来年受験です。この夏から、夫が息子に 怒鳴りながら勉強を教えているのですが

塾・学校の実態に精通する教育ジャーナリスト・おおたとしまささんが、「中学受験を家族にとってのいい経験にする」というコンセプトで、中学受験のさまざまな相談にアドバイスしてくれます!
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育児・教育ジャーナリストおおたとしまさの中学受験 心すっきり相談室 vol.12

Q.来年受験です。この夏から、夫が息子に 怒鳴りながら勉強を教えているのですが

来年2月は受験本番になりますが、今年の夏頃から夫が息子の勉強や成績に口を出し始めました。まだ時間はあるから、もうワンランク上の学校を目指せと、叱りながら勉強を教えているのです。

息子は塾では真ん中くらいの成績です。

それまで私は息子の成績が上下しても、励ましながらともにやってきたつもりなのですが、今の成績で合格する学校ではだめだというのです。

算数の問題が解けないと、「どうしてわからないんだ!」と、怒鳴ります。それを聞いているとたまらなく、息子がかわいそうになります。でも、息子は父親に反抗することもせず、頑張ると言うのです。

夫は私の意見は取り合ってくれません。偏差値の高い学校に入ることが、将来につながるのだから、今、やらせないとだめだと。勉強を教えてくれるのはよいと思うのですが、怒鳴りながらは効果的ではないように思います。どうにか夫の熱の入れようを抑えたいと思うのですが、どう説得すればいいか困っています。

叱りながら勉強を教えることは、今の段階で本当に息子のためになるのでしょうか。こんな状況はママ友にも言えず、悩んでいます。アドバイスをお願いします。(おちこ)

回答はこちら

A.怒鳴りながら教えても、効果は限定的でしょう。でもお母さまが冷静であることは大きなアドバンテージです

怒鳴って成績が上がるのなら、塾の先生たちも苦労しないですよね。「どうしてわからないんだ!」って、それがわかったら子どもだって苦労しませんよね。怒鳴り声を聞いているお母さまも、おつらいでしょう。しかし、お父さまも息子さんのためにやっていること。「この子ならできるはず」という期待と現実とのギャップが、怒鳴り声になってしまうのでしょう。

でもそんな中、息子さんはお父さまに反抗するでもなく、逃げるでもなく、がんばるといっているのですね。多分息子さんも、精神的には辛い思いをされているとは思いますが、お父さまの熱い気持ちも十分に理解しているのでしょう。なんとかその期待に応えたいと歯を食いしばっているのでしょう。その気持ちがあることはすばらしいと思います。そのことはお母さまがよく認めてあげてください。

いよいよ本番が迫ってきて、お父さまも焦っているのでしょう。しかし親が焦ったり、不安になったりしたところで、いいことはまずありません。ましてや怒鳴りながら勉強を教えても、効果は限定的でしょう。今はまだ息子さんも「がんばる」といっているようですが、あまり長くこの状態が続くと、心が折れてしまう可能性だってあります。

この状況、難しいのは、怒鳴るのをやめるきっかけがなかなかないことです。もし仮に、お父さまが怒鳴ることによって息子さんが奮起し、模試で良い成績をとったとしたら、お父さんは「怒鳴れば成績が上がるんだ」と学習し、さらに怒鳴るようになるかもしれません。逆に、怒鳴られたことで息子さんが萎縮して、模試で実力を発揮できなかったとしたら、「いったい何をやっているんだ!」とますます怒鳴るかもしれません。中学受験で一度怒鳴り始めると、ずっと怒鳴り続けることになってしまうのです。

効果は保証できませんが、2つ提案したいと思います。

1つめ。
お父さまが熱心に息子さんの勉強を見てくれていることには感謝の気持ちを伝えたうえで、次の点をご夫婦で話し合ってみてください。
「次の模試で成績がさらに下がったら、怒鳴ることに効果はないと認めて怒鳴るのをやめるのか、もしくは成績を上げるためにもっと怒鳴るのか。次の模試で成績が上がったら、怒鳴った効果があったと思ってもっと怒鳴るのか、もしくはもう怒鳴る必要はないと考えて怒鳴るのをやめるのか」
お父さまは、自分が責められているように感じてちゃんと取り合ってくれないかもしれませんが、それでもこのような会話をすることで、どこかで怒鳴ることをやめると決めないと、どのみちいつまでも怒鳴り続けることになってしまうということに、気付いてくれるかもしれません。

2つめ。
どうやったら効果的に成績が伸ばせるか、塾の先生とお父さまで直接話し合ってもらう。その会話の中で、息子さんの現状をお父さんに正しく認識してもらい、かつ、怒鳴る以外のもっと有効な接し方を、塾の先生に指導いただく。

ただし、これにはリスクもあります。塾の先生に、かなり高度なカウンセリング能力がないと、頭ごなしにお父さまのやり方を否定してしまい、お父さまが塾に対して不信感をもち、なおさらややこしいことになりかねません。そうなるとますます子どもの気持ちは不安定になります。塾の先生がどれくらいの人間力を持っているか、お母さまが見極めなければいけません。「無理そう……」と思ったら、この作戦は無しです。

子どもを励まし、盛り上げ、やる気にさせるのが原則ではありますが、中学受験にはときに厳しさが必要であることも事実。おちこさんご夫婦は、優しさと厳しさの役割分担ができているすばらしい夫婦だと思いますし、くり返しになりますが、怒鳴られても食らいつく息子さんの根性はたいしたものです。

これから入試本番までは綱渡りのような毎日になるかと思います。「これをすれば問題解決!」というような方法は、こればっかりはありません。それはどこのご家庭でも同じこと。そんな中、お母さまが冷静であることは大きなアドバンテージです。今の状況をいちばん客観的にとらえられているのはお母さまだと思いますので、お父さまにも息子さんにも、お母さまがその都度働きかけることによって、家庭内のバランスを保つように心がけてください。大変でしょうけれど、残りわずかな時間です。

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