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都心からほど近い千葉県市川市。東京から通学しやすいだけでなく、注目すべき進学先が集まっているエリアです。今回はその中から「教科書以上のことを大学や企業と関わりながら学べる」という共通点がある3校を特集します。和洋国府台女子中学校高等学校、日出学園中学校・高等学校、千葉商科大学付属高等学校の先生と生徒から、既存の教科の枠組みを超えた教育活動についてうかがいました。
※撮影時のみマスクを外しています。
和洋国府台女子中学校高等学校(以下、和洋国府台)は創立以来「女性の自立」を目指し、「凛として生きる女性」の育成を教育理念として持つ学校です。120年の歴史を誇る伝統校でありながら、新しい教育活動にも果敢に挑戦しています。
中澤先生
和洋国府台は「WIQ(Wayo Inquiry)」という名で、生徒自らが興味を持ったことを掘り下げていく探究活動を行っています。多彩なゼミナール、企業からのミッション達成を目指すPBL(課題解決型学習)など、心を揺さぶるプログラムが、生徒の可能性を広げていきます。和洋女子大学の先生から指導を受けられる場もあり、生徒と実社会や大学をつなぐ貴重な機会になっています。
「WIQ」で印象に残っていることを教えてください。
遠藤さん
私は合気道部の部長を務めているのですが、日本文化発信に挑戦するゼミナールで、外国の方に合気道を紹介するプレゼンをしました。日本語学校に通う方への発表だったので、専門的な内容をやさしい日本語で伝えるのが大変でした。反響が思ったより大きくて、武道の精神について質問を受けて、改めて自分を見直すきっかけにもなりました。
「WIQ」の面白いところはどこですか。
木内さん
どんどん自分の中で発想が広がっていくところです。企業とのPBL(課題解決型学習)は「新しいサービスやモノを提案する」といった普段なら考えないような課題が出ます。友人とお互いにアイデアを出し合っていくのはとても刺激がありますね。「WIQ」を経験して、日常のちょっとしたことについても「なぜ?」と思うことが増えました。自分で論文を読んだり、和洋女子大学の先生に質問したりして、深く掘り下げて考える姿勢が身についたと思います。
日出学園中学校・高等学校(以下、日出学園)は同学園に属する幼稚園・小学校から続く一貫教育を推進している学校です。その一方で、広い地域の公立中学校から入学する生徒が多く、さまざまな子どもたちが少人数制指導により「ありのままでいられること」が大きな強みとなっています。
武善先生
日出学園は、探究活動の授業が情報技術を応用する場になっているのが特色の一つです。WEBページのコンテストやプログラミングによる日常生活の問題解決に挑戦してもらっています。情報科の学びの中で習得した技術・知識を使って、楽しみながら「身近でちょっとした問題」に向き合ってほしいなと願っています。
「探究」の中で取り組んだことを教えてください。
宮内さん
自由に活動テーマが決められるので、SDGsや環境問題も考えたのですが、一番面白いものにしようと「ラブレターの書き方」について掘り下げてWEBサイトにまとめました。文章の構成を学んだり、実際に書いたラブレターについて感想をアンケートで聞いたりしたかいがあって、WEBページのコンテストで入賞でき、とてもうれしかったです。活動をしていたときの「自分の好奇心から学ぶ姿勢」は大学に行っても大事にしたいです。
鈴木くん
スマートフォンの使い過ぎで視力が下がってしまう子どもが増えていると知り、この問題を解決するシステムを完成させました。電気機器を制御する「マイクロビット」がPCやスマートフォンを使う人を感知して、一定時間が経過すると警告を出すというものです。制作中は少しプログラムを変えただけで、システム全体に影響が出るので、その処理が大変でした。問題を発見して改善する力が身についたと思います。
千葉商科大学付属高等学校(以下、千葉商科)は2022年度に新コース制がスタートし、校舎もリニューアルすることで話題の学校。その特色ある教育活動をご紹介いただきます。
下川先生
商業科の2年生の生徒が「企業の困りごと」を解決するために商品開発に挑んでいます。現在、連携先企業は10社にのぼり、ともに特産品づくりなどを進めているところです。有難いことに市川市は、学校との連携に前向きな事業者が多く、優れた学びの機会が得られています。
商品開発の授業ではどんなことに挑戦していますか。
安川くん
現在はクラフトビールを製造する地元企業とともに、新商品を検討しているところです。今までは、道の駅に出店している地元企業とその商品を紹介するフリーペーパーをつくるなどしてきました。いろんな企業と接する中で、市川市の産業を肌で感じています。
商品開発の授業の中で発見したことを教えてください。
犬飼くん
1人で会社を立ち上げた方からお話を聞くこともあって、起業までの経緯、ビジネスを成立させる工夫について教わることができたのが大きな収穫でした。これから社会に出るに当たって、挑戦する気持ちを大切にしたいと改めて思う機会になりました。
企業の現場を見て、どんなことを感じましたか。
宮嶋くん
世の中には本当にすごい人がいるということを知りました。ビールをつくる材料の組み合わせは何通りもあるのですが、つくりたいビールをイメージして的確な組み合わせをすぐに見つけられるという人がいて、とても驚きました。将来、企業人を目指すうえで、活躍している方に出会えたことは糧になると思います。
教科の枠組みに縛られない新しい教育を行うにつれて、生徒・学校がどう変化したか、ここまでにご登場いただいた先生3人に話し合っていただきました。
武善先生
「探究」を通して「面白いな」「もっと知りたいな」という気持ちが高まって、大学受験に向けた義務感から解放される生徒の表情がいつも印象的です。でも、その気持ちは学問の入り口だし、生徒が自己を確立するきっかけにもなっているのではないでしょうか。
中澤先生
探究は学問の入り口であり、社会への入り口でもありますよね。正解のない実社会でより良く生きていくための訓練になっていると思います。課題と向き合い、一緒に活動する仲間に自己開示していく中で、自分の真価を発揮できるようになる生徒をたくさん見てきました。論理的に伝える力も伸びて、それをいろいろな教科の学習に活かしている姿も見られます。
下川先生
本校では商品開発の授業を通して、自分の強みに気づき、自信を持って大学や社会に飛び立つ生徒が増えてきました。「商品ができたら終わり」ではなく、自分がどんな心・スキルの成長を遂げたかを振り返ることを大切にしてきた成果でしょう。
新しい教育に挑戦し続ける3校。これからの教育についての展望について話し合っていただいたところ、それぞれの強みを活かしたコラボのアイデアも飛び出しました。
西脇先生
和洋国府台では「探究」に関して、教員からも生徒からも新しくチャレンジしたいことがたくさん挙がっています。修学旅行の中に組み込んで、体験学習としての要素を大きくしていくなど、いろんな可能性が考えられますよね。
武善先生
今回、お話していて3校コラボでできることもありそうだと感じました。千葉商科と一緒に商品開発に参加させてもらえれば、新しい発想が生まれることが期待できます。
長原先生
千葉商科も和洋国府台と同じく大学の付属校なので、大学の専門性が高い先生方にご協力いただくこともできるかもしれません。学校外のさまざまな機関と信頼関係を築きながら、さらに一歩進んだ教育活動にチャレンジしたいですね。