若者も危ない!これでは世界に勝てない!と考えた永守さんは、有言実行をモットーに、現在、私財を投げ打って京都先端科学大学の理事長となり、世界で活躍できる人材を育てるための大学経営に携わっておられます。そんな背景の中で、本書『大学で何を学ぶか』が登場したわけです。

何を学びたいのか、親子で一緒に考えたい

今の子は優しいです。素直ないい子・成績が優秀な子ほど、反発するよりは相手に寄り添う傾向があります。となると、親の希望や親の手厚いケアが、子どもたちから「自分は何が好きなのか」「将来何をしたいのか」と考える時間や余裕を奪っている可能性があるかもしれません。

それに、小学生のうちから塾通いで忙しい毎日を送っていれば、将来についてあれこれ考える時間自体が減っているのかもしれません。しかも親が、「あなたは当面の目標“合格”を目指して一生懸命勉強してくれればいいの、あとのことは私がやってあげるから…」という姿勢だと、自分は余計なことは考えずに、勉強さえ頑張っていればいいんだと思ってしまうかもしれません。

永守さんは、決して親に反発せよと書いているわけではありません。ただ、親の希望を叶えるための受験ではいけない、学びたいことや社会に出てしたいことを考えて大学を選べ、そうすれば卒業後もやりがいを持ってバリバリ働けるはずだと主張されているのです。

本書は、ビジネス界の巨人である著者らしく、実に明快で歯に衣きせぬ率直さで貫かれています。永守さん自身の幼少期・少年期、働き始めてからのさまざまな困難についてもリアルに語られており、ビジネスで成功する人ってこんな人なんだと、親子で話すきっかけにもなるでしょう。

本書の中には、子の親として耳が痛いことや、“世の中どんなに頑張っても成功するのは一握りでしょ”と反発を感じるところもあるかもしれません。それでも本書は教育熱心な親御さんに、子どもにとって最善の大学選びとはどういうものか、親として子どもの成長期にどんな姿勢でいるのがいいかを考えるきっかけになると思います。

誰が考えても、子どもは親の希望を叶えるためではなく、自分の学びたいこと、したいことで大学を選ぶべきです。そのために大学受験の前までに、自分のしたいことを見つける時間をたっぷり持つべきでしょう。そのための親子の時間を大切にしてください。

大学で何を学ぶか

著/永守重信、小学館新書、990円(税込)
『大学で何を学ぶか』

大学で学ぶべき4つのことを熱く語る!
「有名大学だから」「偏差値が高いから」「親や先生が勧めるから」という理由で大学や学部を選んではいけない! これまで1万2千人以上を採用してきた日本電産のトップである著者は警鐘を鳴らす。そうした理由で大学や学部を選ぶと、大学に入ってもやる気が起きずに何も学ばずに卒業、深く考えずに企業を選び、入社後は五月病になりかねないという。では、大学をどう選べばよいのか。大学に入る前に、自分が就きたい職業や、やりたい仕事を見極め、その夢に合致する学部、大学を選べばよい。夢や目標が見つからない人にはその見つけ方も、著者が伝授する。また、大学では何を学べばいいのかについても詳しく解説。専攻分野に磨きをかけることに加えて、英語力、雑談力、ディベート力を身につける必要があると述べる。もちろん、身につけ方のヒントも掲載。大学選びから大学での学び、友達づくり、仕事についての考え方、社会に出てから伸びる人材についてまで、充実した大学生活を送るアドバイスを多数収録。受験を控える高校生はもちろん、大学に入ったばかりの一年生から就活生、将来を考える中学生にも役立つ1冊です!

著者の永守重信氏は売上高1兆9千億円を誇る企業・日本電産の創業者にして経営トップ。この永守氏が今一番力を入れているのが、若手人材の育成、具体的には大学経営です。まず京都にある大学の理事長となり、名前も京都先端科学大学に変更。設備も中身も一新しました。この改革に私財200億円を投じています。なぜ、そこまでやるのか。それは日本電産に入社してくる有名大学卒業生の中に、商学部卒業でもバランスシートは読めない、工学部卒でも基本的なモーターの知識がないなど、即戦力にほど遠い人材を多数見てきたから。諸外国の一流大学出身者はそんなことはないとのこと。この本では、永守氏が考える、大学の選び方、大学で必要な学びに加えて、夢を持つことの大切さまで力説しています。読めば、誰でも勇気づけられ、前向きになれること、請け合いです!<編集者からのおすすめ情報より>

著者:永守重信(ながもり しげのぶ) さん
1944年、京都生まれ。職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)卒業。73年、28歳で従業員3人と共に日本電産株式会社を設立。代表取締役社長に就任(現在は会長兼CEO)。あらゆる種類のモーターと周辺機器を扱う世界No.1のモーターメーカーに育て上げた。日本電産は現在、世界中に300社を超える関連企業を擁し、従業員約14万人(関連会社を含む)という巨大グループに発展している。2018年、京都にて大学及び幼稚園を運営する学校法人の理事長に就任。直ちに学校法人名を永守学園と改称し、運営する大学の改革に着手。19年、大学の名称を京都先端科学大学に変更。20年、同大学に工学部を開設。21年、法人合併により京都学園中学高等学校を傘下に収め、京都先端科学大学附属中学校高等学校とした。また、22年、ビジネススクール(経営大学院)を開設するなど、世界で通用する即戦力人材の育成に情熱を注いでいる。著書に『成しとげる力』(サンマーク出版)『人生をひらく 困難に打ち勝つための原理原則50』(PHP研究書)などがある。