inter-edu’s eye
女子美術大学付属高等学校・中学校(以下、女子美)では、3つの「美」を学びます。勉学を大切にする「智の美」、自己表現の場を見つける「芸(わざ)の美」、美術を通して自分と向き合う「心の美」です。この中でも「智の美」は、単に知識を学ぶのではなく、「心の美」に結びつく「思う・考える・感じる」経験を得ることに繋がっています。女子美生は、美術をどのように活かしながら、勉学に励んでいるのでしょうか。美術と共通することが多いという、理科についてお話をうかがいました。
女子美生はものの見方やこだわりが違う!
女子美では、どのような授業が行われているのでしょうか。理科の小幡 芽里先生に教えていただきました。
授業の様子についてお話をうかがったのは、理科(化学)を受け持つ小幡先生。
生徒が見せる授業への意外な反応
インターエデュ(以下エデュ):普段の学習風景を通して、女子美生にはどのような特徴があると思いますか?
小幡先生:受験勉強を終えたばかりの中学1年生は、吸収力や知識欲が旺盛ですね。例えば、ある粉の成分を明らかにする実験で、普通だったら、粉を熱して黒くこげ、甘い匂いがしたら砂糖だと分かってそこで終わります。ところが、「溶け方がきれいだよ」と言って、溶けていく様子をみんなで観察するんです。女子美生は、本当に思いがけない反応を見せてくれます。
机に座りながら教わるだけでなく、自分で体験して確かめることが好きだから、そういった感じ方ができるのではないでしょうか。実験の際には、生徒自身が仮説を立てながら、自由にさまざまなアプローチで観察を続けていきます。教科書の中だけでは理解しにくい内容を、大胆な発想から深く学ぶ力を持っているのが、女子美生の特長だと思います。
こだわりがあるから、勉強も深堀りできる
廊下に掲示された授業課題(元素カード)の作品一枚一枚に生徒の個性が見てとれるという小幡先生。「同じものを創らない」のが、女子美のルールだそう。
エデュ:生徒たちの自由な発想が見られる例はありますか?
小幡先生:高校1年生では、クラスごとに一人一枚ずつ、イラストで元素記号を紹介する元素カードを作ります。みんな、こだわりがあるので、どの元素を選んでも、オリジナリティを出すためにものすごく調べます。中には、私が知らないことまで調べてくる生徒もいました。
覚えなければならないことはたくさんありますが、このような自主的に学ぼうとする姿勢が、勉強にはとても必要なのではないでしょうか。
「何を伝えたいのか」を真剣に考えてつくられた、理科の夏休み研究作品。楽しさを残しつつも、しっかりと化学を意識している点は、さすが女子美生!
エデュ:先生は、授業でどのような力を身につけてほしいと考えていますか?
小幡先生:理科では、仮説を立てて、実際に試して、考察までするプロセスが大切です。このプロセスが定着してくれたらと思います。
今の社会は、インターネットなどでいろいろな情報や、“答え”も溢れていますが、生徒たちが物事を自分で判断できるように、あらゆることを調べたり、疑問を持つ姿勢を身につけてもらいたいです。美術は、答えがないところから生み出していくものですから、女子美の生徒たちにも、こうした考え方は合っていると思います。
美術と理科の相互作用が生徒の世界を広げる
理科のささいな知識が、美術と深いところで通じているとお話しされる小幡先生。
エデュ:理科と美術はどのようなところで通じていると思いますか?
小幡先生:例えば、絵の具はどういう成分でできているか、などです。高校生になると油絵が始まるのですが、油絵具では混ぜてはいけない成分があります。特定の鉱物が化学反応を起こすと酸化して黒くなるからです。また、彫金でも金属を使うので、そうしたものに理科の知識を繋げられたらと思います。
あとは、授業で「玉ねぎ染め」をしたことがきっかけで、卒業制作で「染め物」を選んだ生徒がいました。
また、理科に関係することなら何でもいいという夏休みの自由研究を出しているのですが、その自由研究でやったことが、美術のテーマ選びに繋がった生徒もいましたね。
理系に進む生徒もしっかりフォロー
多くのキャリア教育を通して、生徒一人ひとりに適した進路を選ぶことができる環境です。
エデュ:理科に関心を持ち、美術系から理系に転向する生徒はいますか?
小幡先生:多くはないですが、確かにいますね。今年は、3人が理系の進路を選択をしているので、受験対策として放課後に生徒個人に合わせたフォローをしています。全教員ができるだけ生徒の希望に応えたいと考えているので、放課後はお互いにとって大事な時間となっています。
女子美のキャリア教育は、「なりたい自分」になるための力を養う指導として位置づけられています。
エデュ:最後に、先生が授業を通して生徒に伝えたいことを教えてください。
小幡先生:理科の実験のように、思い通りの結果が出ないことはありますが、そんな時でも、ひとつのことを根気強く続けてほしいです。中高時代が一番自分を成長させる時期なので、すぐに苦手だと決めつけずに色々な経験をしてもらいたいです。
勉強は、自分のためにすることです。女子美生は、さまざまな勉強を通して自分の好きなことに向かっていく力を持っていると思います。
編集者が見たポイント
「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、今回の取材を終えて、女子美の生徒たちは、まさに「好き」を美術だけでなく、他の教科を学ぶ力にまで変えていることが分かりました。それは、女子美が目指す3つの「美」の中のひとつ、「智の美」を体現する姿勢と言えるでしょう。
美術系の学校では、一般科目が心配になるお母さまもいらっしゃると思いますが、実際には、生徒自らが興味を持ち、しっかり深く学んでいます。ぜひ、学校に足を運び、生徒たちが意欲的に学ぶ姿を見て確かめてください。