新緑の校外スケッチ旅行!潮風を味わいながら観察力や表現力を養う
inter-edu’s eye
美術を中心に感性を磨き、創造性豊かな人間の育成を目指す女子美術大学付属高等学校・中学校(以下、女子美)。いろいろな素材に触れ、作品づくりを楽しめる同校では、学年ごとに「校外スケッチ」というカリキュラムがあります。2022年5月、中2生たちは、横須賀で実施された校外スケッチに向かいました。横須賀美術館でアート鑑賞をし、美術への関心を高めたほか、メインの風景画実習では観音崎岬でスケッチに取り組みました。
五感を研ぎ澄まして創作の楽しさを味わう
海や岩、教室の静物とは違う動く自然を描く難しさ
この日、生徒たちは10時に横須賀美術館に集合し、昼休憩を除く4時間、スケッチに取り組みました。先生は生徒たちのスケッチの配分を考慮しながら、構図や彩色についてアドバイスをして回ります。とはいえ、普段の授業で、教室内で静物を描くことには慣れていますが、常に動いている海や船を描くことには不慣れな生徒たち。さらに、明るさが一定の教室に対し、屋外は太陽の位置が時間で移動するため、モチーフの見え方も変わっていきます。そのため、生徒たちは試行錯誤しながらスケッチに取り組みます。
モチーフを決める前に大の字になって横たわり、背中に伝わる大地の暖かさを実感し、自分の体を使って五感を研ぎ澄ませて下書きに取り組む生徒、数分でたくさんの下書きを描く生徒と、取り組み方は千差万別。一人ひとりの個性を尊重した創作を推奨する女子美ならではの学びを感じる一幕でした。
観音崎岬は、生徒たち以外は釣り人や地元の人たちが数名いる程度で、都会とは打って変わった静かな場所。耳を澄ますと、鳥のさえずりや波のせせらぎが聞こえ、潮や新緑の青葉の香りが鼻腔に流れ込んできます。
校内とは全く違う風景を前に黙々と描き進める生徒たち。その集中力は、こちらが驚かされるほどでした。
透明水彩絵の具ならではの重ね塗りで絵に光や影を生み出す
今回の校外スケッチでは、透明水彩絵の具を使った水彩画に挑戦。透明水彩絵の具は、塗った色が下の色を覆い隠さないため、明るい色を塗ってから暗い色や濃い色を重ねるのが原則です。生徒たちは思い思いに、薄めた色水で空や波、岩に彩りを加えます。それは、絵の具を塗るというよりも、色水を紙に染み込ませているかのようでした。一見、無造作に紙に染み込ませた色水が、重ねるごとに、濃淡明暗になり、色の重なりが立体感となって、空や波に奥行きが生まれる過程は、まるで作品に生徒たちが命を込めているようにも見えました。
スケッチ後は講評会を実施。その日の制作を振り返り、友達の作品に刺激を受け、創作意欲がさらに高まったとのことです。スケッチをして学習が完結するのではなく、同じテーマで友達はどのような絵を描くのかを鑑賞、比較、意見交換することで、新たな創作のヒントを探究するのが女子美流の風景画実習です。
今回、校外スケッチに同行する中で、生徒たちが見たままの風景を描いているのではなく、横須賀の気候風土を肌で感じ、創作していることが伝わってくる取材となりました。
波の動きや光の変化を実感!さまざまな切り口でスケッチする生徒たち
校外スケッチの途中で、3名の生徒にスケッチで意識したことや感じたことなどをうかがいました。
何を描きましたか。また、実際に描いてみて難しかった点や発見はありましたか?
Yさん海と岩を描きました。海の波の細かい影や、岩が反射して少し茶色くなっている色の加減が難しかったです。また、波は常に動いているので、下書きで形を捉えるのが大変でした。岩に光が当たることで、色が何層にも重なっている様子を表現するためには、絵の具を淡く重ねてにじみを活かすとうまくいくことが分かりました。
Aさん海を描いています。岩の黒い部分と白い部分や、影の部分と光の部分の色の表現が難しいです。光と影の重なり合う部分といえば伝わるでしょうか。その表現に苦労しました。水平線のほうからこちらに向かって、手前の波に光が当たって白っぽくなっているのを、ただ白く塗ってしまうと奥行きが出ないので、薄い水色を重ねて、濃淡で奥行きが出るように工夫しました。
Nさん海と岩を描きました。校内の授業では、先生が用意してくださるモチーフをみんなで囲んで描くのですが、今回は選べるモチーフが無数にあって、何を描くか迷いました。
あとは、静物と違って動くものばかりで大変でしたね。最初は船を描いていたのですが、描いている途中に遠くに行って小さくなってしまい、構図の遠近がおかしくなって……。結局、動きに左右されず、自分が一番かっこいいと思った瞬間を、心の中で切り取って描きました。
今回のスケッチ体験を今後の創作にどのように活かしたいですか?
Yさん海は、独特の空気感があり、イーゼルを使わずに描くことも新鮮でした。今日感じた自然の開放感を忘れずに、今後も絵を描いていきたいと思います。
Aさん今見えている情景を模写するだけだと、ただの絵になってしまいます。だから、海の匂いや潮の音などを絵に込めて、思いが伝わるように創作していきたいです。
例えば、ぬいぐるみを描くとして、実際に触って、フワフワ感やモコモコ感、そういうオノマトペも伝えたいなと。匂いや感触が伝わる絵を描きたいですね。
Nさん潮や風の匂いを嗅いで五感が刺激されました。そうした目に見えないものを、作品の中に練り込むのは教室だとできないことだったので、今後は教室でも同じように空気感を作品に込めたいと思います。
外の空気に触れて五感を使って創作をしてほしい
最後に、ご担当の佐野先生に今回の校外スケッチの目的や生徒の成長についてうかがいました。
校外スケッチの目的を教えてください。
佐野先生授業でもスケッチをしていますが、目で見るだけではなく、「心をこめてものを観る」ことを大切にしています。例えばレンガを描く際は、実際の重さを感じられるように描く、といったことです。校外スケッチは、そうした目に見えないものを、校内以上に感じることができる機会です。生徒たちは、都心にはない自然の光景や、そこに流れる空気を感じながら、それぞれの美を探究し、豊かな観察力や表現力を育んでいきます。
生徒の成長を感じる瞬間はありましたか?
佐野先生絵を描く場所を決めるのが第一関門だったと思います。普段は与えられているモチーフを描いているので、絵にするためには何を大切にしたら良いのか、生徒たちは試行錯誤しながら気づきを得ていました。また、描き方や捉え方、表現の仕方もさまざまで、改めて生徒たちの個性が多様で、豊かに育っていると感じました。
編集後記
生き生きとした表情でスケッチブックに向かう生徒の姿を見て、先生の思いが伝わっていると確信する校外スケッチでした。そして、改めて女子美の生徒は、目で見たものを正しく描き写すという見方だけではなく、見ているモチーフと自分がどう向き合うかという感覚が備わっていると感じる取材となりました。ぜひ学校説明会などに足を運び、創作活動を楽しむ生徒の姿や同校の雰囲気を体感してください。
イベント日程
イベント名 | 日時 |
---|---|
公開授業(中高共通)※要予約 | 2022年6月18日(土) ①8:35~10:30 ②10:40~12:40 入替制 |
美術のひろば(小中学生および美術の先生対象)※要予約 | 2022年8月5日(金)、6日(土) |
体験学習(小学生対象)「お花や好きなモチーフを描こう!」※要予約 | 2022年9月11日(日) 午前の部10:00~/午後の部13:00~ |
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