宝仙学園中学高等学校共学部 理数インターには、独自の教科「理数インター」という授業があります。生徒が答えのない学びに取り組む教科で、正解も不正解もないのでテストはなく、成績がつきません。名物授業として在校生に人気があり、“教科「理数インター」を受けたい”と入学を熱望する小学生も増えています。同授業には学年ごとにテーマがあり、中1は「コラボレーション」、中2は「プレゼンテーション」、中3は「ラーニング」です。そこで、どのようなコラボレーションが起きているのか、中1の授業を見学してきました。
中1の教科「理数インター」の授業レポートです。コラボレーションというテーマに基づき、同授業ではグループでドミノをしたり、積み木を使ったゲームをしたり、ときには旅のプランを考えたりしています。そして今回は新しいカードゲームに挑戦するようです。
授業をするのはアクティブラーニング用の教室「ICT3」。ちゃぶ台や座布団が並び、生徒と生徒の距離が自然と近くなる空間です。
グループに分かれてカードゲームのルールを聞きます。牢獄にいる泥棒を逃がさないよう、全ての通路を行き止まりにしたらプレイヤーの勝利。グループで協力し、目的達成を目指すゲームです。
メンバーはさまざまな種類の道が描かれた手札を持ち、順番に一枚ずつ出して道をつなげたり、行き止まりにしたりします。
カードの置き方には決まりがあり、該当しない手札は出すことができません。さらに、ゲームを面白くするポイントとして、手札を仲間に見せることは禁止です。そうしたなかで全ての道をスムーズに行き止まりにすることは容易ではありません。メンバーは手札を明かさず、しかし同じ目的に向けて相談しながらゲームを進めます。
ゲームが始まりました。すぐに行き止まりにできる道もあれば、そうでない道もあります。各テーブルから「私、出せるカードがない」と窮状を訴える声や、「今出したカード、そこに置かないほうがいいんじゃない?」と提案する声が。どのグループでも意見が飛び交います。
全ての道を行き止まりにしたチームは挙手して先生に報告。メンバーは達成感でいっぱいの表情です。
授業の最後には、1学期の教科「理数インター」を振り返り、感想を書きました。
授業が終わった生徒に感想を聞きました。
カードゲームをしているとき、グループでどんな話し合いをしましたか。
メンバーの手札が分からない状態で、「どこを塞げばいいか」「どこの道はつなげるべきか」と考えることが大変でした。自分が行き止まりを作れるカードを持っていたら「ここ、塞いじゃっていい?」と聞いたり。
白熱してくると、「まじで」「ガチで」とか、普段は言わない言葉を口にする子がいて発見があります。クラス全員の前だと言えなくても小さなグループだと素が出るし、自分も素が出ちゃうし。
この授業は盛り上がったり真剣に取り組んだりすることが多いから、そのなかで自分をさらけ出していって、みんなの性格が分かってきます。
なかなかクリアできないとき、グループの雰囲気が悪くなったりしましたか。
そういうときは私の出番。グループにいる陽キャがみんなを盛り上げます。
僕は作業を進めるタイプ。工作が好きだし。
そういう役割分担は自然とでき上がっていくのですか。
前からなんとなくそういうタイプだと思っていたけど、この授業でみんなを盛り上げることが多いことから自分の立ち位置を確信しました。
教科「理数インター」で、iPadを使ってモザイクアートをみんなで作ったことがあり、そのときに出来栄えを褒められて、「自分はやっぱり絵や工作が得意なんだ」と再確認しました。
1学期の教科「理数インター」を振り返って、いかがですか。
取り組んだことは違っても、共通しているのは“話し合いをすること”。それが印象に残っています。
最初の頃に取り組んだドミノ倒しが印象に残っています。まっすぐ並べたほうがいいのか、丸いテーブルに沿ってぐるっと並べたほうがいいのか、ドミノでもみんなと相談しました。
ドミノ倒しがクラスの友達と仲良くなるきっかけになりました。
最初はただ相談したり意見を出したりするだけだったけど、授業が進むにつれて、「どうしたらうまくいくか」「どう改善すべきか」と考える場所に変わってきてるなと感じています。
中1の教科「理数インター」を担当している馳川先生と遠藤先生。生徒インタビューを横で聞いていた二人はニコニコ、ニヤニヤ。その理由は一体?
