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「科学技術人材の育成・探求力に富む人材の育成」を目的に、文部科学省(以下、文科省)が推し進める「スーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)」事業が注目されています。茗溪学園中学校高等学校(以下、茗溪学園)は2011年にSSH指定校となり、昨年まで5年間にわたり、科学技術を中心とした研究開発やカリキュラムを実施してきました。その成果が認められ、このたび第2期のSSH指定校に再び選ばれました。
茗溪学園の連載初回となる今回は、従来の活動を振り返るとともに今後の発展について、数学科の教壇に立ちながらも高1生の学年主任とSSH推進委員長を務める宍戸雄一先生に話をお聞かせいただきました。
茗溪学園が目指すSSH活動の在り方
文科省が未来を担う科学技術系の人材を育てることをねらいとした「SSH」。茗溪学園では、どのような目的でSSHの指定を受けたのでしょうか。
宍戸先生:本校は創立以来、高校2年次に「個人課題研究」を全員に課しています。各自が興味・関心のあるテーマを設定し、担当教員の指導を受けながら、それぞれの研究に1年間取り組みます。この「個人課題研究」を通して目指す本校の人材像が、まさにSSH事業の目的と重なっていることから指定校に手を挙げました。SSHの指定を受けることにより、これまで続けてきた取り組みをさらに充実させていきたいという思いもありました。
SSH事業の目的
また今後、学校教育に求められるものがますます変化していく中、教員が共通の目的を持ち、教育に向かっていく必要があると考えています。目標に沿った「評価法」を開発し、「探求力」(問題発見力・問題解決力等)を高める授業をすべての教科で行っていくことは、茗溪学園が取り組もうとしている教育改革・授業改革の主要部でもあり、SSHの事業計画とほぼ一致しています。
充実したSSHプログラムの実施内容
具体的にはどのような内容を実践したのでしょうか。また、その成果について教えてください。
宍戸先生:第1期のSSHでは、夏休み前と冬休み前に、普段の授業では行うことのできない体験学習や校外研修を行う目的で「スタディゾーン」という時間枠を設置しました。この「スタディゾーン」も含め、高大連携・高研連携の一環として行われた活動の例をいくつか紹介します。
まずは、筑波大学の先生による講演会・分科会を開催しました。高1生に対象にして、学問分野への興味関心を高め、進路意識を向上させてほしいという目的から、「大学で学ぶとは」がテーマの全体講演会の後、生徒自身が希望する分科会を1つ選び、筑波大学の各学類の先生方から、研究の最先端についての講義を受けました。大学の先生や高校の卒業生から直接お話しが聞けたことで、生徒は大学に対して具体的なイメージを持てるようになった様子でした。さらに、ノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生による講演会なども実施されたことで、今後の学習活動に対してもよい刺激になったようです。
また、茗溪学園の卒業生であり国立環境研究所の地球環境研究センターで活躍されている白井知子先生の講演会も開催しました。こちらも高1生を対象にして、環境研究の最前線を知り、現在の地球環境の状況を把握してもらうことが目的です。
「個人課題研究が仕事になった?-地球を取り巻く大気と環境問題-」をテーマにした白井先生の講演会の後、6つのテーマから2つの分科会を選択。生徒は、「温暖化・酸性雨・放射能」などの環境問題についてよく知る機会になりました。
そのほか、希望者を対象にした「科学倫理ワークショップ」や、つくばインターナショナルスクールの生徒と英語で交流を深める「理科実験交流会」、文科省の「コアSSH」指定事業である「ジュニアサイエンスキャンプ」なども実施。
高校2年次は「個人課題研究」の発表を全員が行い、その中から優秀研究の発表も行う「SS研究・個人課題研究発表会」にも挑戦します。これは、SSH指定校となる以前から続けられてきた取り組みに通じるものです。
6年目のSSH指定校としての活動を経て、明らかに向上したのは生徒のプレゼンテーション能力です。あらゆる活動の中で、結果をパワーポイントにまとめ、発表する機会を作っており、それが最終的に「個人課題研究」の発表力強化につながっていると感じています。
また、以前に比べ、発表するためのICTスキルが高まっており、全員がさらに実践的に使用ができるようになってきました。
全員参加のIB型カリキュラム
今後、深めていきたい教育プログラムはありますでしょうか。
宍戸先生:高2生での「個人課題研究」をより充実させるため、高1生から「ミニ研究」に取り組ませています。研究のテーマ設定、研究の実施、結果のまとめ、ICT活用による発表のプロセスを一通り経験させ、高校2年次の本研究につなげていきます。
また、多くのSSH指定校では、少人数の対象者だけが研究活動しているようですが、茗溪学園での探究活動は、これまで同様に「生徒全員が対象」で行っていきます。
今年度から「国際バカロレア・ディプロマ プログラム」(IBDP)がスタートしたことに伴い、IBではない一般クラスでは2018年から、高2生を対象に理科・数学の少人数クラスの開始を予定しています。高校の教育課程の枠を飛び出した、よりハイレベルな学びを目指します。理数課程でも、IBのカリキュラムを参考にして、ICTを活用しながら発展的な授業を進めていきます。
茗溪学園では学年の約2割が帰国生であり、校内には常に世界中から長期・短期の留学生たちが多く在籍しています。今夏に16名の編入生が入学、9月よりベトナムと台湾からの私費留学生や国費留学生が入学し、今後さらに東南アジア、中華圏からの留学生の入学が予定されています。
編集者から見たポイント
茗溪学園のSSHには4つのポイントがあるとお聞きしました。1つめはSSHの活動に全員が参加できる点。2つめは個人が課題研究に取り組み、探究能力とプレゼンテーション能力を向上させる点。3つめは英語で科学を学ぶ点。4つめは筑波大学や大学同窓会(茗溪会)を中心に幅広い支援や助力を受けられる点です。
宍戸先生からの「さまざまなチャンスがあり、やりたいと思うことをいくらでも実現できる学校」というお言葉どおりに、茗溪学園は“お子さまの可能性が広がる先進の教育”を実践する学び舎と言えるのではないでしょうか。