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第45回「勉強方法の工夫」は経済的ハンディを乗り越える2015年03月26日 公開
3月23日、ベネッセ教育総合研究所から「小中学生の学びに関する実態調査 報告書([2014)」が公表されました。その中に、「『学習方略』の獲得は社会階層の壁を越えられるのか― 子どもの成績を規定する要因についての考察 ―」という分析レポートがありました。学習時間や学習方法と成績との関連を検証すると共に、社会・経済的な家庭環境が恵まれない階層の子が成績を上げるためにはどうしたらいいかを分析した研究レポートです。
上は、保護者の世帯年収、母親の学歴と子どもの学習時間の関連を示したグラフです。保護者の世帯年収が高いほど、また、母親の学歴が高いほど、子どもの学習時間が長くなっています。
連載第30回で取り上げたように、学習時間が長い子のほうが成績が良い傾向にありますから、保護者の世帯年収が高く、母親の学歴が高いほど、成績が良いということになります。これは他の調査、たとえば連載第32回以降で取り上げた「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」でも、世帯所得や父母の学歴が高い子のほうが、学力テストの正答率が高いことが明らかになっています。
学歴も世帯収入も多い保護者の子は、子どもの家庭教育にも積極的で、学習塾に通わせたり家庭教師をつけたりする余裕も大きいので子どもの学習時間が長くなります。結局は、親の社会・経済的な階層で子どもの成績も左右されるのか、と思ってしまいそうですが、実はそうとも限らない、というのが「『学習方略』の獲得は社会階層の壁を越えられるのか」が出した結論。親の学歴や年収とともに、さまざまな学習方法を要素として詳細な解析を行った結果、親の社会・経済的な階層と「学習方略」、つまり「学習効果を高めるための意識的な工夫」については、相関関係があまり高くないということが明らかになったというのです。
特に、成績に影響力の強い学習方略のうち、【意味理解方略】(「問題を解いた後、ほかの解き方がないかを考える」「○つけをした後に解き方や考え方を確かめる」)や【モニタリング方略】(「重要なところはどこかを考えて勉強する」「何が分かっていないか確かめながら勉強する」「学校で書いたノートを使って勉強した内容を振り返る」「問題を解いた後に○つけをする」)といった学習上の工夫ができるかどうかは、保護者の学歴や世帯年収とあまり関係していません。
親の社会・経済的な背景は容易に変えられませんが、勉強方法の工夫ならば、子ども自身の努力や周囲の人間の後押しで、かなりの部分、改善が可能なのです。つまり、勉強方法のコツのようなものがわかるようになれば、誰でも成績を伸ばす余地があるということです。学習塾を選ぶときも、わが子に合った勉強の仕方を教えてくれそうかどうかという観点から選びたいですね。もちろん、親がそれを伝えられればいちばんいいのですが。
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