先生、表情が緩んでいますが、どうしましたか。
話し合いの場を設けることは大事にしていたので、それを生徒が自覚してくれていたことと、自分を開示できる場だと言ってくれたことが、もう、本当に嬉しくて。
嬉しいし、今の生徒の話に勇気をもらいました。中1、中2の段階だと“楽しい”が大事なキーワードなのですが、だんだんハードルを上げて、“楽しいだけじゃない”ようにしていく必要があります。今回の授業で扱ったカードゲームがまさにそうで、楽しむだけじゃなく、相談しながら目標達成を目指す内容でした。
「そのカードを置くのはやめたほうがいいんじゃない?」と、仲間の行動を否定したり疑問を呈することには抵抗があるけれど、目的のためにはやらざるを得ない。生徒は授業中、そうした意見交換ができていましたよね。
そうだね。目的を達成するためには声をあげないといけない。反対に、自分が適したカードを持っていないときにも、きちんと伝えないといけない。つまり、弱みをさらけ出したり助けを求めたりしないといけないわけで。そんなときには、メンバーが「こっちが何とかするよ」「僕が道を封じるから大丈夫」と言ってあげていたね。
本当にいろいろな種類の会話が飛び交っていました。「何を出すべきか」といった一時的なものから、「今ここにカードを置くのはやめておこう」といった先を見据えた戦術的なもの、適したカードが出せない生徒に「いいよ、大丈夫」と援護する声かけまで。
ルールの解釈も良かったよね。最初は、私たちが詳しく話そうかと思ったけれど、ざっくりした説明にとどめて生徒に委ねてみたら、「手札を見せずにメンバーに内容を伝えたいとき、どこまで説明していいんだろう」「内容を明かしてしまうとゲームがつまらなくなってしまう」と話し合いをしていた。コラボレーションの質が随分変わってきたと確信しました。
小学校を卒業したばかりの“元気で発言が多いだけ”という状況から、建設的な話し合いができるようになっています。「みんなの前では言えないけれど、小さいグループだから素が出せる」という発言がありましたね。中1で始めた“コラボレーション”が熟してきているけれど、次の段階で中2のテーマである“プレゼンテーション”にはまだ高いハードルを感じていることがうかがえました。
各学年のテーマ以外で、教科「理数インター」で力を入れていることはありますか。
見えない学力、非認知能力の向上です。外部のサービスを導入して、テストで測れないことを数値化しています。例えば中1では、1学期に自分自身についてのアンケートを実施し、自己評価を出しました。2学期にはAくんをよく知る生徒3名に、Aくんがどんな人か回答するアンケートを実施し、他者評価を出します。大抵、自己評価が低く、他者評価が高い傾向にあるので、それを伝えると本人の自信につながったり、新たな気づきがあったりします。この教科をきっかけに導入したツールですが、各クラスの担任も注目して情報を参考にしたり、保護者面談で内容を伝えてくれたりしています。
最後に、馳川先生が感じる教科「理数インター」の魅力を教えてください。
成績がつかないので、生徒は大人の評価を気にせず、のびのび発言できます。ただ、“教科「理数インター」ならできて国語ではできない”というのは嫌なので、この教科の良いところを各教科に還元していきたいと思っています。
1学期でコラボレーションの質が大きく変わるほど成長していた中1生たち。授業を楽しみ、クラスメイトとの交流を深めながら、見えない力を伸ばしていることがうかがえました。教科「理数インター」は、受験生向けに体験授業を実施しています。K.O.さんは小学生のとき体験授業に参加し、学校への関心を高めて受験したそうです。学校公式サイトで最新のイベント情報をぜひチェックしてみてください。
宝仙祭(文化祭) | 2023年10月21日(土)・22日(日)10:00~15:00 |
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親子で楽しむ『理数インター』体感授業 | 2023年9月30日(土)14:00~15:30 |
中学説明会(来校・オンライン) | 2023年10月28日(土) 14:30~16:00 2023年11月18日(土) 14:30~16:30ポイント会 2024年1月6日(土) 14:30~16:00ポイント会(公立一貫) 2024年1月13日(土) 14:30~16:00ポイント会(2科・4科) |
入試体験会 | 2023年12月16日(土) 8:30~12:00 |
企画・編集:インターエデュ・ドットコム
提供・取材協力:宝仙学園中学高等学校共学部 理数インター
全ての道をふさぐことはできなかったけれど、「こうやったら塞げるんじゃないか」と、作戦をみんなで出し合って進めることはできました。