育児・教育ジャーナリストおおたとしまさの中学受験 心すっきり相談室 vol.11
Q.御三家以外はダメという主人を説得するには、どうしたらいいでしょうか?
完全匿名でご相談させていただきます。申し訳ありません。受験相談というより、主人をどうやって説得したらいいのでしょうか? おおたさんは男性で、お子さんもいらして受験のこともよくご存じですので。
主人は、御三家か、それと同じくらいの偏差値の学校に入らなければならないと言います。主人も、主人の親や親戚も全部そうだからです。主人の親戚の男の人はほとんど学者か医者です(私の実家はごくごく普通の家なので、よくわかりません)。主人は息子にも、同じように言っていますが、おとなしい子なので、黙って聞いています。
5年になって塾の先生に、偏差値55から60までぐらいの学校なら、それ以上は無理でしょうと言われました。塾の先生が言うことは間違いないと思います。私はいつも子どもと一緒なのでわかりますが、主人は仕事が忙しいので全然通じません。自分の子だからできるに決まっている、できないのは母親の勉強のさせ方が悪いからだと言われました。
うちの子は一生懸命勉強していると思います。これ以上たくさん勉強させるのはかわいそうです。主人、この前の公開模試のあと、だめなら中学受験はやめさせろ、高校で受けさせろと言いました。でも、息子は、今、行きたいといっている私立があります。偏差値も合格圏内です。私もいい学校だと思っています。
主人にこのことをわかってもらうには、どうしたらいいでしょうか? おおたさん、ぜひぜひ教えてください。何卒よろしくお願いします。(tokumei)
A.「太陽と北風」の手法で、お父さまの考えを最後まで聞いてください。説得できるとしたら、そこからです。
御三家クラスの学校に合格できなければ、中学受験をする意味がないとお父さまはお考えなのですね。しかし塾の先生からはそのレベルまでは難しいのではないかといわれている。塾の先生が必ず正しいわけではありませんが、そこまではっきりおっしゃるのであれば、それが現実なのかもしれません。それをお母さまの勉強のさせ方のせいにされてしまってはつらいですね。
そんな中で、お母さまは「うちの子は一生懸命勉強していると思います」と断言されています。立派にお子さまを守っていらっしゃいます。お子さまにとってはそれがいちばんの励ましだと思います。一方で、お父さまはお父さまで、お子さまのポテンシャルを信じ、期待しているがゆえ、それだけ高いレベルの結果を求めていらっしゃるのでしょう。あきらめてほしくないのだと思います。
私の個人的価値観としては、「御三家クラスの学校でなければ中学受験する意味がない」とはまったく思いません。首都圏に約300ある私立中学校の中から、お子さまに合う学校を自分で選べることが中学受験の価値だと思います。5年生にしてすでに、お子さま自身に「行きたい学校」があるというのであれば、それは素晴らしいことです。さらにいえば、お父さまが「自分や親戚もみんなそうだから」という理由でお子さんにも同じ道を歩ませようと考えるのも、私にはナンセンスに感じます。
世界中が敵になろうとも、子どもや妻の味方をするというのが父親の役割ではないかと私は思いますが、現在のお父さまの考え方は逆のようです。中学受験の結果がどんな結果であれ、お子さまのがんばりそのものを誇りに思ってくれるように、お父さまが視野を広げてくれればいいのですが・・・。
ただし、結論からいえば、お父さまの考えを変えるというのはかなり難しいでしょう。心理学では「過去と他人は変えられない」ということを前提に考えますから。それでもなんとか・・・というのであれば、次のような対応が考えられます。
まずはお母さまの考えをストレートにぶつけることが大切です。本音を言い合うことが、問題解消の第一歩ですから。そしてそれはすでに試みたわけですよね。そこまではOKです。しかし、それ以上どんなに正論をぶつけても、お父さまはますます頑なになるだけでしょう。「あなたは見ていないからわからないのよ!」というような指摘も、お父さまの態度を硬化させるだけでしょう。ではどうするか。「太陽と北風」です。
まずはお父さまの考えを最後まで聞いて、理解を示してあげてください。自分が理解されているという安心感があってこそ、人は他人の考えを受け入れる心の余裕をもてるようになりますから。そのうえで、この状況に対してどうしたらいいと思うか、お父さまの考えを聞いてください。
お父さまの発言を否定したくなるシーンもあるかと思いますが、ぐっと我慢です。それ以上議論はせず、話を聞いておしまいにしてください。お父さまの胸の内を一度全て吐き出してもらうことが目的です。そうすることで、お父さまの視野が自然に広がるはずです。お父さまが考えを変える可能性があるとすれば、そこからです。
結果、変化するかもしれませんし、変化しないかもしれません。変化するとしても、どれくらい時間がかかるかはわかりません。その間、お母さまも辛い思いをされるかもしれませんが、今まで同様、お子さまを守ってあげてください。
お母さまにとってもお子さまにとっても、そしてお父さまにとってもストレスフルな状況だと思います。しかしこれも、家族が成長していくために与えられた課題なのだろうと思います。中学受験という機会を通して、家族がぶつかり合い、家族それぞれが自分の価値観とも向き合うことになるのです。苦しい時期も多いでしょうが、それを乗り越えたときに、家族はさらに強い絆でむすばれるようになります。それも中学受験という選択の一つの価値だと私は思います。
父親と息子の葛藤については、拙著『もし中学受験で心が折れそうになったら』にも描いています。中学受験をめぐる子どもと家庭と塾の様子を、物語として描いたものです。そこでも書いていますが、「そんなんなら、中学受験なんてやめちゃいなさい!」と親がいうときというのは、実は親のほうの心が折れそうになっているときなんです。